老後の資金はどうする

 独身のままで生きていくと決めた私は、不安を抱えつつも「どうにかなるでしょ」くらいの気持ちでいた。2月にスーパーで署名活動に遭遇するまでは。




「このままじゃ生活できないんです。お願いします」

 そう声をかけていたのは、年金についての署名活動をしている団体だった。物価や光熱費の上昇により、年金を減額されると暮らしていけなくなるのだ、と。

 それを聞いた私は、どうやって生きていけばいいのだろうという新たな不安に襲われる。


 人生がどこまで続くかなんて誰にも分からない。明日終わるかもしれないし、想像以上に長生きするかもしれない。

 老後の生活について考えておかなければならないと、焦ってしまった。




「年金だけでは足りないので投資をしましょう」

 老後の資金を調べると、こういった記事をよく見かける。ならば投資をするにはどうすればいいのか、とさらに調べていく。


「月々の支払いを見直す」

「生活費を3か月分ほど確保しておく」

 実家暮らしなので家賃などは払っていないが、給料は安い。貯金もそれほどない。年金や税金、月々の固定費を考え、見直しながら支出を削っていく。すると、あれもこれも贅沢なのではないかという気持ちになっていった。


 たとえば、広告掲載のカツオのたたき100g税込170円は安いはずなのに「こんな贅沢できない」と手を出せない。

 スイーツなんてもっての外で「食べなくても生きていける」と安いプリンすら食べなくなった。


 服を買うのも躊躇ためらわれる。ダイエットをして、服のサイズが3LからMまで落ちた。

「痩せたらオシャレする!」と張り切っていたのに、ぶかぶかになった服を着たままでいる。着られるから十分ではあるのだが、こんなはずではなかった。

 セールで値下げされた服を見ても購買意欲が湧かない。

 

 こうして徐々に心の栄養が足りなくなっていった。そんな中でも映画と音楽のサブスクだけは解除せずにいた。私にとって本当に大切なものだと気付かされた。




「長期・分散・積立」

「少額からでも早く始めた方がいい」

 せっかく節約したのだし投資をやってみようとした。しかし、精神的に弱っている私には、証券口座の規約を読むのが困難だった。

 来年から新NISAが始まるらしいので、今年は焦らずにしっかり投資について勉強することに決めた。急いで始めて資金を失っては元も子もない。

 誰かの言葉に惑わされず、私自身の考えで動けるように、知識を身につけていきたい。そうしなければ、きっとまた不安になってしまうから。




 7月になった今でも、いろいろなことを贅沢に感じる。だから、安くない交通費をかけて遠くの病院に行くことも躊躇ためらってしまう。


 よく考えてみれば、私はそんなに出費が多くない環境にいる。市街地から遠く離れた近所付き合いがあまりない場所に住み、友人が少なく、飲酒をしない。だから、ほとんど交際費がかからない。

 財布の紐を締めすぎる必要はなかったのに、変に焦りを感じて自分で自分を追い込んだ。


 30代後半でお金について考えるための機会を得られて良かったのだと思うことにした。精神的に少し回復した今だから、そう言えるのだけれど。

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