第40話 ミリオンドリーム
「と、この通り見た目を変える魔法だ。基本ネタ魔法だが、同じ見た目の敵にタゲられないって効果がある。普通は自分かパーティー内の味方にしかかけられない呪文だ」
「だよね。それが敵にかかるとどうなるの?」
「特殊なデバフ扱いだ。相手の状態異常抵抗に応じて最長三秒ランダムに変身したモブと同じステータスになる。流石にHPは除くがな」
「それってゾンビがドラゴンになったらドラゴンの強さになるって事?」
「そうだぜ」
「意味ないじゃん!?」
「そうでもない。実際は猫だの馬だの人型NPCだの無力な姿に変わる確率の方が高いからな。攻撃力は勿論、防御抵抗も駄々下がりで呪文や特殊攻撃も封じれる最強のデバフってわけだ」
「超強いじゃん!?」
あっさり未来は掌を返すが。
「でも両手剣だよ? 振り速度はかなり遅いし、10%じゃほとんど発動しないんじゃない?」
「あぁ。だから一般的には外れ扱いされてる」
「結局ハズレじゃん!?」
未来は一喜一憂するが。
「ま、それも使う側の工夫次第だ。装備やスキルで上手く手数を増やせたらパーティープレイならそこそこ使えるデバフ要因になる。実際刺さる敵にはかなり刺さるからな。あと、この武器は元ネタがあるし普通にかっこいいからインテリアとして需要があって、外れの中ではまだマシな値段で売れる。効果数値も10%固定だから値段も安定してるしな」
「お~! ちなみにおいくら万円?」
「10万GPって所か」
「じゅ、10万GP!? そんなにするの!?」
「え?」
「え?」
宗谷と未来がお互いに不思議がる。
「い、いや……。AOじゃ10万GPはそんなに大金じゃないと思うんだけど……」
「そうなの!?」
「まぁ、少なくとも大金と言えば1M単位だわな」
時継が肩をすくめる。
「M?」
「ミリオン。100万GPだ」
「ひゃ、100万!? そんな大金見た事ないよ!」
〈そりゃ死んで全ロスしてばっかだったし……〉
〈九頭井と組んでからもスキル上げばっかりろくに金策してないからな〉
〈言うてエンジョイ勢には10万でも大金だろ〉
「そういう見方もある。雑魚狩りで稼げる金なんかたかが知れてるしな」
「うぐぐぐ。ゲームの世界なのに世知辛いよぉ~……」
〈そんなあなたにRMT〉
〈おい〉
〈やめろ〉
「はいイエロー。次言ったら普通にバンすっからな」
『トッキー。RMTってなに?』
気配で良くない事だと察したのだろう。
裏で未来がチャットを飛ばす。
『リアルマネートレード。ゲーム内通貨やアイテムを現実の金で取引する事だ』
『そんなのあるの!?』
『あるけどルール違反だよ。見つかったらアカウントごとBANされる違反行為だから』
『アカウントごとBAN……。ひょぇぇぇ……』
人気ゲームの定めなのか、それでもRMTがなくなる事はない。
他にも自動化された狩りBOTなど、RMTが引き起こす問題は多い。
「ま、そういうわけで委員長の戦利品は10万GP相当って事だ。どうする? 金にしたいなら俺が引き取ってやるが」
「え。トッキー欲しいならタダであげるよ」
「いらねぇよ! そんなもん売る程余ってるっての! そうじゃなくて、アイテム売るには家が必要だから代わりに売ってやろうかって言ってんの!」
AO内でのアイテム販売には二つの方法が存在する。
一つはプレイヤー対プレイヤーの直接トレード。
こちらは色々と手間だが人間相手なので交渉の余地が生まれる。
また、公式公認の外部サイトを使ったオークションなどもあり、高額アイテムや大口の取引に向いている。
もう一つはプレイヤー対プレイヤーショップの間接トレード。
持ち家があればそこに販売員というNPCを雇う事で自動販売機のように使う事が出来る。こちらは色々と煩わしさがないが、家を見つけて貰わないと商売にならない。また、NPCの維持費とトレード成立時に手数料を徴収される。
どちらも一長一短といった所だ。
「なるほろ。う~んどうしよっかな~。記念に取っておきたいけど装備強くするのにお金も欲しいし。取っといても飾る場所ないしな~」
「まぁ、その辺はあとで決めればいい。そんじゃ次は俺行くぞ」
†unknown†が頭部装備を掲げる。
縁が金細工で飾られた赤い皮帽子だ。
〈
