第10話 手っ取り早いスキル上げ

 AOにおいて小鳥やリスは最弱モンスター以下の真の最弱生物だ。


 いくらミライが駆け出し戦士並みのスキルと装備でも受けるダメージは精々1~2。


 それだって『剣術』スキルや『盾』スキルでほとんど回避出来る。


 普通ならこんな相手に負ける事は絶対ない。


 だが、何十匹もの大群となれば話は別だ。


 避け切れなかった攻撃でミライのHPバーが見る見る溶ける。


 ミライは慌てて逃げ出した。


「逃げるなって」


 †unknown†が石の壁でミライの進路を塞ぐ。


「ちょ!? なんでぇえええ!?」


 パニクったミライが別の方向に逃げようとするが、時継が先読みをして次々石の壁を並べていく。


〈詠唱はっやっwww〉

〈ネタキャラの癖に『高速詠唱ファストキャスト』取ってんのかよ』〉

〈装備効果詰んでるだけだろ〉

〈装備だけでここまで早くなるか?〉

〈なら両方積んどるんやろな〉

〈それより石壁置くの上手すぎだろ。こいつの正体絶対PKプレイヤーキラーだって〉


「『治療』スキル取ってんだろ。パニクってないで包帯巻けって」

「そ、そうだった!」


 ハッとしてミライがその場で包帯を巻く。


『治療』スキルは包帯を使用して一定時間後にHPを回復させるスキルだ。スキルが高い程成功率、回復量が上昇し、中レベルからは解毒、高レベルになれば蘇生も可能となる。


 また、武器ダメージの威力を上げる『解剖学』の影響も受ける。


 ようは戦士向けの回復スキルだ。


『指が滑った』

『指が滑った』

『指が滑った』


 ミライは死んだ。


「なんでぇええええええ!?」


〈親の顏より見た光景〉

〈安定の死亡〉

〈『治療』中にダメージ受けたら妨害判定発生して回復量減るってそろそろ覚えてくれ〉


「それ以前に包帯巻き終わる前に包帯使ったらカウントが上書きされて一生巻き終わんねぇからな」


 †unknown†が蘇生の魔法でミライを復活させる。


「わかってるけど、急に襲われたらびっくりして連打しちゃうでしょ!?」


〈気持ちは分かる〉

〈初心者あるあるだよな〉


「だからこその修行だろ。いくらキャラを育ててもプレイヤーがヘボじゃ宝の持ち腐れだ。戦士職やるなら最低でも息を吸う様に治療出来るようにならなきゃダンジョン攻略なんて夢のまた夢だぜ。上手くタイミング見て逃げならが包帯巻く練習だ」

「だからっていきなり攻撃してくる事ないでしょ!? しかもこんな可愛い小鳥さんとリスさんを操って!」


 むしろそこにご立腹なのだろう。


 白いほっぺを大福みたいに膨らませて未来が不貞腐れる。


〈かわええ〉

〈かわええ〉

〈この顔見れただけでも九頭井が加わった価値ある〉

〈悔しいが同意〉


「リスナーさん!? お願いだから少しは私の味方して欲しいなー!?」


〈なにをおっしゃる!〉

〈ボク達はいつだって未来ちゃんの味方だよ?〉

〈そうそう! 役に立たないだけでどんな時でも味方だから!〉

〈むしろ未来ちゃんの悲鳴を聞く為に裏切る事すらあるけど!〉


「リスナーさぁああああん!?」


 未来の音割れ悲鳴が轟いた。


「諦めろ。リスナーってのはそんなもんだ。でだ。一応言っとくが俺は別に意地悪で罪のない小動物をけしかけたわけじゃない。チャットログ開いてみろ。『剣術』とか『盾』スキル上がってないか?』

「ふぇ?」


 言われた通り確認すると、チャットログにズラリと熟練度アップの報告が並んでいる。


「本当だ!? しかも凄いいっぱい!? 墓場で何時間もゾンビと戦ってもこんなに上がんなかったのに!? なんでぇえええ!?」

「基本的にこのゲームのスキルは適切な状態で使用判定が発生すると確立で熟練度が上がる仕様だ。つまり、判定が多い程熟練度の上昇は早くなる。意味分かるか?」

「……墓場のゾンビと死闘を繰り広げるより小鳥さんの群れについばまれてる方がスキル上がりやすいって事?」

「正解」


 ポ~ン! と†unknown†の頭上で花火が弾ける。


〈回数制限のある新年アイテムの花火ワンドをそんな事に使うなよwww〉

〈腐る程持ってるんだろ〉

〈上級者あるある〉

〈高一のガキが? おかしいだろ!〉


「……なんか納得いかない」

「ゲームだからな。そんなもんだろ」


 肩をすくめると時継は解説を続けた。


「でだ。小動物が相手なら『剣術』スキルは50まで上がる。『盾』なら100だ』

「100ぅ!? それって、最大までってコトォ!?』

「正確にはその上もあるんだが、今はその認識で間違いない。他にも『解剖学』とか『戦闘術』、『武具の心得』なんかの戦士系スキルは大体これで上がる。ついでに包帯も巻いときゃ『治療』も上がって一石百鳥、手っ取り早くそこそこの熟練度まで上げられるって寸法だ」

「……過程が大事だって話があったような気がするんだけど」

「面白けりゃな。つまんねー過程なら飛ばしていいだろ。てか、普通にダンジョン潜ってスキル上げしてたら効率悪すぎてリスナーみたいに頭ハげるぞ?」


〈グサ〉

〈急に刺してくるじゃん〉

〈お前だって何十年かしたらハゲるんだからな!!!!11〉


「リスナーさん! 泣かないで! 人は見かけじゃなくて中身だよ!」

「と、暗にハゲはマイナス要素だと認める委員長であった」

「九頭井君!? なんて事言うの!?」


〈が~ん〉

〈今ので一気にハゲたわ〉

〈この世に神も仏もいないのか……〉

〈神に見放されたな。髪だけに〉


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