第34話 お荷物ヒロインとは言わせない

「本当ならもっと奥のエリアに沸く敵なんだが。先客がヘマしてここまで引っ張っちまったんだろうな」

「戦う?」


 宗谷が尋ねる。


「遮蔽物のない開けた広間に白竜とオーロラスライムの群れだ。特に白竜は強力な魔法を使う上に上級AIを積んでやがる。運が悪いと中に入った瞬間SKされるぞ」


〈INTの高いモンスターはその分動きもいやらしいんだよな〉

〈的確に弱った奴狙って来る上にデバフも使うし〉

〈回復も使うからこの数相手だと泥仕合になりそう〉

〈最悪全滅もあり得る〉


「え~! やっとここまで来たのに!?」

「一か八か、僕が突っ込んでオーロラスライムを釣って来るってのはどう?」

「難しいだろうな。それなら俺が石壁で視線管理しながら突っ込んだ方がまだワンチャンある」

「そんな事出来るの!?」


 宗谷が驚く。


 一匹ならともなく、動き回る複数のモンスターを相手に石壁で視線管理を行うのは並大抵の事ではない。


「俺だって自信があるわけじゃねぇ。出来ればもっと安全な手を使いたい所だ」


 宗谷もいるという事で配信用のネタビルドにしてきたのが仇になった。


 ガチ構成ならこの程度なんてことはないのだが。


 まぁ、石壁で綱渡りをやるのも配信的には悪くない。


 そう思った矢先。


「はいはい! 私にいい考えがあります!」


 いかにも名案が浮かんだという顔で未来が手を上げる。


「愛敬さん、気持ちは嬉しいけど……」


 やんわりと宗谷が遮る。


 素人のアイディアなんか役に立たないと思っているのだろう。


 時継も期待はしていないが、聞くだけならタダだ。


「いい。言ってみろよ」


 ぱぁ~っと未来は笑顔になり。


「うん! 私ね、今こそソーダ部隊の出番だと思うの!」

「う~ん。氷蛇で白竜を倒すのは流石にちょっと無理があるんじゃないかな」


 苦笑いで宗谷は言う。


「倒すなんて言ってないよ! ようはこの部屋から白竜を追い出せばいいんでしょ?」

「クソッタレ! その手があったか!」


 悔しそうに時継が叫ぶ。


「ビックリしたぁ!? 急に大きな声出さないでよ!」

「どうしたの時継君?」

「どーもこーもねぇ。委員長に参謀ポジを盗られちまったぜ」

「どういう事?」


 説明するのは簡単だが、それをするのは自分の役目ではない。


「委員長。説明よろ」

「は~い!」


 待ってましたとばかりに未来が返事をする。


 実際、この時を待っていたのだろう。


 自分にも何かできる事はないか?


