第9話 実力のチラ見せ
どうなる事かと思った新メンバーお披露目配信だが、時継の未来弄りが功を奏し、じわじわと同接を増やしている。
登録者の減少にも歯止めがかかり、現在はプラマイゼロまで持ち直していた。
「茶番はこの辺にしておいてだ。今日はなにすんだ委員長?」
昨日の今日どころか、今日の今日な話だから、ろくに打ち合わせも出来ていない。
新メンバーのお披露目をやる事以外は全くの未定である。
一応未来のチャンネルなので時継は尋ねた。
「よくぞ聞いてくれました! 折角強キャラの九頭井君が仲間になってくれたわけだし、今日は他のダンジョン配信者さんがやってるみたいな高難易度ダンジョンの攻略にチャレンジしたいと思います!」
〈うぉおおおおおお!〉
〈待ってました!〉
〈今明かされる†unknown†の真の実力!〉
〈やっとダンジョン配信者らしくなってきたな〉
〈未来ちゃん、ダンジョン配信とか言ってビギナー向けの狩場で死んで半泣きで雑談トークしてる方が多かったもんね……〉
〈俺は好きだぞ。未来ちゃんの半泣き雑談〉
〈睡眠導入にいいよな〉
様々な反応がありつつも、やはり新メンバーの時継の活躍を期待する声が多い。
訓練されたリスナーでもある時継だ。
当然コメント欄の反応は目で追っている。
その上で出した答えがこれだ。
「却下だな」
「なんでえぇぇぇぇええ!?」
〈なんでだよ!〉
〈ブーブーブー!〉
〈へいへい! †unknown†ビビッてるぅ!〉
予想通りブーイングの嵐が巻き起こるが時継は動じない。
「なんでもクソもねぇだろ! はっきり言うが委員長のキャラは初心者以前のクソ雑魚ナメクジなんだよ! 自分の事を戦士だと思い込んでる一般モブ並みの弱さだ! そんな奴高難易度ダンジョンに連れてっても秒で死ぬだけだろうが! AO舐めんな! 真っ当なダンジョン配信者に謝れ!」
「よくわかんないけどごめんなさい!? 私が間違ってました!」
流れるようにミライが土下座のエモートを発動する。
配信を面白くするエッセンスとして、ショートカットにエモートを入れておくよう指示だけはしておいたのだが。流石は真面目な優等生。素晴らしい順応速度である。
〈流れるような土下座ワロタwww〉
〈まぁ、実際今の未来ちゃんが高難易度ダンジョン行っても出来る事何もないよな〉
〈高難易度ダンジョンで泣き叫ぶ未来ちゃん見たいだろ〉
〈出オチにしかなんねぇって〉
「『じっちゃんのナニにかけて♂』の言う通り、出オチにしかなんねぇって話。委員長の幽霊引き連れて一人で高難易度ダンジョン攻略とか哀しすぎるだろ」
〈下ネタネームワロタwww〉
〈バカ九頭井! 音読すんな!〉
〈♂マークついてる辺り確信犯過ぎるwww〉
〈わざわざそのコメント読むセンスよwww〉
〈一人で高難易度攻略できる事は否定しないのか〉
〈いっそ委員長生存縛りでやってみるとか?〉
「やってもいいけどそれじゃ俺のチャンネルみたいになっちゃうだろ。ここはあくまで委員長のチャンネルで、俺はサポートスタッフだからな。そこんとこ勘違いすんなよ」
「私は別に数字が伸びればなんでもいいんだけど……」
ぼそりと未来が呟く。
〈腹黒発言キタコレwww〉
〈目的の為なら手段を選ばない真面目さは評価できる〉
〈真面目か?〉
〈真面目だろ。世界平和の為に世界征服するみたいな真面目さだけど〉
「考えが甘いんだよ! ダンジョン配信者として成り上がりたいんなら安易なバズに飛び付くな! 今売れてる奴らはみんなそれなりに下積み経験してんだから! てか、折角初心者なのに過程すっ飛ばして高難易度ダンジョンに行っちまった色々勿体ねぇだろ!」
〈確かにそれは勿体ない〉
〈高難易度ダンジョンの攻略配信してる奴なんか腐る程いるしな〉
〈未来ちゃんにまともなダンジョン攻略とか求めてないから安心してwww〉
「わーい。よくわかんないけど涙が出てきましたー」
棒読みで未来が告げる。
死亡状態の虚無配信を雑談で繋いでいだけあり、リアクション芸は得意らしい。
ともあれ、未来の配信活動に協力するにあたって、一応時継はざっくりとしたプランを練っていた。
なにせ収益の半分に加えて和菓子食べ放題である。
