男性への苦手意識

 私は男性が苦手だ。とはいえ、男性の美容師や整体師などに接する時に強い抵抗感はない。基本的に女性を指名するのだが、急ぎの時などは希望どおりにいかないこともある。男性の下心が苦手と言うのが正しいかもしれない。

 成長が早かったことや、太っていたこともあってか、小学校高学年から胸が大きめで、嫌な思いをすることがあった。体育の水泳を理由を作ってサボったこともある。




 私は自分の部屋を持つまで、両親とともに川の字で寝ていた。

 小学6年生のある夜、目覚めると誰かが私の胸を触っていた。そっと指の先で。意識があると悟られてはまずいと思い、寝たふりをしていた。

 目を閉じていたし、それをやったのが誰なのかは分からない。恐怖を感じたのは確かである。その日だけだったのか、それ以前にもあったのか。考えただけでゾッとする。

 物置のようになっていた部屋を「私が片付けるから」とお願いし、自分の部屋を得た。




 次に思い出すのは高校1年生のこと。運動は苦手だったが、スポーツをやってみようと柔道部に入部した。個人種目だし、走らなくてもいい。そんな理由だった。

 女子部員は私と一緒に入った未経験者が二人で、男子部員は先輩が数名と同級生が一人。練習はつらかったが、動いたり技を覚えるのは楽しかった。

 そんな中、男子と組んで寝技の練習をする日が訪れた。袈裟固けさがためという胸が顔に当たる形の技である。

 その日の練習終わり、ロッカールームで男子の会話を聞いてしまった。男女で分かれてはいるが、話し声がよく聞こえる。

「なあ、どうだった?」と先輩。

「柔らかかったです」と同級生。

 女子が静かだからいないとでも思ったのか、そんな会話が続いた。男子高校生が女子と寝技を組んで、そういう感想を持つのは分からなくもない。しかし、女子に聞こえる可能性のある場所で話すのは良くない。以降、男子と組む時は嫌な気分になった。

 練習のつらさは我慢できても、男子のそんな会話は我慢できない。ちょうど部活中に怪我をしたので、それを理由に退部した。




 そして大学3年生の時、痴漢にあった。よく晴れた土曜日の午前のことだ。その日は資格取得のための講義があり、大学への道を歩いていた。

 後ろから走ってくる足音が聞こえたので、歩道の端に寄った。追い抜かれると同時に左胸を触られた。何が起きたのか分からず、思考も歩みも停止した。男は走って遠ざかっていく。

 少し離れた所で男が振り返った。ボサボサの髪、メガネ、白いTシャツ、薄い色のジーパン。忘れたいのに、嫌になるほどよく覚えている。

 このままでは遅刻してしまうと、大学への道を急いだ。席に着くと、そこで初めて視界が涙でにじんだ。周囲に知られないようにプリントを見るふりをして下を向いていた。

 昼間の路上で痴漢にあうとは思わなかった。男は逃げてしまったし、どうしたらいいのか分からなかった。


 数年前にこの話を母にしたことがある。

「それで済んでよかったね」

 その言葉に、話すんじゃなかったと後悔の念でいっぱいになった。これが触られる怖さを知らない人の反応なのだろう。




「ねえ、これから遊びに行かない?」

「良かったらお茶でもしませんか?」

 都会に住んでいた頃は、街でそんな言葉をかけられることがあった。その時も騙されているような気がしていた。モテない私なら簡単に引っかかると思っているのだろう、と。


 こういったことが積み重なって、私は男性と関わることに不安を抱きやすいのだと思う。

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