 ずっと考えていたから出てきたアイディアに違いない。


「この子達を使って白竜のタゲを取って部屋の外まで連れてくの」

「そんなの無理だよ。氷蛇なんか一発でやられちゃう」

「無理じゃないよ。こっちは五匹もいるんだもん。上手くやれば一体くらいは外に出せると思う」

「その後どうするのさ? 中には沢山白竜がいるんだよ?」

「その辺にいる氷蛇をペットにして繰り返します」


 自信満々に未来は言う。

 宗谷は言い返そうとして言葉に詰まった。


「……確かに、それなら上手く行くかもしれない」

「でしょでしょ! 二人がそう言うんならきっと上手く行くよ!」

「ごめんね愛敬さん。頭から否定しちゃって……」

「いいのいいの。私が初心者なのは事実だし、いきなりドヤ顔で任せてとか言われても説得力ないもんね」


〈未来ちゃん……ほんまそういう所やで……〉

〈急に覚醒するじゃん〉

〈ただのアホの子だと思っててごめん〉


「リスナーさんはちょっと反省して~!?」

「ドヤるのは作戦が上手く行ってからだ」

「……うん!」


 ニヤリと笑う時継に、未来は力強く頷いた。


「噴水広間は四方に入口がある。どこから出してもいいが、大事なのは順番だ。複数にタゲられないよう近い奴から誘い出せ」

「アイアイッサー!」

「愛敬さん、頑張って!」


〈未来ちゃん頑張れ~!〉

〈マジで頑張れ!〉

〈ボス攻略でもないのにこんな熱い事ある!?〉


 リスナーも固唾を飲んで見守っている。


 未来は緊張した表情で頬を叩くと、ソーダ部隊を操作してそろそろと左手の入口近くにいる白竜へと忍び寄る。


「……意外に気づかれないもんだね」

「あー。そういや小型のペットには隠蔽ボーナスってのがあったな」


 敵にタゲられにくくなるというものだ。


 普段はまったく役に立たないステータスなので気にした事もなかったが。


 まさかこんな所で役に立つとは。


 ともあれソーダ部隊は無事一匹目に接近し、カプっとひと噛みしてダッシュで隣の部屋へと逃げ込む。


 白竜が敵対モードになり、フレイムストライクを放って氷蛇を一匹消し炭にした。


「ソーダ風味!」


 叫んだのは宗谷である。


 未来は真剣な表情で画面を睨み、喋る事も忘れて操作に集中している。


 さらに一匹減らしつつ、無事最初の一体を大広間から連れ出した。


「やった!」

「まだだよ。帰って来るまでが遠足!」


 タゲられた一匹をその場に残し、残る二匹を帰還させる。


【ソーナンス】を焼き殺した白竜はターゲットを見失って隣の部屋を彷徨った。


「囮まで使うのかよ。委員長、本当に調教師初めてか?」

「へへ~。伊達に授業中もAOの事考えてないもんね~」


 疲れた笑みを浮かべると、未来がテーブルに置いていたどら焼きを齧る。


「くぅ~~~ッ! 疲れた頭に糖が効く~ッ!」


〈完全にキマってる顏じゃんwww〉

〈実際キマるんだよなぁ~これが〉

〈和菓子とエナドリの組み合わせはマジでヤバい。ソースは俺〉


「っし! チャージ完了! 氷蛇補充してガンガン行こう!」

「なら俺らはその間の場を繋いどくか。宗谷、お前彼女いた事あるか?」

「ふぁ!? いきなりなに!?」

「恋バナだよ恋バナ。みんなこ~いうの好きだろ?」


〈好きです〉

〈嫌いじゃない〉

〈どうせモテモテなんだろイケメン君さぁ?〉


「そ、そんな事ないよ……。バスケ部の頃は部活ばっかりでそんな暇なかったし」

「でも告られた事くらいあんだろ?」

「……………………まぁ」


 真っ赤になって宗谷が頷く。


〈ひゅ~!〉

〈ファック〉

〈こちとら40年生きてて告られた事なんか一度もないんだが????〉


「た、たまたまだよ! バスケ部補正! 時継君だって告られた事くらいあるでしょ?」

「あるわけねぇだろバカ野郎」


 やれやれと溜息をつく。


 気づけば同接は普段の倍を超え、雑談モードに入っても減る様子はない。


(オーガ窟攻略前に良い流れを作れたな)


 これも宗谷と未来の頑張りのお陰だろう。


 その後も未来は奮闘し、無事に白竜の追い出しに成功した。


 その際は、ちょっとした問題が発生したが。


「え~! この子達解放しないと調教出来ないの!?」

「そりゃそうだろ。同時にコントロールできるペットには限りがあるんだ。オーガ窟攻略は5枠全部スライムにする。青蛇共を残しとく余裕はねぇ」

「うぅ~、ここまで頑張ってくれたのにぃ~」

「いや、名前が同じだけで全部さっきティムしたばっかりの子でしょ?」

「気持ちの問題!」

「いいからさっさと解放しろよ。これからオーロラスライムを死なせないように街まで戻らなきゃならないんだ。俺はそろそろ疲れたぞ」

「僕もちょっと眠いかな……」


 宗谷が口元を隠して欠伸をする。


「そんな事いったら私今すぐ寝れるくらい寝不足なんだからね! ここ何日かなんて毎日三時ぐらいまでスキル上げしてて全然寝てないし!」

「わ~ったからさっさとしろって」

「うぅ……ばいばいみんな。元気でね……」


 名残惜しそうに未来が氷蛇達を解放する。


「「「「「しゃ~!」」」」」

「イダダダ!? なんでぇ!?」


 解放したソーダ部隊に攻撃されて未来が叫ぶ。


「そりゃ解放したら敵に戻るだろ」

「あ、死んじゃった」

「見てないで助けてよぉ!?」

「はいはいわかったわかった」


 時継が魔法吹っ飛ばす。


「ぎゃあああ! ソーダ部隊いいい!? トッキーの人でなしいいいいい!?」


 なんて事がありながら、無事オーロラスライムの確保に成功した一行だった。

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