第25話 初めてのペット

「わりぃ。何故か知らんがPCが急に落ちた」


 暫くすると、時継はしれっと帰ってきた。


 本当は顔を洗った後気持ちが落ち着くまで和菓子を食べていた。


「もう、ビックリさせないでよ! 怒らせちゃったのかと思ってすっごい焦ったんだから!」


〈嘘に決まってるだろ〉

〈言ってやるなよ。また拗ねていなくなるぞ〉

〈可愛すぎる。苦しい〉

〈まさかクソガキにときめく日が来るとは……〉


「あ~コメントがウザいとまたPCが落ちるかもなー!」


〈〈〈すいませんでした!〉〉〉


 詫びスパチャなんかも飛び交いつつ、とりあえず時継は流れを元に戻した。


「それより本題、カコの育成だろ」

「そうだった! 手伝ってくれるって言ってたけど、なにしたらいいの?」

「あぁ。50までは『森の練習曲』弾いてるだけで上がるぞ」

「おっけー! 前に見せてくれた動物さんを集める曲だね!」

「正確にはそのマップに出現する中立モブを湧かせるスキルだけどな」

「中立モブ?」

「リスとか鳥みたいに襲ってこない奴だ」

「なるほろ」


 カコがハープを奏でる。


 顏だけはプロ級だが響く音色は酷い物である。


「う~。へたっぴ……。それになんにも起きないよ?」

「熟練度が低いから失敗したんだろ。スキルが上がればまともに弾けるようになる」

「そういう所はリアルなんだねぇ」


 感心しながら再度雑音を奏でる。


「ぴぃ~」


 どこからともなくやってきた青い小鳥がカコの足元にとまる。


「わ、わ、わぁあああ! 可愛いいいいいいい!」


〈かわいい〉

〈かわいい〉

〈かわいい〉


 コメントがかわいいで埋まる。


 未来とリスナーでは見ている世界が全く違う。


「そしたら次は調教でその鳥手懐けろ」

「音楽はもういいの?」

「調教上げるのにどうせ死ぬほど動物ティム事になるんだ。一緒にやった方が効率いいだろ」

「確かにぃ?」


 変なイントネーションで言うと、カコはしゃがみ込んで鳥に向かってゆっくり右手を差し出す。


「ほらおいで~。怖くないよ~」

「ピィッ!」


 小鳥についばまれ、カコに小ダメージが入る。


「えぇ!? なんで!? ちょ、鳥さん!? やめ、やめてってば!?」

「見ての通り、調教に失敗すると敵対モードになるぞ」


 小鳥から逃げ回る未来に告げる。


「先に言ってよ!?」

「言ったら面白くねぇだろ」


〈ひでぇwww〉

〈その通りだけど〉

〈未来ちゃんの悲鳴でしか摂れない栄養素があるんだ……〉


「イヤアアアアア!?」


〈死んだwww〉

〈小鳥相手に死ぬ奴とか初めて見たwww〉

〈ステータス育ってない新キャラだし、防具もろくにつけてないしね……〉


 死肉を啄むと満足した小鳥は飛び去った。


 とりあえずカコを蘇生する。


「遠足気分で舐めた格好してくるからそういう事になるんだよ」

「だってぇ!? 調教上げで動物さんに襲われるなんて思わないでしょ!?」

「普通に考えてみろ。知らない奴にいきなりペットになれとか言われたら抵抗するだろ」

「……それはそうだけど」


 釈然としない顔である。


〈例えが秀逸www〉

〈その通りではあるんだが……〉

〈そう考えると調教師って罪深いな〉


「そういうわけだ。育成装備貸してやっから着替えとけ」


 カコにトレードを申し込み、出てきたトレードウィンドウに育成用の装備を並べる。


 育成用と言っても物理抵抗に自動回復がついた程度の安物だ。


 本当はもっと高効率な装備も持っているのだが、時継はあえて平凡物を選んでいた。


(委員長はネトゲ初心者だからな。育成が楽しい内は余計な事せずに楽しませてやった方がいいだろ)


 時継だって初心者の頃はあった。


 あの頃はなにもかもが輝いて見え、退屈な育成だって楽しめた。


 それが今はただの作業だ。


 折角の初心者をわざわざこちら側に引き込む事はない。


「ありがと九頭井君! 苦労をかけるねぇ~」


 後半は老婆の真似をして未来が言う。


「その分の報酬は貰ってるからな」


 時継は指で輪っかを作って悪い声を出した。


 正確にはまだ貰ってないのだが。


 初収益が今から楽しみである。


 というわけでカコは着替えたのだが。


「うぅ……。貸して貰って文句言うわけじゃないけど、メチャクチャダサくなっちゃったよぉ……」

「まぁ、倉庫にあった奴適当に持ってきただけだからな。その辺は目ぇ瞑っとけ」


 装備にはそれぞれ、要求ステータスという物がある。いかにも重そうな板金鎧はSTRが高くないと着れないとか、魔法のローブはINTが要求されるとか。


 新キャラのカコの為に低ステータスでも着れる装備を集めてきたのだが、見た目は特に気にしていなかった。


 お陰で顔は部族マスク、身体は道化服、脚は袴で具足はサンダルと滅茶苦茶な事になってしまった。


〈きめぇwww〉

〈夜中に遭ったら通報するレベル〉

〈部族マスクが致命的過ぎる〉


「本当だよ! これじゃ小鳥さんも逃げちゃうよ!」

「安心しろ。調教に見た目は一切関係ない」

「ワーイ……ヤッター……」


 棒読みで言うとカコは再び『森の練習曲』を奏でた。


 今度はリスが現れ、調教を開始する。


「お願いリスさん! 怖がらないでペットになって!」


 祈るような声で未来が言う。


 程なくして、リスがカコのペットになった。

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