第32話 時間差攻撃

「行け行け行け行け! 死ぬ気で駆け抜けろ!」

「いやあああああああ! 死ぬううううう!」

「愛敬さんは死なせない! 僕達が守るから!」


『こっちを見やがれ! 雑魚野郎!』


 騎乗生物に乗った三人が一層の氷結洞を駆け抜ける。


 先頭の案内役は時継が務め、二人はその少し後を追っている。


 進路に敵がいればすかさず卍槍矢卍が挑発でタゲを取りに行くのだが。


「いい心がけだが宗谷! 無駄タゲは取るな! タウントかますのは委員長がタゲられた時か遠距離持ちだけにしとけ! 無視できる相手は無視だ!」

「わ、わかった!」

「待ってみんなぁ!? 大自然の助奏弾いてるのになんか足が遅いんだけどぉ!?」


 少し遅れた未来が叫ぶ。


「足元よく見ろ! 霜が張ってる所はデバフ床だ! 耐性貫通で寒冷状態になる! 踏まないように上手く避けろ!」

「ふぇえええ!? そんなのまであるのぉおお!?」


 悲鳴を上げながらカコがジグザグに動いてデバフ床を避ける。


「一々説明してたらきりがねぇ! とにかく怪しい所は避けて通れ! この手のデバフがかかったらキャラの色が変わって体力バーの横にアイコンが出る! 効果はアイコンを確認!」

「はああああい!?」

「前にスノエレ雪の精が溜まってる! このまま通過したら愛敬さんがやられるかも!」

「ならどうする?」

「僕が前に出て始末するよ!」

「40点! 俺達でだ! 委員長、視線が通らなきゃ敵にはタゲられねぇ! 俺達が足止めたら岩場の影にでも隠れとけ!」

「え~! 私もなにか――」

「その何かがタゲられない事だ! 視線管理の練習! 言っとくが、ほっといても雑魚はその辺に沸くからな!」

「がんばりましゅうう!?」


 半分パニックになりながら未来が叫ぶ。


 アイスパレスにおいて、物理抵抗に偏ったカコは裸も同然だ。


 余程の雑魚でなければ一発死、耐えられても精々二発だろう。


 配信の主役でもあり、プレッシャーは大きい。


 そういった極限状況の中でも冷静に自分の役割を果たす練習でもある。


「相手が動く前に始末する! 俺に合わせろ宗谷!」


 †unknown†が足を止めて呪文を詠唱する。


『集すれば散する。これ世界の理なり。気づいた時には既に遅く。我が魔力は貴様の内に在り。【爆発】』


 †unknown†のマナがスノーエレメンタルの群れに収束する。


「続けて食らえ!」


天蓋てんがいよ開け! 我導くは神の憤怒! 【隕石群メテオスフォーム】』


 タイミングを合わせて卍槍矢卍がモンスターの群れに飛び込む。


『ブッた斬ってやるぜぇ!』


 騎士道スキルの【聖別されし武器セイクリッドウェポン】により、ダメージ属性が相手のもっとも低い防御属性に変更される。


『滾ってきたぁあああ!』


 同じく騎士道スキルの【聖なる憤怒ディバインフューリー】により、回避率を犠牲にして攻撃力、攻撃速度、命中率を上げてスタミナを回復する。


『皆殺しだ!』


 バフを盛った状態で卍槍矢卍が必殺技の【旋風撃ワールウィンド】を放ち、自分を中心とした中範囲の敵を一気に攻撃する。同時に時間差で発動する【爆発】が発動し、頭上からは無数の隕石が降り注ぐ。


 三つの攻撃を一度に受け、スノーエレメンタルの群れは何も出来ずに消し飛んだ。


「……しゅご~ぃ」


 岩陰に隠れていた未来が間の抜けた感嘆を発する。


〈ドエレーCOOLじゃん〉

〈やばっ〉

〈モンスター相手に飽和攻撃とかやってる事がPKのそれなんよwww〉

〈一緒にプレイするの初めてなのに息合いすぎだろ〉


「確かにな。ぶっつけにしてはいい動きするじゃねぇか」


 時継もまさかあれだけの説明で完璧にタイミングを合わせて来るとは思わなかった。


 魔法やスキル発動の時差を利用してダメージ判定のタイミングを重ねるのは対プレイヤー戦で見られる技術である。対人戦はお互いに回復手段がある為、そのままでは泥仕合になりやすい。そこで一気に大量のダメージを稼げる時間差攻撃が有効となる。


 モンスター戦ではそこまでする意味は薄いので、どちらかと言えば配信向けの魅せプだったのだが。


 ここまで綺麗に合わせられると気持ちがいい。


「え、えへへ……。バスケやってたから、人に合わせるのはちょっと得意なんだ」


 嬉しそうに宗谷がはにかむ。


 バスケ部のエースがどうだと聞いていたからどうせ自己中なワンマン野郎だと思っていたのだが。どうやら宗谷はチームを引き立てる縁の下の力持ちタイプだったらしい。


 内心で認めつつ、時継は皮肉っぽく鼻を鳴らした。


「まぁ、台詞のセンスは3点だがな」

「それは言わないでよぉ!? 次までにはちゃんとしたのに変えて来るからぁ~!?」


 真っ赤になって宗谷が叫ぶ。


〈脳筋でいいじゃん〉

〈ギャップ萌え〉

〈¥3000 台詞読み希望〉


「う、ぁぅ、ぶ、ブった斬ってやるぜぇ……。無理ですごめんなさい!?」

「どうせやるならちゃんと読めよな」


 飽きれ笑いで時継が言うと。


「見て見てトッキー! これで私も少しは戦えるよ!」


 いつの間に調教したのか、雑魚沸きの氷蛇が一匹ペットになっていた。


 ちなみに名前は【ソーダ味】だ。


 確かにソーダ味っぽい配色ではあるが。


「う~ん。ここの敵はみんな氷抵抗高いし。その子じゃあんまり戦力にならないんじゃないかなぁ……」

「そうなのぉ!?」

「その通りだが0よりはマシだ。最悪弾避けくらいにはなるしな。委員長がタゲ避けしながらペット操作の練習もしたいってんなら止めてやる理由はねぇよなぁ?」


 ニヤついた声で時継は言う。


 突貫キャラのカコだ。スキルもそうだが、詩人調教師としての未来のプレイヤースキルも育っていない。


 今日の配信でそこまでやるのは酷だと思っていたのだが、本人が言い出したのなら話は別だ。


 問題は本人がその辺の事を理解しているかだが。


「頑張るもん! 私だってリスナーさんにかっこいい所見せたいんだもん!」


 たゆんと膨らんだ胸元の前でふんすと拳を握る。


「好きにしろ。ただし、ペット操作を理由にクソ死にするんじゃねぇぞ」

「平気だもん! 氷柱の罠には慣れてきたし! とぉ~!」


 足元のエフェクトに気づき、カコが横に避ける。


「見たか! そう何度も同じ手は食わな――ブハァッ!? なんでぇ!?」


 氷柱が刺さってカコが死ぬ。


〈足元以外にも落ちるんだってばwww〉

〈自分から刺さりに行くとか器用すぎだろwww〉

〈リアルでお茶吹いたんだがwww〉


「まぁ、キャラ狙いのを避けた所は評価してやる。次からはもっと視野を広く持つ事だな」

「ぐやじいいいいいいい!」


 スリーカウント目のカコを蘇生しつつ、一行は二層へと続く氷の回廊を渡った。

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