それくらいする義理はあるだろう。
ダンジョン配信者はライバルが多いから似たような事をやってもダメだ。
「数字が欲しけりゃ強みを生かせ! 委員長の強みはなんだ?」
「えーと……顏とか?」
〈自分で言うなよwww〉
〈自覚はあるんだ〉
〈そりゃあるだろ〉
〈確かに顔は良いよな〉
〈おっぱいも忘れて貰っちゃ困る〉
「嘘ですごめんなさい忘れてください……」
ワイプで映った未来が真っ赤になって顔を隠す。
〈あざてぇ~!〉
〈この反応だけでご飯が三杯いける〉
〈最高のオカズって意味?〉
〈はい通報〉
「まぁ顔もそうだが、顔の良い女配信者だって大勢いるんだ。やっぱここは初心者属性を活かすべきだろ。つーわけで、俺が委員長をいっぱしのダンジョン配信者に鍛えてやる。高難易度攻略はそれまでお預けだ」
〈はいはい、育成路線ね〉
〈ありがちだろ〉
〈ガチ初心者×ガチ熟練者の組み合わせはなかっただろ〉
〈こいつが本当に熟練者なのかは怪しいけどな〉
〈てか九頭井マジで何者なんだよ〉
説明するのは簡単だが、時継はあえて正体を伏せた。
謎は小出しにしておいた方がリスナーの興味を引けるというものだ。
「……素人の私でも他のダンジョン配信者さんみたいにかっこよくダンジョン攻略出来るようになれるかな?」
不安そうに未来が聞く。
「さぁな? かっこいいかどうかは委員長次第だ。けど、これだけは約束するぜ。他人にキャリーされるより、自分でダンジョン攻略する方が万倍楽しい! そうだろ、お前ら!」
〈異議なし!〉
〈このクソガキ、たまにまともな事言うから困る〉
〈俺は上位パーティーにくっついてハイエナする方が好きだが〉
〈自分はダンジョン攻略より生産派です〉
楽しみ方は人それぞれである。
ともあれ、コメント欄は大盛り上がりだ。
コメント欄が盛り上がれば離脱者は減り、必然的に同接も増える。同接が増えればそれを見た新規が増え、同接が同接を呼び登録者の増加に繋がる。
実際、既に登録者数は三百人近く増加している。
切り抜き効果もあるとはいえ、デビューして数か月の個人勢にしては中々の伸び率だ。
(……やべぇ。これはちょっと、いい気分だぞ……)
自分のトークでリスナーが盛り上がりリアルタイムで登録者が増えるのは中々の快感である。今まで時継は見る側だったが、見られる側に立つというのも悪くないものだ。
もちろんそれは、現役美少女JKという強力な客寄せパンダがいるおかげだろうが。
未来も同じ気持ちなのだろう。
前回にも増して配信に熱が入っている。
「分かった! 私も頑張って同接十万行くような凄いダンジョン配信者になってみせる! その為なら、どんな厳しい修行にだって耐えて見せるんだから!」
「よく言った!」
†unknown†がピーヒャララと純白の横笛を吹く。
音楽スキルの効果により、どこからともなく小鳥やリスといった小動物が大量に集まってきた。
「わぁ! 凄い! なにこれ!」
「音楽スキルだ。詳しい解説はリスナーに任せる」
〈いや任せんなしwww〉
〈低ランク音楽スキル『森の
〈合ってるけど、こんだけの数を集めるって事はこいつ、音楽スキルも相当じゃね?〉
〈釣りに魔法に音楽ってどんなビルドだよwww〉
〈趣味に走ったネタキャラだろ〉
〈誰でもない者なんだからなんだって出来るに決まってるだろ?〉
〈本当ならチート過ぎるwww〉
(お、いいせんいってるじゃん)
コメント欄を見ながらそんな事を思う。
「可愛い~! いいないいな! こんな事出来るなら、私も音楽スキル上げようかな~!」
ミライはウキウキで集まってきた小動物と戯れている。
〈未来ちゃんカワユス……〉
〈ほんま癒される……〉
〈でもなんで九頭井は小動物なんか集めたんだ?〉
〈そりゃ修行の為やろな〉
〈あっ……(察し)〉
「え? 修行って、どういう事?」
「こういう事だ」
†unknown†が別の曲を吹いた。
〈扇動者の
リスナーネーム『ハシビロ侯』の解説通り、数十匹の小動物が一斉にミライへと襲い掛かった。
「なんでぇええええええ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。