第37話 完全勝利

〈誰だこいつら〉

〈底辺配信者がハイエナしに来たんじゃね〉

〈お呼びじゃないんだが〉


 事情を知らないリスナー達が困惑する。


「同じクラスで宗谷を脅して不良させてたゴミカス共だ。お前らなにしに来やがった!」

「決まってるだろ? 嘘つき野郎から親友を助けに来たんだよ!」

「みんな騙されないで! 九頭井の言ってる事は全部真っ赤な嘘だから! 本当の不良はこいつら! 宗谷は裏で脅されて仕方なく従ってるだけだし!」


〈どういう事だ?〉

〈どっちかが嘘つきって事だろ〉

〈面白くなってきた〉


「はぁああああ!? 二人ともなに言ってるの!?」

「委員長はボスに集中! 雑魚は俺に任せとけ!」

「でも――」

「こいつらの目的は俺達の配信をぶっ壊す事だ。心配すんな! 秩序の世界はPK禁止、無視してりゃ何も出来ねぇよ!」


〈それはそう〉

〈荒らしは無視が一番〉

〈本当に荒らしか?〉

〈なんで卍槍矢卍はずっと黙ってんだよ〉


 リスナーの間に疑念が広がる。


 登録者を増やす為に嘘をついたり裏であくどい事をやっている配信者は少なからず存在する。


 リスナーもその手の炎上には慣れているから、言葉だけでこの場を納得させるのは難しいだろう。


「キャハハハ! あんたバァカ?」

「確かにPKは禁止だが、どんなルールにだって抜け道は存在するんだぜ?」


 勝ち誇ると、二人は白竜で†unknown†のトレインするオーガロードを狩り始めた。


〈なにドヤ顔で手伝ってんだこいつら〉

〈ヤバい〉

〈九頭井らしくないミスだな〉


「っ!? しまった!」


 時継が焦った声を出す。


「ひぃいい!? こっちにOL湧いてるよぉ!?」


 ボス湧きの離れ小島に新たな敵が湧き未来が悲鳴をあげる。


 元々想定していた事態だが、頼みの宗谷が裏切ったら折角の作戦もご破算だ。


 カコは死に、スライム部隊は全滅。


 あれだけ大見得を切ってチャンネルを削除しなかったら炎上は確実、人気の元となった†unknown†の株も地に落ちるだろう。


「宗谷! 委員長を守れ!」

「動くな宗谷! ここでそいつを見殺しにすれば俺らの勝ちだ!」

「……二人ともごめん」


 俯いたまま宗谷が呟く。


『僕の仲間には指一本触れさせない!』


 卍槍矢卍の頭上に台詞マクロのテキストが表示される。


【挑発】の赤いオーラが辺りに広がり、オーガロードのタゲを集める。


「は?」

「宗谷!? あんた、あたし達を裏切る気!?」


 唖然とする二人に、時継は堪えきれずに笑い出した。


「くっくっく、だーっはっはっは! 引っかかったなクソバカ共! さぁ宗谷! 言ってやれ!」


 配信画面の宗谷が顔を上げる。


 そこにヘタレた表情は微塵もない。


「裏切り者はそっちの方だろ! 散々僕を利用して、都合が悪くなったら切捨てたくせに! お前らなんかもう友達じゃない! ただの敵だ!」


〈よく言った!〉

〈つまり嘘つきは相手の方って事でFA?〉

〈俺は最初から分かってたけどな〉

〈よくわからんが熱い展開だって事だけは理解出来た〉


 配信の流れが変わった。


 吉田達は絶句して言葉を失っている。


「残念だったなゴミカス共。お前らのカスみたいな悪だくみは最初から全部お見通しだったんだよ!」

「ていうか、宗谷君が正直に全部話してくれたし。こっそり呼び出して暴力振るって脅すとか最低だよ! っていうか普通に犯罪だよ! 委員長として友達として、私はか~な~り~怒ってるんだからね!」


