第24話 クソガキ、初めての敗北

 その日の配信。


「つーわけで、今日から委員長の新キャラ育成をやってく事になった」

「じゃじゃ~ん! 歌って踊れる魔物使い(仮)のカコちゃんで~す!」


 木の影に隠れていたカコがハープを鳴らしながら飛び出す。


 ポンパロピン。


 音楽スキルが低いので奏でる音色は耳障りな不協和音だ。


 場所は例によって始まり街の外れにある野原である。


〈エッ!!!〉

〈ふ~んエッチじゃん〉

〈やっぱ戦士は無理だったか〉

〈そんな気はしてた〉

〈未来ちゃんがんばえ~〉

〈やっぱ女子はキャラクリ上手いよな〉


 ダンジョン配信者としてはグダグダの展開だが、元々緩い雰囲気のチャンネルなので批判的なコメントはほとんどない。


 むしろ新キャラのエチチな容姿に盛り上がっている様子である。


 スタンダードな剣士キャラのミライは本人に瓜二つのいかにも癒し系という雰囲気で、丸顔タレ目キャラだった。髪型もお揃いで黒のセミロング。当然爆乳だ。


 ゲームのアバターとしては地味で面白みに欠けるが、リアルの再現なので仕方がない。


 むしろ、地味な分顔の良さが際立っており、オタク特攻的なあざとさがある。


 一方のカコは一転して大人のお姉さま的な雰囲気がある。


 褐色の肌にスラリとした長身で、輪郭のしゅっとしたクールなつり目キャラだ。


 腰まで伸びた長い髪は深い紫色で、胸はミライと比べると控え目だ。


 格好は銀色のブラと暖簾のような赤い腰布だけでかなり露出度が高い。


 多分踊り子をイメージしたのだろう。


「前のキャラとは随分イメージが違うじゃねぇか。さては委員長の願望か?」


 ニヤニヤ声で時継が言うと、未来は楽しそうに即答した。


「ぴんぽ~ん! 新キャラ作る時に九頭井君に相談したら、せっかくのゲームなんだから好きなように作れよって言ってくれたから、かっこいい大人のお姉さんをイメージしちゃいました!」


〈だってよ九頭井www〉

〈前のミライちゃんも可愛かったけど、こっちのカコちゃんもセクシーでええな〉

〈おっぱいがもっと大きかったら100点〉

〈わたしも女の子だけど未来ちゃんの気持ちすっごいわかる!〉


 コメントの盛り上がりは悪くない。


 うまい具合に未来のキャラクターが定着してきたのだろう。


 元よりそのつもりでプロデュースしていた時継だったが、この様子なら育成配信でもしばらくは間を持たせられるだろう。


(……俺としては元のキャラクリの方が好みだったけど――って、なに考えてんだ俺は!?)


 頭を振って邪念を払う。


 カコは女の子が憧れるタイプの美人で、ミライは男ウケする美少女の現身だ。


 時継だって男なのだから、カコよりミライがタイプなのは当然である。


 断じて、ミライのキャラクリでエッチな踊り子装備を着ている所を見たかったとか思ったわけではない。


 ……いや、マジで!


〈カコちゃんもいいけどミライちゃんの方でもこの装備着てる所見てみたい!〉


「え~、どうしようかな~? 最後まで配信見てくれたらサービスで着替えちゃうかも? なんちゃんて――」

「マジか」


 思わず声が出てしまい、時継は慌てて口を塞いだ。


「九頭井君?」


〈おっと~?〉

〈先生! ここにエロガキがいます!〉

〈慌てて口塞いでてワロタwww〉

〈本音出ちゃったねぇ~?〉

〈九頭井君可愛い〉

〈早く顔だししろよおおおおおお!〉


「ち、ちげぇし! 委員長の癖に上手い企画考えるから感心しただけだし! お前らみたいなエロリスナーと一緒にすんな!」


 時継が叫んだ。


 首から下しか映してなくてホッとする。


 そうでなかったら、真っ赤になった顔面が世界中に配信されている所である。


〈言い訳乙www〉

〈絶対顔真っ赤だろwww〉

〈かわいい〉

〈かわいい〉

〈かわいい〉


 配信オタクの時継である。


 この手の流れは何度も見てきた。


 だが、自分が言われる側になると平静を保つのは難しい。


「ちげぇって言ってんだろクソリスナー共! そんなんじゃねぇし! てか、おっさんにかわいいとか言われてもきめぇだけなんだよ!」


〈マジでこのクソガキ可愛すぎか?〉

〈もっと罵って〉

〈当方女です〉

〈20代女だけど普通に可愛くて困る〉

〈40代男だけど普通にキュンとした〉


「う、ぐ、ぐ、ぐ……。上等だ! それ以上言ったら容赦なくバンすっからな!」


〈〈〈横暴だ!〉〉〉


 流石にバンは嫌なのか、かわいいコメントは少なくなった。


 しつこい奴は見せしめに短時間のコメント制限の刑に処しておく。


「ったく、こいつらは……」


 溜息をつく。


 不意に時継は未来がニヤニヤしながらカメラを見ている事に気づいた。


「ふ~ん。九頭井君ってこ~いうのが好きなんだぁ~?」


 現役美少女女子高生の天然メスガキボイスに時継の心臓が飛び上った。


「な、てめぇ、委員長!? だから違うって――」

「九頭君のえっちぃ」


 ふっくらした唇に人差し指を触れさせると、ニンマリとしてミライは言った。


〈!!!!!!!!!!!〉


【¥5000 ありがとう】

【¥921 お前ら結婚しろ】


〈俺達はなにを見せられてるんだ?〉

〈甘すぎて虫歯になった〉


「な~んちゃって! えへへ~。いつもやられてばっかりだからたまには仕返し!」


 屈託なく笑い、未来がパチリと片目を瞑る。


 時継は黙り込んだままピクリとも動かない。


「あ、あれ? 九頭井君? もしも~し? 聞こえてる?」


〈これは死んだな〉

〈こんなかわいい子にあんな事言われたら普通死ぬよな〉

〈R.I.P〉


 ダン!


 時継の台パンが炸裂した。


「うっせぇえええ! バァアアアアアアアアカ!?」


 †unknown†がログアウトし、時継もボイチャから退出した。


「え? 嘘、九頭井君? 九頭井君!?」


〈逃げたなwww〉

〈冗談じゃん〉

〈九頭井戻ってこい〉


「ご、ごめんってば! ちょっとからかっただけでしょ!? もうしないから戻ってきてよぉ!?」


 先に言っておくと、この辺の切り抜きはめちゃくちゃバズった。

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