第19話 リアルじゃ何もできないオタク野郎だと思ったか?
教室が静まり返る。
不良の名前は
一年二組のトップカーストに立つチャラついた不良野郎だ。
茶髪のロン毛に長身の細マッチョ。
整った顔立ちはモデル級のイケメンだ。
勿論女子にもモテる。
中学の頃はバスケ部でエースだったそうだが、膝を壊して引退し、高校生になってからは特に部活にも入らずチャラついた連中とつるんでデカい顔をしている。
こんな奴には毛ほども興味はないのだが、狭い教室の中で我が物顔の振る舞いをされたら嫌でも情報が入って来る。
不良としては小物で、そこまで悪い事はしていない。
だが、他人が自分より目立つのが許せないタイプのようで、教室で誰かが盛り上がったり話題になっていると揶揄してからかったり、脅しをかけて釘を刺す悪癖がある。
おかげで二組の生徒はいつも宗谷の顔色を伺ってビクビクしていた。
時継も何度か使われてからかわれているが、かまってちゃんなメンヘラ野郎の相手をしてやる義理はないのでシカトしている。
未来が被害を受けなかったのは下心があっての事だろう。
なんにせよ、そろそろ来るのではないかと思っていた所だ。
「うるせぇな不良野郎。いきなりデカい声出して暴れんな。赤ちゃんかよ」
「九頭井君!?」
ギョッとして未来が声をあげる。
クラスメイトは絶句していた。
あ~あ。
こいつ終わったな……。
そんな吹き出しが見えるようだ。
宗谷はポカンとしていた。
まさかクラスの冴えないオタク野郎が言い返してくるとは思わなかったのだろう。
時継の言葉が脳に染み込むと、顔を赤くして言い返す。
「俺は赤ちゃんじゃねぇ!」
「んな事は見りゃ分かる。ただの皮肉だろ。言わせんなよ」
「ぷっ、ぶふっ」
「おいバカ、笑うなよ!」
「だ、だって!」
普段の配信みたいなやり取りに、数人のクラスメイトが吹き出す。他にも少なくない数の生徒が笑いを堪えるのに必死になっていた。
宗谷はますます赤くなって震えている。
まるで漫画だ。
「九頭井君!? 挑発するような事言っちゃダメだってば!?」
慌てた未来が心配そうに時継の肩をガクガク揺らす。
「本当の事言っただけだ。先にちょっかい出して来たのは向こうだろうが」
「そうだけど!? そうだけどぉおおお!?」
未来だって宗谷が悪い事は分かっている。
でも相手は一年二組を牛耳るトップカーストの不良少年だ。
AOの中ならともかく、リアルの時継はただの冴えないオタク君である。
勝ち目なんか一つもないよ!?
そんな様子で困り顔を行き来させる。
「てめぇ、九頭井!」
「斎藤君!? 落ち着いて!? ほ、ほら! クリームどら焼きあげるから!」
キレた宗谷が怖い顔で時継に詰め寄る。
未来は間に割って入り、慌ててポケットをまさぐった。
彼女のポケットの中にはいつも和菓子が入っている。
お陰で未来はごくまれに、愛敬堂から来たミライえもんと呼ばれる事がある。
余談である。
「バカ! あぶねぇから引っ込んでろ!」
時継は叫んだ。
宗谷を挑発したらどうなるかなんて勿論わかっている。
その後の対策だってちゃんと考えている。
未来に庇って貰う必要なんかない。
むしろ、ここで怪我をされた方が困る。
幸いな事に、宗谷は元バスケ部の技術を生かしてスルッと未来の横をすり抜けた。
「バカはてめぇだオタク野郎! 覚悟は出来てんだろうな!」
「ぐぇっ……」
椅子に座っていた時継の胸倉を掴んで無理やりに立たせる。
「九頭井君!? 斎藤君! やめてってば! 先生に言いつけるよ!」
「こいつが悪いんだろうが! 愛敬さんの為だと思って見逃してやりゃ調子に乗りやがって!」
「委員長の為だぁ? てめぇはこいつの親かっての。大好きなクラスのアイドルを俺に取られると思って焦ってるだけだろ?」
「うぇぇええ!? そそそ、そうなの!? 斎藤君!?」
未来が素っ頓狂な声をあげる。
(グッジョブだけど、天然なら逆に
呆れ果てる時継を他所に、未来の一撃がクリーンヒットして宗谷の顔色が別の意味で赤くなる。
「ち、ちが!? 違う! そんなわけないだろ! 適当言いやがって! マジで殴るぞ!」
宗谷が拳を振り上げる。
「本当に殴る気があるならわざわざ脅したりしねぇよなぁ? 不良漫画の世界じゃあるまいし、うちの学校はそこまで無法地帯じゃない。マジで殴ったら良くて停学。内申にも傷がつく。先生は勿論親にも怒られるぜ?」
宗谷の目が一瞬泳ぐ。
「上等だよ! 学校なんかクソ食らえだ!」
「なら殴れよ。それでお前の顏見なくて済むようになるなら安いもんだ。何様のつもりか知らないが教室でデカい顔しやがって。調子に乗ってんのはお前の方だろ? みんな迷惑してんだよ。いい加減気づけって」
「なっ!?」
いっちょ前に宗谷が傷つく。
「九頭井君!? 言い過ぎだよ!?」
「どこがだよ。委員長は被害にあってないから知らないかもしれねぇけど、俺らみたいな奴らはみんなこいつにバカにされて嫌な思いしてたんだ。こんなんじゃ全然足りないくらいだぜ。そうだろ? みんな!」
胸倉を掴まれたまま周囲に同意を求める。
賭けに出たわけではない。
この流れならイケそうだから試してみただけだ。
ダメならダメで別の手がある。
とばっちりを食うのを恐れてか、クラスメイトは一斉に顔を背けた。
嫌な沈黙が数秒。
時継は五秒までは待つ気だった。
流れを考えるとその辺が限度だろう。
「……そうだよ。九頭井の言う通りだよ!」
冴えない小太りのモブ男子が声をあげた。
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