第6話 マザーランド

ー同日 札幌市某所


「先週はサツがここへガサ入れに来たっていうのに_今度は国防省の犬が三匹…こんなところにわざわざ何の御用ですかね?」


 松羽組_札幌を拠点で活動する日本三大指定暴力団の一角にして最古参の組織。その地位を保持するために殺人、強姦、暴行、大麻の密輸・栽培、などあらゆる犯罪に手を染め、連日ニュースで取り上げられ、世間を敵に回してもなお更に構成員を増やし勢力を強めている。


 そして、その松羽組を統率しているのが、組長の松羽与一(まつばね よいち)、若くして父の後を継いだ男はいつしか北海道の暴力団を束ね、全国に拠点を展開するほどに成長させた手腕の持ち主だ。


「あなた方が関与しているであろう特殊詐欺の発生件数が年々減少傾向と聞きました」


「まぁ_何も知らねぇ若者を小遣い程度の金で釣って指示出しても裏切ったりや失敗するケースが多いからね。要するに_リスクに対してリターンが合わないから手を引いただけさ」


 まるでお互いに探り合うかのように男は木のケースから葉巻を取り出すと、経緯を語りながら器用にシガーカッターで先端を切り出し、慣れた手つきで葉巻を咥えながらマッチで切り口に火をつけた。


「だが、ここに来たのは別の用件だろ?」


男はふぅーっと煙を交えた息を吐き出す。その煙は三頭の顔に噴きかかるも彼女は動じない様子で男に視線を向け続けた。


「そうですね_あなた方は最近この方と面識はありませんか?しかも結構な頻度で」


 三頭は写真を男に見えるように机の上に置いた。そこには眼鏡をかけたごく普通の青年と黒塗りの車の窓から笑顔で茶封筒を渡す構成員の姿が映し出されていた。


「あー彼ね。真面目できちんと仕事をこなしてくれるからね_いつもお世話になってるよ」


「調べてみたら、彼の名前は金 道允(キム ドユン)。在日コリアン3世で、4月から北海道大学に進学を機に一人暮らしを始めたあなた達とは無縁の大学生でした」


 男は三頭の言葉にもの応じする様子はなく、葉巻を咥えながらソファの凭れかかり上から目線で見つめていた。


「まぁ…人生は色々あるからねぇ_この大学生みたいに出会うこともあるだろうさ」


「ですが、そんな彼は最近講義の欠席を繰り返しているみたいですが、何か心当たりでもありますか?」


「さぁねぇ…それは私ではなく彼に聞いてくれ」


「例えば、彼が何かしらの"異能力"を手に入れたとか_」


 三頭の言葉に目を一瞬大きく目頭を上げる。男は紛らすかのように葉巻の燃え滓を灰皿に押し付けた。


「もし、心当たりあるなら彼以外の異能力者も_」


 すると勢いよく扉が開き、黒のスーツに身を通した女性が例の大学生を担いでいた。床には純金の装飾品と共に構成員の男たちも倒れていた。


「この人!、手から"金"を出せんるんだって!」


「はぁ…知ってしまったら、お前らを返すわけにいかなくなっちまったじゃねぇか」


 男は深くため息を吐くと胸ポケットから拳銃を取り出し三頭の額に銃口を向けた。しかし、ドアの向こうから銃声が聞こえ、瞬く間に男が持っていた銃が宙に舞う。


「こいつらをやれ!」


 構成員の掛け声にスーツ姿の男女を襲いかかり、その場は騒然となりながらも三頭は出されたお茶を口に運んで余裕ある顔で組長の男を見つめていた。



「ご馳走様でした。今後は客人に毒を忍ばせるのやめた方がいいですよ_"機会"があればの話ですが」


 しばらくして、広々とした客間に静寂が訪れる。三頭はカップを置くと、一言を添えて立ち上がり、スーツの男女と共に組の屋敷を後にする。

 外は生憎の雨の中、島江が1人傘を差した状態で入口の前で待っていた。


「君たちはここで大丈夫だよ、お疲れ様」


 三頭はスーツ姿の男女に一言を添えると、島江の傘の中に入り込んだ。


「初めての任務はどう?」


「…ぼちぼち」


「"彼"のことはどうかな?」


「まだ、能力のコントロールができていない」


「そう、その話もう少し詳しく聞かせて」


 雨が降り続ける中、島江はその日行われた任務について語り始めた。




「はぁ…はぁ」


 島江は凍りついたテイブが動かないを確認すると少女を避難経路に向かわせつつ、手袋を再びはめて彼らの元に戻ろうとしたとき…


『お前、面白そうな能力持ってんじゃん!』


 笑顔の龍河シンメが興味津々で島江は足を止めると『俺と勝負しろ!』と挑戦状を叩きつけた。


「はぁ…あの野郎」


 呆れ気味の練馬は、島江に「銃と能力使わずに、倒せ」と手信号で送る。それを受け取った彼女はゆっくりと龍河シンメの方へ歩む。


『ほら!来いよ!さっきみたいに!!』


 興奮気味の彼は、軽く体を跳ねて臨戦体制を整えていた。一度目瞬きすると島江の姿はなく顔を掴まれ、次の瞬間には床に頭を打ちつけられ龍河シンメはその場で動じることなく気を失った。



「なるほどね、まだまだ訓練は必要そうだ」


島江の話を聞いて、三頭は小さな笑みを浮かべていた。


「今、メンバーで歓迎会やっているけど…お姉ちゃん行く?」


「そうね、行こうかな」


市内はやがて少しずつ雨が止み始め、島江も傘を閉じると、島江は飲み会の酒場に案内した。

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