第23話 頭の中に響く声
翌日の事。
時継が登校すると、先に来ていた未来が待ってましたというように声をかけてきた。
「おはよう九頭井君! 昨日は惜しかったね!」
「いや。一ミリも惜しくなかったぞ」
「え」
「ダンジョン攻略の目的はボス討伐だろ。それなのに前座の雑魚で苦戦してちゃ世話ねぇぜ」
「う……。そ、そうだけど、地道に一体ずつ倒してればいつかはボスが沸くんでしょ?」
「まぁそうだが、あそこのボス戦は普通に雑魚沸くからな。ボスとOL両方相手にする事になる」
「えぇ~!? そんなの勝てるわけないじゃん!? それで初心者ダンジョンとか……私AOの才能ないのかなぁ……」
「いや、そもそもダンジョンって一人で攻略するもんじゃねぇし」
「へ? で、でも、ダンジョン配信してる人はみんな一人で攻略してない?」
「……委員長、ダンジョン配信にわかだろ」
「ギクッ。なんでわかったの?」
「分かるわ! ソロ攻略系は人気でオススメに上がりやすいからな。それで上の方だけ見て知ったような気になってたんだろ」
「えへへ、バレたか」
未来がペロッと舌を出す。
それが無駄に可愛いから困りものだ。
「……言っとくが、そんなのは神装備と神プレイヤースキルを持ってる一部の神プレイヤーだけだからな。そいつらだってソロ攻略出来るダンジョンをやってるだけだ。マジの超高難易度は多人数攻略が必須だし、それ以外のダンジョンだって基本的には大勢で攻略する事が前提の難易度になってんだよ」
「え~! 分かってたんなら先に言ってよぉ~!」
未来が口を尖らせる。
「だから今言っただろ。それに、オーガ窟程度のダンジョンならソロ攻略はそれ程難しくない。実際俺なら楽勝だし。つっても、初めて三か月ちょっとのド素人が一人で挑むのは流石に無謀だけどな」
「う~……どうしよう。ダンジョン配信なのに、このままじゃ企画倒れになっちゃうよぉ……」
「それも含めてどうすんのかって話だろ。ダンジョン攻略は手段であって目的じゃない。こっちとしては配信が盛り上がって宣伝になればなんでもいい。だろ?」
「そうだけど……う~ん」
未来が頭を抱える。
(……ったく。素直に俺を頼れっての)
まぁ、思考停止で頼られたら「ちったぁ自分で考えろ」と突き放していた所だが。
「やり方なんか幾らでもあるだろ。あくまでもソロ攻略に拘ってじっくり育成してもいいし、ネトゲらしく仲間を集めてもいい。リスナー参加型の企画って手もある。最悪、俺が出張ってもいいしな」
「……そうだけど。九頭井君が出て来たら私のいる意味なくなっちゃうんでしょ?」
「それもやりようだ。俺も新キャラ作るとか、縛りプレイとかネタビルドとかなにかしら制限つけりゃいい」
とは言っても、リスナーが†unknown†の活躍を期待しているのは事実なので、バランスを取るのは簡単ではないだろう。
助言する時継を未来はポカンとした顔で見つめた。
「……なんだよ。変な顔でジロジロ見んな」
「ポンポンアイディアが出て来るから感心してたの……。九頭井君って凄いね」
「……別に凄かねぇし」
照れ臭くなって頬を掻く。
時継はただ、授業中に自分が好きなゲームで配信者になったらどんな事をするか妄想していただけだ。
そんな事は恥ずかしくって言えないが。
「そんな事ないよ! 私は一つも思いつかなかったもん! ソロ攻略出来たらいいなとは思うけど、私の実力じゃ何か月もかかりそうだし……。リスナーさん参加型とかの方がいいのかなぁ……」
「どうだろうな。高難易度ならともかく、初心者ダンジョンにリスナー呼んだら一瞬で終わりそうではある。あと、戦士系は装備変えるだけでもかなり違うぞ。例えば亜人特攻がついてる武器ならそれだけでOL相手なら倍のダメージが入る。オーガ特攻なら三倍だ」
「三倍!? 超強いじゃん!?」
「超強いぞ。その代わり、特攻以外の種族に対してはダメージ半減だ。それに、追加効果は色々あるからな。普通の武器は基本的に100パーセント物理ダメージだけど、中にはダメージが火とか氷に変換される効果もある。オーガは物理以外の属性には弱いから、属性武器ならダメージが増える。特攻+属性ならダメージは掛け算だ」
「ま、待って! メモ取るから!」
