精神の回復には時間がかかる

 ストレスの大きな原因から逃げれば、それで自然と元気に戻れるものだと思っていた。しかし、落ち込んだ精神が回復するには時間がかかる。というのは、うつ病を経験しているから想像できる。


 精神が病みすぎると、心に効く系の言葉が全く響かない。そういった本を何冊か持っていて、読み返したのだが何も感じない。買った時は良いと思ったのに。


 これだけ心が弱いと、宗教に付け込まれそうと思われるかもしれない。だが、祖母が他界してやっと抜けることができたのだから、そういうものに頼ることはない。

 病気のために早く亡くなった伯母が、ある新宗教の信者だった。知らないうちに祖母まで入信していた。ちなみに世間を騒がせた宗教ではない。

 神棚には意味の分からないお札がまつられ、祖母は熱心に何やら唱えていた。

 祖母の他界後、続けるよう説得に訪れた教団の支部の人を「必要ない」と言って追い返した。家族に強制することはなかったが、困ったことも多少あったので、私は宗教に頼ろうなどと思わない。




「元気ないね」「顔色が悪いよ」「最近あんまり笑わないよね」

 周囲からそう声をかけられた。私自身はしっかりと背筋を伸ばして立っている気でいたのだが、誰が見ても弱っている状態だったようだ。

「そんなことないですよ」と答える私の声は震え、目に溜まる涙が流れないように耐えた。ちょっと会話をするだけでも涙が出た。


 涙腺が緩くなって、ちょっとしたことで視界が涙でにじむ。7月の今も受ける刺激によっては涙もろいままである。

 嫌なニュースを読んでも、幸せそうな家族を見ても、良い音楽を聴いても、涙が出る。悲しくなるとか、そういうことではなく、なぜか泣いてしまうのだ。

 6月まで普通にテレビを見ることもできず、いろいろなものから距離を置いていた。




 そんな状態が続いて、自分の体と意識が繋がっていない感覚になった。ふわふわと浮かんでいて、現実世界と離れているというか・・・・・・。

 誰かの過去を見せられているようだとか、世界が古い写真の薄い色に見えるとか、見えないフィルターが存在して五感が弱まって届くとか、そういう感じだ。

「本当に私は生きているのだろうか」と疑ってしまうほどの妙な感覚はまだ少し残っている。




「うちの娘、まだ結婚してないんですよ」

 母が知人との会話中にそう言うことがある。つい先月にも聞いたばかりだ。

 この「まだ」という言葉は、いつか結婚するという意味が含まれているので、私は釈然としない。

 しかし、私自身も「まだ独身なんですよー」なんて話の流れで言ってしまうことがある。結婚する未来なんて考えていないのに。


 これから先も「まだ」と言われたり言うことがあるだろう。いい年齢になれば結婚して当然という社会の考え方が変化しない限り終わらない。

 誰にも文句を言わせない。言われてもしっかりと立っていられるように、精神状態を回復させていきたいと思う。

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