〈当たりおめ〉
〈当たりか?〉
〈未来ちゃんいるし当たりの部類だろ〉
「なになに? 良い奴?」
リスナーのコメントに未来が目を輝かせる。
「俺に聞く前に自分の目で鑑定してみろ」
AOを遊ぶならリアル鑑定スキルは必須だ。
物の価値が分からないと折角のお宝を見逃す事になる。
「は~い……。って、凄っ!? 全抵抗22上昇!? これだけで抵抗値110も稼げるの!?」
物理を75まで上げるだけでもヒーヒー言っている未来には夢のような防具だろう。
「あ、それ僕も使ってる。特殊な効果はついてないけど、抵抗稼ぎに丁度いいよね」
「最大数値なら全抵抗30アップだからな。これだけで150稼げるのはデカい。お陰で一度装備したら中々外せない呪いの金縁なんて呼ばれてるくらいだ」
皮装備なのでメイジでも使いやすいく(金属装備だとマナ回復に関係する【瞑想】スキルが疎外される)、典型的な初心者装備である。
AO界隈ではこれを脱げたら一人前という説もある程だ。
「ちなみに市場価格は20万ってとこか」
「に、20万!? 私の変身剣より高い!」
「こっちは実用性がある上にどんなキャラでも使えるからな。需要が高けりゃ値段も上がる。最大数値なら倍以上するぞ」
「すごいね時継君……。それ、全部覚えてるの?」
「流石に全部じゃないが、大体は感覚でわかるな」
〈やっぱこいつ商人だろ〉
〈言うて廃人プレイヤーは大抵ショップ持ってるしな〉
〈そもそもまだ高一だろ。廃人とかあり得るのか?〉
その辺の疑問は例によってスルーしつつ。
「……まぁ、なんだ。復帰祝いって事でこいつは委員長にやるよ」
†unknown†がミライにトレードを申し込む。
「えぇ!? いいの!?」
「自慢じゃないが金もアイテムもあり余ってる。宗谷も持ってるみたいだしな。オーガ窟攻略じゃ無理させちまったし……だぁ! とにかくやるって言ってんだろ!」
これからもダンジョン配信を続けるなら未来のキャラの強化は急務だ。
時継が神アイテムを施すのは簡単だが、それでは配信が盛り上がらない。
ダンジョン攻略で手に入れたアイテムの融通なら許される範囲だろう。
ただそれだけの理由である。
……ほんとうだぞ!
〈ほんまそういう所やぞ九頭井〉
〈久々のクズ×みらてぇてぇ〉
〈やっぱこれなんだよなぁ〉
〈甘酸っぱくて練乳飲んだわ〉
「う、うるせぇリスナー! そんなんじゃねぇって言ってんだろ!?」
言った所で無駄なリスナーである。
そんな時継を未来は微笑ましそうに見つめて金縁を受け取る。
「ありがとうトッキー! 大事に使うね!」
「……だから、売る程持ってるって言ってるだろ。大事になんかしなくていいんだよ」
「そうかもしれないけど。これはトッキーがくれた世界に一つのアイテムだから。みんなで頑張って手に入れた記念品でもあるんだし。やっぱり私は大事にしたいなって」
「……好きにしろ」
〈首元が赤くなってる〉
〈嬉しいねぇ〉
〈爆発しろ!〉
「なってねぇっての!? バンすっぞ!」
「「「横暴だ!」」」
いつもの流れをやりつつも。
「う~ん。最後は僕か……」
「なんだよ宗谷」
「元気ないよ?」
「多分一番のハズレアイテムだから。出来れば最初が良かったなって」
苦笑いで言うと卍槍矢卍がアイテムを頭上に掲げた。
「……はぁ?」
「なにこれ! 可愛い~!」
卍槍矢卍が掲げたのはボルガをデフォルメしたぬいぐるみである。
「装備アイテムじゃないからなんの効果もついてないし。こんなの手に入れても需要ないよね?」
困り顔で宗谷が肩をすくめる。
〈おいおいマジかよ〉
〈やっぱこいつ持ってるわ〉
〈イケメンなのにリアルラックも高いとかチートかよ〉
「えぇ? これってそんな良いアイテムなの!?」
コメントに宗也が戸惑う。
「良いもなにも、他のボスは落とさないボルガ専用の限定アイテムだ。ただの内装アイテムだが、だからこそある程度金のあるプレイヤーはみんな欲しがるコレクターアイテムみたいなもんだ」
「ちなみにお値段は?」
前のめりになって未来が聞く。
「3M」
「さっ――」
「300万!?」
三本指を立てる時継に未来が叫んだ。
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