副業を考えたことによる強いストレス

 恥ずかしい話、寝る時に介護用の尿とりパッドを使わなければならない時期があった。寝具を汚すことがなかったのは幸いだったと思う。

 寝入って2時間ほどで尿意のために目覚め、トイレまであと数歩のところで間に合わない。私は情けなさで打ちのめされた。

 利尿作用のある飲食物を避けたり、寝る前にトイレに行ったり、できることはした。しかし、どうにもならない。

 調べてみると、不安によってそのような症状になることがあるらしい。ここでやっと体調不良の原因が精神的なものであると気付いた。


1月、将来の不安からマッチングアプリに手を出す

2月、老後の資金への不安から投資を学び始める

3月、副業に繋がる講習で強いストレスと不安を感じる


 1月からストレスが溜まっていたのだと、3月が終わる頃になって知った。




 お金についての記事を読むと「副業」という言葉が目に入る。今の仕事をしたままで収入を増やそうと思えば、副業を考えるのが当然だ。

 私の仕事について再び書いておく。自営業の実家で従業員として働いており、基本的に休日はない。1か月間休日がないこともある。先月もそうだった。


 副業については以前から考えていて、そのための講座を受講していた。ある会社の商品を作って収入を得るというものだ。内職と言えば分かりやすいだろう。安くない受講料だったが、自宅で仕事ができるなら、と申し込んだ。


 商品を作るための技術を身に付け、作品製作の課題に合格できれば依頼を受けることができる。2年間で数点の課題に取り組む必要がある。私は残り半年というところまで進んでいて、二つの課題に合格する必要があった。それまでのペースを考えると余裕を持って修了できるはずだった。




 2月に入ってから「絶対に合格して仕事にしなければならない」という焦りが出てきた。前回に書いた老後の資金への不安のためだ。

 さらに同時期、講師への不信感が増していた。そして、この半年で最も悪い状態におちいっていく。


 それまでにも講師に対して疑問は持っていた。上手くできない部分についての質問に「分からないから、何回でもやり直して感覚をつかんで」と返ってくる。

 私はできない原因を考えて改善するための方法を模索する。それでも上手くいかなければ、どう考えてどう直したのかを伝えて再び質問する。返ってくる答えは同じだ。

 やり方を教えたのだからできるまで自分でどうにかしろ、ということだ。理論的な講師ではない。

 私は疑問を持ちながらも、そういうものなのかと素直に受け止めて課題を進めていった。


 2月以降、講習中に他の講習生の質問に対する講師の指摘に疑念を抱くことが増えた。私が受講し始めた時と比較すると、講師に余裕がないような印象が出てきた気がした。苛立ちがあるような、そういった様子だ。

 募集する時に「〇〇ができれば大丈夫」と言葉を並べて勧誘していたのは嘘だったのかと、矛盾を感じた。講座の説明の時は優しい言葉で誘い、いざ受講となったらそういう扱いなのか、と。




 また、スタッフのミスが増えたことについて講習中に注意する場面に遭遇した。私との連絡の中でもミスがあり、その様子から疲れているのではないかなどとスタッフの健康を案じた。


「この人と一緒に働きたくない」

 講師に対して、そう思うようになっていた。しかし、せっかく時間とお金をかけて学んできたのだから無駄にできない。稼がなければ。

 そして、心が疲弊していった。涙を流しながら作品を製作するようにもなった。


 うつ病の経験から、この状態は良くないと気付くことができた。続けるともっと酷くなると思い、学びたいことを学び終えた時点で「辞める」と伝えた。仕事にはできなかったが、技術を学ぶことはできた。


 私は焦るあまりに忘れていたのだ。この講座を受講したのは、仕事を得るためではなく技術を身に付けるためだということを。

 その会社の商品を作りたかったのではない。私自身がデザインして作れるようになりたいと思っていた。販売できるものを作る技術が欲しかった。


 最後の講習が終わった瞬間、声をあげて泣いた。修了できなかった悔しさが半分、解放された安心感が半分。




「あの時点で辞めて良かった」

 今はそう思う。もし続けていたとしたら、人生を辞めることになっていたかもしれない。

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