第38話 初めての収益
「リスナーの皆さん……。先日の配信ではご心配をおかけしました」
配信画面で未来がペコリと
〈マジで心配したわ〉
〈無理しないでちゃんと休んで〉
〈あの短期間でよく頑張ったよ〉
コメントが安堵と労いの声で埋まる。
連日の無理が祟ったのだろう。
ボスモンスターを倒した直後、緊張の糸が切れた未来は「やったぁああああああ!」と勝利の雄叫びと共にガッツポーズを取ってそのまま気絶したように寝落ち。
その後熱を出し、学校は一日、配信は三日ほど休む事態となった。
配信は時継が未来の実家に連絡を入れて切って貰ったが、それまでの約十分間美少女JK配信者のガチ寝顔が全世界に晒される事となった。
そんなハプニングもあり、あの日の配信は多くのチャンネルで切り抜かれ、中には既に30万再生を超えるものもある。
登録者数も一気に倍増し、大台の10万人を突破した。
約一ヵ月前までは三千人程度だった事を考えると凄まじい伸び率である。
「はっ! よく言うぜ! リスナーさんが離れちゃうよ~! とか言って心配してたのは委員長の方だろ?」
「あははは。あの時の愛嬌さんは完全に配信中毒だったよね」
時継のツッコミに宗也が屈託なく笑う。
熱で休んだ翌日には未来は配信を再開しようとしたが、時継が「ちゃんと休まないともう協力しないからな!」と有無を言わせず休息を取らせていた。
サポートと言いつつ、ほとんどチャンネルの主導権を握っている時継である。
未来が無理をしていた事には気づいていたし、今回の一件については反省している。
まだまだこれからという所で未来が身体を壊しては元も子もないし、あまり親に心配をかけて配信活動を制限されてもつまらない。
そういう訳で余裕を見て三日の休息期間を与えていた。
ちなみに吉田達二人は暴力行為が学校にバレて停学中。
後の事は学校やら警察やら宗谷の親に任せるつもりだ。
「トッキー! それは言わない約束でしょ!?」
真っ赤になって未来が言う。
「知るか。てか、委員長が休んでる間に散々ネタにしてたし」
「今日の愛嬌さんコーナーは結構人気あったよね」
〈経過報告感謝〉
〈毎日オフショット更新助かる〉
〈これからも続けてくれ〉
未来が休んでいる間は宗谷と二人で配信を繋いでいた。
と言っても、チャンネル主不在でAO配信をするわけにもいかないので、二人で別ゲーをやりながら雑談メインで尺を稼いだ。
部活を引退して暇を持て余した宗谷はゲーマーになっていたらしく、時継のオススメに興味津々で乗っかってきた。MOBAやFPS、二人プレイのインディーズゲーなど。
〈人気と言えば九頭井のガチャ配信はヤバかったよな〉
〈あれは笑った〉
〈収益入った途端ガチャにぶっこんで大爆死するとかガキのする事じゃねぇだろ〉
「うるせぇ! こちとら金のない学生だぞ! 大金が手に入ったらガチャ回すに決まってるだろうが!」
委員長が休んでいる間に、時継にとっては初めての収益が入っていた。
具体的な数字は控えるが、高校生にとっては目が飛び出るような金額である。
登録者数が十万人を超えた事もあり、早速十万引き出してFG〇の夏イベ前復刻水着ガチャに突っこんだ。
学生の身分では確定の周年ガチャや福袋を回すだけでも一大イベントだ。
有料ガチャを回すだなんて夢のまた夢。
大人だけに許された神々の遊びである。
これはもう、やるっきゃない。
そういう訳で挑んだのが、結果はグロ画像乱れうち。
これ絶対確立操作されてるだろ!? っと半泣きになるくらいの大爆死である。
しまいにはリスナーも同情し慰めのスパチャが飛び交った。
最終的には神頼みのつもりでラスト一万を宗谷のタイミングに任せたら神引きを連発してトントンになったが。
「ちくしょう! ゲームのキャラまでイケメンに靡くのかよ!?」
と、なんだかNTRを食らったような気分の時継である。
まぁ、憧れの水着キャラが大量に手に入ったので文句はないが。
なんて事を思っていたら配信画面越しに未来がジト目を向けている事に気づく。
どうせそんな下らない事にお金を使って! と呆れているのだろう。
「なんだよ委員長。俺の取り分をどう使おうが俺の勝手だろ」
と言いつつ、我ながら馬鹿な使い方をしたという自覚はある。
それでもやめられないのがガチャの魔力なのだが。
「それはそうだけど」
拗ねたように唇を尖らせて未来がポツリ。
「……エッチな女の子のガチャばっかり引いて。トッキーのエッチ」
「なぁ!? ち、ちげーし!? 強いから欲しかっただけだし! てか、ほとんど女キャラなんだから仕方ねぇだろ!?」
嘘である。普通に可愛い女の子の水着Verが欲しかった。
俺は男だなにが悪い!
普段ならそう開き直る時継だが、何故だか未来の前では見栄を張ってしまった。
〈あら~〉
〈いちゃいちゃすんな(もっとしろください)〉
〈水着ガチャに嫉妬する未来ちゃん可愛すぎだろ〉
〈これは未来ちゃんの水着回ワンチャンあるな〉
「ねーよ! 自重しろエロリスナー!」
「え~、ど~しよっかな~。折角実写だし、そういう配信も悪くないかも?」
胸元で指をイジイジしながらわざとらしく未来が言う。
〈マジか〉
〈¥5000 水着代〉
〈¥20000 水着代〉
〈¥921 クソガキの水着代〉
「リスナーさん!? 言い出したのは私だけど、そのスパチャはちょっと犯罪臭がするって言うか!?」
「なんで俺まで水着着なきゃならねぇんだよ。需要考えろ需要」
〈¥921 需要あります〉
〈¥921 現役男子高校生の水着やぞ〉
〈¥921 バストアップなら実質裸〉
「バンされるわ!? ……いや、セーフなのか?」
「折角だし、その時は僕も水着用意するね」
〈¥10000 宗谷君の水着代〉
〈¥3000 トッキーとのツーショ希望〉
〈¥30000 学校の指定水着だとなおよし〉
〈わかるううううううう!〉
「大人きめぇ……」
「ダメだよトッキー! お金貰ってるんだから!」
「時継君のお小遣いになるんなら僕は全然かまわないけど」
「バカ! スパチャで言いなりになったら配信者は終わりだぞ! 嫌な事は嫌だってはっきり言わないと――」
「¥50000 ガチャ代」
「スーパーチャットサンキュー! 夏休みの本命水着ガチャも期待してくれよな!」
力強い笑みで親指を立てる。
二人のジト目を察知して、時継はわざとらしく咳払いをする。
「し、仕方ねぇだろ! リスナーの期待に応えるのも配信者の仕事だ!」
「もう! 都合がいいんだから!」
「時継君らしいよね」
「うるせぇ! それより、そろそろボス攻略でゲットした戦利品発表やるぞ!」
前置きが長くなったが、それが本日の配信の趣旨だった。
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