第4話 火焔


「…ここは?」


 目の前には真っ暗な空間に人の姿がちらついた。


「あなたは誰?」


『俺か?俺は"ホルダー"としてのお前。まぁ言っても分からねぇから"シンメ"って呼んでくれ』


 さらに、シンメはニッヒヒと口角を上げながら見せつけるように、指の先から火の玉を作り出し立ち上がる彼に見せつけた。


『今の龍河焔俺たちの体じゃ、もって2、3分しかこの能力を扱えねぇ、それで俺から提案だ』


 シンメは拳を握りしめると火の玉は消え、笑顔とは真逆の真面目な視線で彼を見つめた。


『俺が能力を最大限発揮できるように、お前は明日から体を鍛えろ!毎日な!』


「そんな、毎日なんて無茶だよ」


『いつまでも弱音吐いていればいい、その頃には死んでるか、"俺に乗っ取られる"かの二つしかないけどな』


「わ、わかったよ、やるよ」


『それじゃあ決まりだな!』


 シンメの提案を受け入れると離さないように強く握り締めれば、先程のような笑顔で見つめながら『お前に能力を分けてやる!』と言葉を残すと、手から全身へと炎が駆け巡る。したがって段々と少しずつシンメの輪郭がぼやけていく。


「目が覚めたか、龍河!」


 龍河は目を覚ますと目の前に、ニヤニヤとした笑顔の練馬がこちらを見ていた。


「そ、そういえば、テイブは?」


「何言ってんだよ、自分で倒したんだろ?覚えてねぇのか?」


「はい…全く」


(きっとあの時は、もう1人の自分シンメが倒したのかな)


 練馬はめんどくさそうにもみあげを掻きつつ、ポケットからタバコを取り出そうとすると、「施設内は禁煙だぞ、練馬」と蛇倉が横槍を入れる。


「へいへい」


 練馬は取り出した煙草の箱を仕舞い込むと寄ってくる蛇倉に対して「さほど建って間もない施設なのに、喫煙所の一つや二つもないのはどうだと思うけどなぁ」と小さくぼやいては背を向けた。


「体調は大丈夫か?龍河焔」


「えぇ…なんとか」


「面白いものを見させてもらったよ、そんな君にこれを渡しておこう」


蛇倉はポケットから黒い革手袋を取り出すと、彼に差し出した。


「手袋ですか?」


「特殊な繊維が編み込まれた手袋でね。君の"炎"の能力を抑えることができるだろう。ほら、島江だってつけているのはわかるだろ?」


「お待たせしました。センター長」


 丁度いい時機に櫻井は島江を連れて戻ってきた。彼女も同様に手袋をつけており、また戻って来た際には顔や体には傷一つもつけておらず、何事もなかったかのように平然とした様子を装っていた。


「島江は何体倒せた?」


「え、えっと…15体です」


蛇倉が櫻井に尋ねると慌ててバインダーを開いては倒した数を報告すると、蛇倉は内心驚きと共に口角を上げては、「次来る時は私が相手してやろう、久々に体を動かさないとな」と息を吐きながら腕を回した。


「センター長さんが島江と戦って勝てるんすか?」


蛇倉の呟きにヘラヘラとした笑顔で練馬が振り返れば、彼女のことを煽り散らかすと癇に障ったのかサングラスを外しては練馬のことを見つめる。すると一瞬にして男の身体は石化していった。


「私も君たちと同じホルダーでね。見るものを瞬時に石に変えることができるのさ。後で練馬こいつに"舐めた口は叩くなよ"と伝えてくれ」


蛇倉は再びサングラスをつけると能力が解け、練馬は体制を崩し彼女の前で跪く。その様子にフッと軽く鼻で笑えば、櫻井と共に先に出ていく。


「くっ!…あの野郎、とりあえず俺たちも帰るぞ」


悔しそうな表情を浮かべながらも練馬は気持ちを切り替え、龍河と島江を呼び寄せてはその場を後にした。


ー数日後


「エックスバリュー平岸店、リニューアルオープンしました。よければどうぞ!」


 龍川と島江は依頼を受けて、店の入り口の前でチラシを配っていた。すると駆け抜けるように車が目の前に止まった。


「龍河、島江、乗れ!緊急事態だ」


「いきなりどうしたんですか?」


「後で伝えるから、早く!」


 窓が降りると切羽詰まった様子で乗り込むように練馬に促され、されるがままに車に乗り込めば、車は一目散に走り出した。


「練馬さん何があったんですか?」


「うちと契約している札洋銀行の大谷地支店で強盗事件が起きてさ、今は人質を取って立て籠ってんだよ!」


 龍河に状況を見せようと携帯を取り出すと、強盗事件の様子を見せた。


 画面の端には速報として取り上げられ、周辺の大きな通りや隣接するバス停、地下鉄の出入り口も規制線で仕切られていることで、辺りは車とバスで長蛇の列が形成されていた。


「そこで俺たちは警察の特殊部隊よりも先に奴らの制圧と人質救助を行う。現地に着いたら作戦の内容を教えてやる」


練馬の顔にはどこか楽しもうとしている少年の面影を感じながら、車は大谷地へと進んでいく。

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