第39話 月の紋章の剣

〈うぉおおお!〉

〈ボス倒したらそのまま未来ちゃんが寝落ちして配信どころじゃなくなったもんな〉

〈戦利品って言っても低級ダンジョンで手に入るマイナーAFくらいだろ。たいして使い道ないゴミしかなくない?〉

〈廃人目線じゃなかったら普通に使えるアイテム多いから〉

〈特定のビルドで必須のパーツもあるしな〉

〈ショップで買えばいいだろ〉


「それは違うよ。みんなで力を合わせて頑張って手に入れたアイテムだから価値があるんだ。少なくとも僕にとっては忘れられない思い出の品になると思う」


 真顔で言う宗谷に時継がひゅ~と口笛を鳴らす。

 未来も「わ~お」と目を丸くした。


「え、僕変な事言っちゃった?」

「ううん、全然! そんな風に真っすぐ言葉に出来るなんてすごいなって思って。トッキーもそう思うでしょ?」

「あぁ。よくもまぁそんなクサい台詞を大真面目に言えたもんだと感心したぜ」


 茶化す時継を「トッキー!?」と未来がたしなめる。

 宗也は「あははは……」と苦笑いを浮かべ。


「でも、本当の事だから。なにかにこんなに熱くなれたのはバスケをやってた時以来だからさ……。もう二度とこんな気持ちにはなれないと思ってたから……。僕、すごく嬉しいんだ」

「宗谷君……」


〈泣いた〉

〈わかる。物より思い出だよな〉

〈俺が間違ってた〉

〈それに比べてこっちのクズは〉


「うるせぇな。そんなもんAOハマった事ある奴なら誰でも知ってる事だ。言っとくが、お楽しみはまだまだこれからだぜ?」


 ニヤリとする時継に、宗也が笑顔を弾けさせる。


「うん! 期待してるよ!」


〈¥2000 時×宗てぇてぇ〉

〈¥4000 いいぞもっとやれください〉

〈¥30000〉


 飛び交うスパチャに未来がジト目になる。


「……なんか私より宗谷君の方がこのチャンネルのヒロインぽくなってない?」

「仕方ねぇだろ。こいつとイチャイチャしてる方が金になるんだから」


〈¥921 営業感謝〉

〈¥921 ビジネスでもいいです〉

〈¥921 開き直ってからが本番〉


「愛敬さんを差し置いて僕がヒロインなんて恐れ多いよ!」

「こいつもこんなだしな。俺はもう諦めた」


 大真面目に言う宗也にやれやれと肩をすくめる。


「話を戻すが、マイナーAFが全部パッとしないゴミってのは大間違いだ。てか、腐ってもAFだからな。庶民じゃ手の届かない高級AFの代用品として一定の需要がある。つまり金になるわけだ。委員長は貧乏だし、宗谷だってそこまで装備が揃ってるわけじゃない。売って活動資金にするもよし、使えそうなアイテムなら自分で使ってもよし。むしろそいつを使う為に新キャラを作るって選択肢もある」


〈あるある〉

〈俺も初めて手に入れたAFが弓だったから弓キャラ作ったわ〉

〈なんだかんだAFって夢があるよな〉


「その通り」


 パチンと時継が指を鳴らす。


「AFには夢とロマンが詰まってる。マイナーAFもそれは同じだ。まぁ、リスナーの言う通り大半は小金程度にしかならねぇが。中にはドカンと大金が転がり込む大人気アイテムもあるわけだ」


〈あるか?〉

〈ある〉

〈高数値のサイコロ指輪リングオブダイスとかだろ〉


「サイコロ指輪? なにそれ?」

「ごめん。アイテムはあんまり詳しくなくて……」

「まぁ、AOのAFはクッソ多い上に大型アプデの度に追加されるからな。初心者が知らないのは無理もねぇ。こいつは名前通り、サイコロみたいな見た目の指輪だ。効果もサイコロじみてて、幸運、STR、INT、DEX、5種の防御抵抗が一定の振れ幅で上下する」

「え、すごい! そんなに沢山効果つくの!?」

「確かに凄そうだけど……。上下って事はマイナスが付くこともあるの?」

「あぁ。いかにもサイコロって感じだろ?」


 時継がニヤリとする。


「AFにつく装備効果は固定だが、数値は決まった幅で変動する。と言っても、大抵の装備はそこまで大きな変動はない。流石に誤差とは言えないが、まぁ妥協できる範囲だ。けど、こいつの場合、その幅がメチャクチャデカい上にマイナスが付く事もある」