慌てて未来が携帯を取り出す。
「後でラインに送ってやるよ。まぁ、そんな感じで今のキャラでも装備次第じゃソロ攻略出来なくはない」
「……でも、お高いんでしょ?」
「まぁそうだな。追加効果一個ぐらいなら大した値段じゃないが、有用な効果が一つ増える度に桁が増える。高難易度を回してるようなプレイヤーの使ってる武器なら一本で城が立つレベルだ」
「お城!? よくわかんないけど、凄いんだねぇ……」
比喩ではなく、AOではマップ上の空き地に家を建てる事が出来る。最大サイズでは城を建設できるのだが、人気のゲームなので建設可能な空き地は少ない。建てられても精々小~中サイズの小屋レベルだ。必然的に最大サイズの城は高額で取引きされる事になる。
「戦士に拘らないなら別のビルドの新キャラ作るって手もあるぞ。魔法は育成難易度高いけど回復に攻撃に召喚に補助にとやれる事はかなり多い。他にも色々スキルはあるしな。ぶっちゃけ、ビルド変えるなら今の内だぞ」
時継としても、なんとなく未来には近接キャラは合わないような気がしていた。
女性プレイヤーにありがちなのだが、未来は敵を恐れて前に出たがらない。
弓ならともかく、近接向きの性格とは言えないだろう。
「う~。実は私も思ってたんだよね。なんとなく簡単そうだから戦士にしてみたけど、九頭井君の†unknown†見てたら他のスキルもいいな~って。音楽で敵を操るのもかっこいいし、魔法も使ってみたいし……。特にあれ! 昨日見せてくれた殺人ルンバ呼び出す魔法! あれなら自分は前に出なくていいから私でも戦えそう!」
〈殺人ルンバってwww〉
〈ナイスネーミング過ぎるだろwww〉
頭の中にイマジナリーリスナーが現れて思わず吹き出しそうになる。
「どうしたの九頭井君?」
「な、なんでもない!」
頭を叩いてエアリスナーを追い出す。
「とにかくだ。それなら
「それって何が違うの?」
「魔法とか死霊術に召喚系の呪文があるんだよ。その他に召喚系の補助スキルを取ってると強化されて召喚特化のビルドになる。殺人ルンバなんかはこれだな」
魔法スキルには沢山の呪文があるが、それらの効果を十分に発揮するにはそれぞれの呪文に応じた補助スキルを取る必要がある。召喚学を取れば召喚数に関わる召喚スロットが増えたり召喚した魔法生物が強化されるといった感じだ。
「調教師は調教可能な動物やモンスターをペットに出来る。その辺にいるリスからドラゴンまで色々な。こっちは調教する手間はあるけど魔法生物と違って育てて強く出来る。音楽スキルのバフも乗るから極めるとかなり強いぞ。あと、スキルの相性的に音楽と両立しやすい」
「え~! ペット作れるの! それがいい!」
「ただし、育成難易度はかなりマゾい。あと本体が脆い」
「う~……。でも、ペット欲しいよぉ……」
「まぁ、こういうのはやりたいビルドをやるのが一番だ。育成は手伝ってやるからやるだけ試してみろよ」
「本当! じゃあお言葉に甘えて頑張ってみようかなぁ……」
ワクワクした様子でミライは言うが。
「……でも、そうなるとダンジョン攻略は暫くお休みになっちゃうよね? リスナーさん、離れちゃわないかな……」
「そうならないように雑談が面白いチャンネルで売っておいたんだろ。てか、うちのリスナーで真面目なダンジョン配信期待してる層なんかほとんどいねーって」
「うぅ……。それはそれで複雑な気分……」
「まぁ、伸びしろって事だ。ダンジョン配信なんかやろうと思えばいつでも出来るんだからな。他の武器があるならその方がいいだろ」
「……だね。そうと決まったら私も雑談用の面白いネタ探しておかないと!」
そんな所でチャイムが鳴った。
「じゃ、またね!」
「おう」
未来と別れると、クラスメイトの羨望の眼差しで人気者の委員長の貴重な朝の時間を独占していた事に気づく。
(……まぁ、悪い気分じゃないな)
得意顏で席に着く。
「……あれ? 斎藤君?」
未来の独り言で気づく。
昨日ざまぁした不良野郎の姿がない。
(……どうせ遅刻だろ)
そう思ったのだが。
結局その日、宗谷が学校に現れる事はなかった。
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