第4話 そして伝説ははじまった
「え? そ、そうですけど……』
〈なに? 知り合い?〉
〈盛り上がって参りました!〉
〈おっさんじゃねぇのこいつ?〉
〈先生だったらウケるな〉
〈それはキツイって〉
戸惑う未来に†unknown†が告げる。
『オレオレ! 同じクラスの
〈え、未来ちゃん委員長なの?〉
〈めっちゃぽい〉
〈あざて~。余計に好きになるわ〉
「え~~~! 九頭井君って、あの九頭井君!?」
未来は驚いた。
九頭井時継はクラスメイトの変なオタクだ。
友達も作らずにいつも一人でラノベを読んだりスマホゲームをやっている。
そんな事をしていたら普通は嫌な人達にイジメられそうなものなのだが、そんな気配はまるでない。一年二組という集団の中に独立国を作ったみたいに独自の世界を生きている。
クラスメイトではあるのだが、まともに話すのはこれが初めてだ。
「って、だめだよ九頭井君!? こんな所で本名言ったら身バレしちゃうよ!?」
未来のような理由がなければネットで本名など明かすべきではない。
特に時継はなりきりプレイを重んじているようだし。
残念だが、今回の配信はアーカイブを残さない方がいいだろう。
『ああ、いいのいいの。別にバレて困る事ねぇし。てか委員長だって本名プレイしてんじゃん』
「そ、そうだけど……」
〈†unknown†様フランク過ぎワロタ〉
〈てかなんでこんなガキが年代物のレア装備持ってんだよ〉
〈トレードじゃね? 知らんけど〉
『だろ? ならいいじゃん。てか配信中って事は愛敬堂の宣伝頑張ってんだ?』
「う、うん。一応……」
配信活動の事は隠していない。
友達も応援してくれて、ツイッターで配信の告知なんかをRTしてくれる。
だが、あまり面識のないクラスメイトに言われるのは恥ずかしい気がした。
「いぇ~い! 委員長のリスナー! 見てる~?」
「九頭井君!?」
突然のゲーム内ボイチャに未来は慌てた。
〈クソガキかよwww〉
〈NTRビデオじゃんwww〉
〈黙れガキ〇スぞ〉
〈うぉ! 委員長の配信めっちゃ人気じゃん!〉
ヤマタノオロチのアイコンのナインヘッドという人物が発言する。
もしかしなくても時継だろう。
「ちょ、九頭井君!?」
「AOやってるってのは知ってたけどまさか同じサーバーだったとはな! てか始めたのって結構前じゃね? それって二キャラ目?」
「い、いや、一キャラ目だけど……」
時継のマシンガントークに未来はタジタジである。
友達のいない子だからこんなに話す人だとは知らなかった。
「マジ? それでオーガ窟苦戦してんの? って、このゲーム知らないと育成クソマゾいから仕方ないか」
〈うるせぇ九頭井! 未来ちゃんはこれでも頑張ってんだぞ!〉
〈そうだそうだ! 未来ちゃんに謝れ!〉
〈うっせぇバーカ! お前らには言ってねぇよ!〉
「ちょっと九頭井君!? リスナーさんと喧嘩しないで!?」
「よかったなお前ら。委員長に庇って貰えたぞ?」
ニヤニヤ声で九頭井は言うと。
「心配すんなって委員長。配信なんかリスナーと喧嘩してなんぼだろ」
〈一理ある〉
〈おもしれークソガキ〉
〈もしかしてこいつも配信者か?〉
〈いや俺はただの配信者オタクだから〉
〈コメントすんなよwww〉
あっちでこっちで未来のキャパは限界である。
「って、そんな場合じゃないから! オーガがロードで大変なの!?」
長々と話しているが、いい加減襲われてもいい頃合いである。
「落ち着けよ委員長。OLは石壁で押さえてっから」
「え?」
振り向くと、二人のいる地底湖へと続く一本道は石造りの壁で塞がれていた。
「クラス3の魔法、
〈この魔法ちゃんと使ってる奴初めて見たわ〉
〈対人戦だと稀によく見るな〉
〈ある意味これが正しい使い道だよな〉
「凄い! 九頭井君魔法使いなの!?」
魔法の行使には対応する魔法を覚えさせた
とてもではないが初心者の未来には手が出せない。
未来にとっては魔法使いというだけで尊敬の対象である。
「チッチッチ。誰でもない者だって言っただろ? 確かに魔法は使えるが、それだけが俺の全てじゃないぜ?」
〈†unknown†様素敵いいい!〉
〈ロールプレイしてなくても面白い逸材〉
〈いいから質問に答えろよ〉
〈殴りたいこの笑顔〉
「なんだかよく分からないけど、九頭井君って凄いんだね……」
プレイヤーとしても配信者としても圧倒的に勝っている。
学校ではパッとしない子の意外な才能である。
