第6話 勇気のinvite
〈†unknown†様まだ~?〉
〈クソガキもう出ないの?〉
〈切り抜きから来ました。九頭井君との掛け合いまた見たいです〉
〈ここは未来ちゃんのチャンネルだから。クソガキ見たい奴はあいつのチャンネル行けよ〉
〈探してもねぇんだよ!〉
〈九頭井~見てるか~! お前が来るの待ってるぞ~!〉
†
(……和菓子食いてぇ……)
口寂しさにふと思う。
あれから一週間。
時継はすっかり愛敬堂のお菓子の虜になっていた。
食べたいのなら買えばいいが、高校生の少ないお小遣いで一個二百円の和菓子は悩みどころである。一日一個でも一ヵ月で六千円だ。和菓子三つで漫画が一冊買える。でも食べたい。忘れたくても忘れられず、ふとした時に思い出す。まるで麻薬だ。
(……バイトでも始めるか? いやだ……。絶対に働きたくない……)
金は欲しい。でもバイトなんかしたくない。面倒だしゲームする時間が減る。
(……こうなったら親に布教して買わせるか?)
先行投資が必要になるが、上手くいけばその後はノーコストで和菓子を食べれるようになる。だが、相手もバカではない。こちらの魂胆が見抜かれたらタダ食いされて終わる。
(……実行するなら上手く計画を立てないとな……)
依存性が高くコストの低い和菓子の見極めが大事だ。
親が周りに自慢したくなるような映えるお菓子を差し出すのも有効だろう。
初期費用は掛かるがコスパの面を考えると沢山入っている贈答用がお得だろう。
問題は、バター餡子最中以外食べたことがない点である。
他のも食べてみたいのだがハズレを引いたら凹む。
愛敬堂は試食とか出してないのだろうか……。
いつも通りのボッチの昼休み。
いち早く弁当を食べ終えた時継は真面目な顔でノートに向かいプランを練っていた。
「……えっとぉ」
「んあ?」
顔を上げると目の前に未来が立っていた。
なんだか浮かない顔をしている。
未来とは別に友達ではない。
というか、時継には友達らしい友達もいない。
なんにせよ、未来と口を利くのは一週間ぶりだ。
「なんか用か?」
「……ぅん。ちょっと相談したいことがあって……」
取り繕った笑みはつついたら泣き出しそうだ。
(……まじかー)
時継は少し迷った。
クラスの連中が「愛敬さんが九頭井に相談だと!?」と聞き耳を立て始めたからだ。
はみ出し者の時継が学校のアイドルにして人気者の未来と仲良くしていたら色々と角が立つ。場合によっては面倒な立場になるかもしれない。当たり前の話だが面倒事は嫌いだ。
が、一応はクラスメイトだし、一緒にAOを遊んだ仲でもある。
ここで断っても波風が立つのは同じだろうし、とりあえず話だけでも聞くことにした。
「別にいいけど。配信の話か?」
友達の多い未来がわざわざ時継を頼るとすればそれくらいしか思いつかない。
案の定未来はこくりと頷いた。
「実はその……。あれからまた配信が伸びなくなっちゃって……。折角増えた登録者さんもじわじわ減ってて……」
「あぁ、そういう事か」
配信オタクの時継である。
事情は大体察した。
「この前のは祭りみたいなもんだしな。バズって増えた新規は離れやすいし。ちょっとくらい減るのは仕方ないだろ」
「……それは分かるんだけど。問題はもう一つあって。実はその、また九頭井君が見たいって要望がすごく多くて……」
未来が携帯を差し出す。
アーカイブのコメント欄では時継の再登場を求めるリスナーと古参ファンが喧嘩して軽く荒れていた。
「……マジか~」
時継は頭を掻いた。
こちらは予想外の出来事である。
「わりぃ、委員長。余計な事しちまったな……」
時継は素直に謝った。
良かれと思ってやったのだが裏目に出てしまったらしい。
「ううん! 全然! 九頭井君は悪くないから! 面白くない私が悪いの!」
「そんな事ないだろ……」
時継の目が泳いだ。
あの後好奇心で未来の過去配信を覗いてみたのだが、正直言ってつまらなかった。
一人だと真面目な性格が災いしてお堅い配信になってしまっているのだ。
「お世辞はいいよ。私も自分で面白くないって分かってるから……」
あはははと苦笑いが痛々しい。
それを自分で認められるだけでも配信者としては凄い事だと思うのだが。
「……まぁでも、ハプニングが起きた時とかは盛り上がってるし。委員長は弄られて輝くタイプなんだって」
半分は慰めだが、もう半分は本音だ。
配信に乱入した時も感じたが、未来は弄られたりツッコミに回ると光るタイプである。
ソロ配信でもコメント欄と上手くプロレス出来るようになれば解決するだろう。
そう思った矢先。
「だよね! 私も思った!」
急に未来が食いついてきた。
「九頭井君と配信してる時、すっごい手応え感じたの! 私今、面白い事になってるなって! なによりね、私、楽しかったんだ!」
「そ、そうか……」
さっきまで泣きそうだった未来が急に笑顔で語り出し、時継は困惑した。
女、謎過ぎる。
「そうだよ! 本音を言うとね、私、ダンジョン配信向いてなのかなって思ってたの。ゲームとかあんまりやった事ないし、難しい事いっぱいだし、死んでばっかりだし、あんまり面白くないなって……。自分が楽しんでないのにリスナーさんが楽しめるわけないのにね……。でも、九頭井君と一緒に遊んだ夜はすっっっごく楽しかったの! このゲームってこんなに楽しいんだって! 私でもこのゲームこんなに楽しく遊べるんだって! だからね、その……」
ひとしきり語ると、未来は急に真っ赤になって大人しくなった。
「そ、そのぉ……あのね? く、九頭井君が嫌じゃなかったら、ま、また一緒に遊んで欲しいなって……」
パツンパツンに膨らんだ制服の胸元で細い指先をイジイジする。
チラチラと見上げる上目遣いが捨てられた子猫みたいだ。
はっきり言ってクソ可愛い。
可愛くないわけがない。
だって相手は学校一の美少女だ。
時継だって一応男の端くれなので恥ずかしくなって頬が火照った。
「……わりぃ、無理」
それはそれとして時継はお断りした。
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