 バンバンバン! テーブルを叩きながら未来が声を荒げる。


 久々に宗谷が登校した日の夜の事だ。


 裏でAOをやっていたら宗谷の様子がおかしいので二人で問いただしたら泣きながら吉田達に脅された事を話してくれた。


「僕がいたら二人にまで迷惑がかかる。だからもう、僕には関わらないで……」


 二人はキレた。


 そりゃもうキレた。


 未来は吉田達の悪行に。


 時継はヘタレな宗谷に。


「なに言ってるの!? あたし達友達でしょ!? 見捨てるわけないよ!」

「舎弟に手ぇ出されて黙ってられるか! あんにゃろう、目にモノ見せてやるぜ!」


 そんなわけで全ては作戦の内だ。


 チャンネル削除や引退云々の話も、吉田達を調子に乗らせる為の餌である。


 流石は三下、あまりにも上手く行きすぎて笑いが止まらない時継だ。


〈思ったよりも普通に悪い奴でワロタ(真顔)〉

〈通報しました〉

〈未来ちゃんのクラスメイトだし秒で特定されるだろ〉

〈終わったな〉


「どうすんの!? このままじゃあたしら悪者じゃん!?」

「う、うるせぇ! 全部こいつらのでっち上げだ! 宗谷もグルになって俺らを嵌めようとしてるんだ!」


《宗谷てめぇ、なに俺ら裏切って九頭井の仲間になってんだよ!》

《や、やめてよ、吉田君!?》

《見掛け倒しのヘタレのあんたに声かけてイジメられないよう助けてやってたってのに、その恩を仇を返すわけ?》

《ふ、二人には感謝してるよ! だから一緒に謝ろう! みんなもちゃんと謝ればわかってくれるよ!》

《ふざけた事言ってんじゃねぇよヘタレ野郎!》

《うわぁ!?》


 宗谷の流した音声に二人が言葉を失う。


〈なに今の……〉

〈イジメ現場の証拠音声じゃね〉

〈マジでゴミだなこいつら〉


《バーカ。炎上が怖くて配信者が務まるか。リスナーだってなんだかんだ言ってそういう危ない配信が大好きなんだよ。今までのは全部九頭井を騙す為の演技だったって事にしてざまぁしてやれ。このままあいつの奴隷になって学校生活終わる気かよ》

《……僕は時継君の奴隷なんかじゃない》

《なら、どうしたらいいか分かるよな?》

《やっと自分の立場が理解出来た? まぁ、断っても無理やりやらせるだけだけど? あ~しら他のクラスのワルとも仲いいし? バックには悪い先輩もついてるから、マジ逆らわない方が身の為だから? キャハハハハ!》


「やめ、やめろ!? なんでこんなもん残ってんだよ!?」


 音声を邪魔するように吉田が声を張り上げる。


「時継君が助言してくれたんだ。あいつらの事だから、俺らの見てない所でお前の事脅してくるかもしれねぇ。そん時は携帯で録音して証拠残しとけって。言われた時はまさかと思ったけど、準備しておいて正解だったよ」


〈おいおい九頭井かっこよすぎか?〉

〈濡れた〉

〈¥50000〉


「はっはっは! 伊達に長年陰キャボッチやってねぇってこった!」


〈やっぱそんなにかっこよくなかった〉

〈乾いた〉

〈¥921〉


「うるせぇリスナー! とにかくだ! 証拠もばっちり押さえてある。お前らはもうおしまい、ジエンド、ユーアーデッドだ!」


 バストアップの配信画面で首を掻き切り親指を下げる。


 吉田達は逆ギレした。


「ふざけんな! こうなったらせめてボス攻略だけでも邪魔してやる!」

「バーカバーカ! こっちだって奥の手はあるんだし!?」


〈絵に描いたようなような小物ムーブ〉

〈小物過ぎてむしろ安心して見てられるな〉

〈もういいからさっさと消えろよ〉


「「うるせぇえええええ!」」


 吉田達がボスのいる小島に侵入する。


〈なにする気だ?〉

〈一緒にボス倒す気なんじゃね?〉

〈奥の手がショボ過ぎるwww〉


「白竜を開放リリースして委員長襲わせる気なんだろ」


 呆気なく時継が見抜く。


 秩序の世界で邪魔をしてくるなら、MPKモンスタープレイヤーキルは真っ先に疑う手段である。


「ば、バレてるし!?」

「焦んな! こっちの白竜は育成済みだ! 【状態異常耐性】も上げてるから挑発も沈静化も効かねぇ!」


 二人が白竜を野生化させる。


「だから、お前らの手の内は全部予想済みなんだよ。委員長! 十秒だけ一人で耐えろ!」

「十秒? 何時間でも耐えて見せるよ!」

「宗谷――」

「僕の友達に手を出すな!」


 指示を出すまでもなく、卍槍矢卍が白竜に斬りかかって直接タゲを取る。


 育成済みの白竜が二匹だ。


 いくら卍槍矢卍でも長くはもたない。


 時継もさほど時間をかける気はなかったが。


「いいぞ宗谷! そんじゃまぁ、ちょいと本気を見せてやるかぁ!」


 †unknown†が白竜に右手を差し出す。


『我は誰でもない者。ある時は戦士、またある時は魔術士。そして今、契約によって貴様らの主となろう』


 程なくして二匹の白竜は調教され、†unknown†のペットと化す。


「つーわけで、今日の†unknown†はカコの完成形、伝説級の詩人調教師レジェンダリーバードティマ―ビルドだ」

「……は?」

「そんなのあり!?」

「ありだろ。てか、むしろこれが一番の正攻法だ」

「トッキー! その子消して」

「あいよ」


 未来の意図を察知して、ボスのタゲを取っていたスライムに透明化の呪文をかける。


 脳筋AIはターゲットを見失い、一番近い標的に襲い掛かる。


「ぎゃあああああ!?」

「きゃあああああ!?」


 ユーアーデッド。


 二人は死んだ。


「さてと。茶番も済んだしゲーム内ボイチャはミュートしとくか」

「ここからはゲーム外ボイチャで話すからね~」

「引き続き僕らのボス攻略をお楽しみください!」


 吉田達はゲーム内チャットで何かを喚いているが、意味不明な幽霊語に変換されるだけである。


 暫く無視していると蘇生に戻ったのか姿を消す。


 野良ヒーラーが見つからなかったのか、道中で死んだのか、二人が戻って来る事はなかった。


 やがて二人の死体は消失ロストし、三人は無事ボス討伐に成功した。

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