「別に凄かねぇけど。ってちょっと待った! 引いてるわ!」
「え?」
「竿だよ竿!」
〈竿♂〉
〈思った〉
〈黙れよ〉
〈エロコメ氏んでどうぞ〉
「こいつは大物だぞ! だっしゃあああ!」
湖面を割って現れたのはオーガそっくりの顔をした巨大な海竜だ。
「なにこれキモイ!?」
「この湖の主、オーガヘッドサーペントだ!」
〈なにそれ始めて聞いたんだけど〉
〈ここでしか釣れないクッソマイナーモンスターだからな〉
〈てかこいつ主が釣れるって事は釣りスキル
〈酔狂が過ぎるだろwww〉
〈そうでなきゃこんな所で釣りしてねぇべ〉
〈強いの?〉
〈少なくとも釣りスキルなんか上げてるネタキャラが勝てる相手じゃないだろ〉
〈誰がネタキャラだバカヤロー!〉
「九頭井君!? リスナーさんに暴言は良くないと思うよ!?」
「だから委員長は真面目過ぎるんだって」
〈いぇ~い! †unknown†様の暴言ゲット~〉
〈ずり~! 俺も罵ってくれ~www〉
「ほらな? 世の中には罵倒されて喜ぶ豚野郎がいるんだよ」
「えぇ……」
未来にはちょっと理解出来ない世界である。
(……でも、登録者を増やす為にはそういうのもやってかないといけないのかな……)
実際、時継が現れてから同接は増える一方だ。
登録者数もさらに一〇〇人程増えている。
こんな勢いで増加したのは初めてである。
〈お願いだから未来ちゃんはそのままでいてね……〉
〈でも未来ちゃんに冷たい目で罵られたくね?〉
〈分かる……〉
〈悔しいけど分かる……〉
〈あいつの言う通り俺達豚野郎なのかな……〉
「リスナーさん!? 気を確かに持ってください!?」
「避けろ委員長!」
「へ?」
直後、オーガヘッドサーペントの口が青く光り、超高圧の水流がミライの身体を貫いた。
「いやああああああああ!?」
絶望の悲鳴が響き渡る。
ミライのHPは一瞬で消し飛び、色彩を欠いた灰色の死の世界へと切り替わる。
「そ、そんなぁあああ!?」
事切れた肉体の上、灰色のローブを着た魂だけの姿になって立ち尽くす。
死亡。
ジ・エンド。
おしまいだ。
「諦めるのはまだ早いぜ委員長!」
時継が告げると†unknown†の頭上に呪文詠唱を知らせる
『開けよ門よ、戻れよ魂、死の深淵より眩い光手繰り寄せ、今一度生命の糸を織り直さん。
魔法にテキストマクロを当てているのだろう。
本来表示される呪文の上に時継が考えたと思われるオリジナルの詠唱が表示される。
〈ひゅ~……〉
〈俺は嫌いじゃない〉
〈むしろ今のネトゲに足りないのはこういう人材だろ〉
〈なんか久々に俺もAOしたくなってきたな〉
『相手の蘇生を受け入れますか?』
未来の画面に確認ダイアログが表示される。
もちろんYESと言いたい所だが。
「……でも、わたしなんか蘇生しても九頭井君の足手まといになるだけだよ」
素人の未来でも分かる。
オーガヘッドサーペントはとんでもない強敵だ。
蘇生してくれるのは嬉しいが、蘇った所でどうせすぐ死ぬ。
蘇生するだけ秘薬の無駄だし、時継が未来を庇うなら、それこそ邪魔になってしまう。
それなのにだ。
「なにつまんねぇ事いってんだよ委員長! このタイミングで主が釣れるとか撮れ高しかないだろ! 死んだら何度だって蘇生してやっから頑張ってこいつ倒そうぜ!」
時継の言葉に未来は鳥肌が立った。
(……そうだよ。私ってばなに日和ってるの! こんなに盛り上がってるんだよ! バズるチャンスじゃない!)
〈小僧よく言った!〉
〈やべ、不覚にもおじさんちょっと泣いちゃった〉
〈なんかおもしれー事になってんじゃん〉
〈このガキはムカつくけど言ってる事は正しい。未来ちゃん、有名になって実家の和菓子救うんでしょ! ならここで頑張らないと!〉
「……うんっ!」
未来は迷わずYESを押した。
「あ、後ろ」
ボガン。
その直後、石壁から解き放たれたオーガロードの群れに殴り殺された。
「……えーと、もう一回蘇生して貰っても……」
『開けよ門よ、戻れよ魂、死の深淵より眩い光手繰り寄せ、今一度生命の糸を織り直さん。蘇生』
伝説の始まった夜、未来とそのリスナーは完全にこの詠唱を暗記する事となった。
――――
現在差し替えエピソードを追加中。ここからはタイトルに新〇話と書いてある話に進んでね。
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