「じゃあ、折角手に入れても全部マイナスのゴミゴミ装備になるかもしれないって事!?」

「そうだぜ。面白いだろ? 基本的に入手時のアイテムは未鑑定状態だから、未鑑定のこいつを大量に買い集めて鑑定する配信なんかがあるくらいだ。まぁ、これも一種のガチャみたいなもんだな」

「そんな配信もあるんだ……」


 宗也が感嘆の声をあげる。


「だから、AFを扱う時は装備効果の数値を見るのも大事だ。真ん中より上なら良品だし、下ならイマイチって事になる。当然売る時は数値が高い方が高値が付く。サイコロ指輪みたいにギャンブル性の高いAFは未鑑定のまま売る事が多いな。あと、世の中には酔狂なコレクターがいるから、どんなAFでも最高値の品は一定の需要がある」

「ほぇ~」

「……時継君ってなんでも知ってるんだね」


 二人が感心した顔をする。


〈俺も知らなかった〉

〈だから未鑑定品売ってる奴いるのか〉

〈やっぱこいつメインは商人だろ〉


「バーカ。これくらいある程度AOやってりゃ常識だっての。基本、装備はショップかトレードで揃える事になるし。知識がないとボラれるからな」


 特に対人相手のトレードは注意が必要だ。


 このゲームのトレードは二分割されたトレード窓にお互いの要求するアイテムを置く事で成立するが、同じアイテムを二つ用意し、こっそり数値の低い方にすり替えるなんて詐欺があったりもする。


 まぁ、その手のチュートリアルなど存在しないし、ほとんどのプレイヤーは失敗から学ぶ事になるのだが。


「高数値のサイコロ指輪は流石に夢を見過ぎだが、他にも高値で売れるMAFはある。平凡なアイテムでも売れば委員長にとっては大金になるし、最悪思い出の品としてとっといてもいいしな。どう転んでも失敗はねぇ。約束されし勝利の戦利品配信ってわけだ」

「なるほど」

「僕はどんなアイテムが出ても取っておいて家に飾りたいな」

「え! 宗谷君家持ってるの!?」

「その話は後だ。いい加減戦利品発表するぞ」

「は~い」


 というわけでジャンケンで発表順を決める。


 最初は未来だ。


「じゃじゃーん! よくわかんないけどカッコいい剣!」


 久々に登場したミライが頭上に武器を掲げる。


 一見するとオーソドックスな両手剣だが、鍔には翼を広げた竜を思わせる飾りがついている。頭身には魔術文字が刻まれて、呼吸でもするようにゆっくりと青白く明滅してる。


〈あっ……〉

月の紋章の剣ソードオブバルトアンデルスかよ〉

〈ハズレじゃん〉


 落胆のコメントが流れる。


「え~! ハズレなのこれ?」

「う~ん。見た感じ強そうな効果は乗ってないけど……」


 宗谷も戦士の端くれだ。多少の目利きは出来るのだろう。

 というか、月の紋章の剣はたった一つの効果しかついていなかった。


「ヒット時に10%の確立で対象に【変身ポリモルフ】を発動って書いてるけど、どういう効果?」

「はいはい! 私知ってる! 命中した時に【】に書いてある魔法が発動するやつでしょ?」


 ここぞとばかりに未来が挙手する。


〈答えられて偉い〉

〈まぁ、随分前に俺らが教えた奴だけどな〉

〈魔法系の補助スキル取ってないと火力出ないのに【火球ファイアボール】ついた両手剣振り回してゾンビに殺されてた思い出〉


 そんな事だろうとは時継も思っていたが。


「それは僕も知ってるけど。【変身】なんて魔法がつくのは初めて見たから」

「……言われてみれば!」


 時継がニヤリとする。


「宗谷の言う通り、その魔法はこの武器にしか付かねぇ。ちなみに【変身】の効果だが」


『いつでも他のなにかに。我はなに者でもなく、故になに者にも転じよう。【変身ポリモルフ】』


 †unknown†の身体が輝く霧に包まれ、次の瞬間には緑色の鱗を持つ巨大な竜の姿に変わった。

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