第3話  FEEL like Dragon


「ようこそトリカブトへ!」


 練馬はニカニカと笑みを浮かべながら龍河と島江に隊員の紹介を終えると、机に置かれた煙草と灰皿を持って


「ちょっと屋上で吸いに行くから│是枝翔是ちゃんは2人のこと頼むわ!、俺も後からついて行くから!」


「りょ…了解しました」


 練馬は是枝に指示を出すと、部屋から出ていく彼に困惑しながらも二人の元へ向かい


「これから移動するので外に出て待ってて!車取ってくるから」


 2人は是枝の指示に従い、階段を降りてビルの入口で車が来るのを待ちながら


「あの…島江さ…」


「なに?」


 龍河は彼女に尋ねると間髪を入れずにスマホを操作しながら答えた。


「あのとき…自分を撃ったのはなぜですか?」


「デイブに襲われ、感染すると9割の確率でテイブになる。だからあなたを撃った、それだけ」


「そ、そう…なんだ」


「……」


 島江はイヤホンを付け、顔を隠すように制服の上に着ていたパーカーで頭を覆う。その後2人の間には都会とは思えない程に静寂が広がり、しばらくすると2人の前にけたたましい排気音を響かせたいかつい形姿のした車が止まった。


「おまたせ!ふたりとも乗って!」


 窓が降りると是枝の掛け声に2人は乗り込むと車は段々と都会から離れ、一面には田園の風景が広がり


「是枝さん、これからどこに向かうんですか?」


「トリカブトが運営している”研究施設”だよ」


「研究施設?どんな実験をしているんですか?」


「ウイルスの特効薬やホルダーの身体能力の測定とか色々やってるかな?」


車は細い舗装路の坂道を進んでいくと、やがて切り開いた広大の土地に大規模の建物が姿を表した。


「これだよ」


「こんなところに…」


 龍河は目を奪われながらも、車はラボの中へへと入っていき、玄関前で止まると2人の女性が出迎えいた。


「ようこそ、国立先端科学研究センターへ」


 3人は車から降りると、白衣に小さいレンズのサングラスをつけており、もう一人はバインダーを持って斜め後ろに構えていた。


「私はセンター長の│蛇倉 真由子じゃぐら まゆこ、隣りにいるのが…」


「助手の│桜井 みこ《さくらい みこ》です」


「三頭から話は聞いている。実績が出ていない私達への当てつけかい?」


「う〜ん…どうなんですかね?」


 蛇倉は呆れたような様子で3人のことを見つめると、それに是枝は作り笑顔で答えた。


「それじゃあ、櫻井、案内を頼む」


「了解しました、それではついてきてください」


 櫻井の指示で3人は促されるように施設の中へへと入っていく。


「はじめにセンターは、研究棟と訓練棟の2つで構成されています。今私達がいるのは研究棟で、特に抗ウイルス薬の研究・開発を行っている場所になります」


「さっき蛇倉さんが言ってた"実績がない"ってのはどういうことなんですか?」


 窓越しに研究している人たちを見つめながら、龍河は2人に尋ねた


「テイブに対する特攻薬がまだ出来ていないんだよ、世に現れて5年も経っているのに未だにね…」


「そ!…それでは、次に訓練棟に案内します」

 

 蛇倉は質問に対してポケットに手を入れながら答えるとその中から錠菓をカラカラと一粒取り出し、口に含ませると一足先に歩き始めた。それに慌てて櫻井は3人に呼びかけ、訓練棟に続く連絡橋を渡っていく。


訓練棟に入っていくと先程の光景とは打って変わり中は暗く、モニターの画面が反射していた。


「こちらが訓練棟です。ここではあなたたちホルダーの能力強化、育成、特訓が行っています。これから龍河さん、島江さんは分かれて別々の部屋に入ってもらいます」


「わかりました」


「……」


 櫻井の指示の下、龍河と島江は分かれて部屋に入る。中は入り口とは違って窓のない真っ白な壁に覆われており、横に置かれていたテーブルには、拳銃と弾が置かれていた。


「龍河、島江聞こえるか?」


「はい!」


「…」


 上から聞こえる蛇倉の声がアナウンスに2人は返事を返す。すると向かいの壁がゆっくりと開き上がり、その隙間からは聞き覚えのあるうめき声が上がって行くにつれて大きなり。


「これからテイブを倒してもらう、安心しろウイルスから培養してできた実験台にすぎない」


グルル…ぁ゙ぁ゙ぁ゙…


「そんないきなり無茶なことを…」


「近くに拳銃があるだろう。それを使っても構わないんだぞ〜」


 蛇倉からのいきなりの指示に龍河は困惑しつつも、襲いかかるテイブから身を躱しながら拳銃を取ろうと手を伸ばす。


(っ!!)


ガシッ!と足首を掴まれ、龍河は抵抗しようとするも次の瞬間には体は引きずり込まれ、テイブが手を離した瞬間、体は宙を舞い壁に打ち付けられる。彼には体験したことのない激しい痛みが体中を駆け抜ける。


「センター長、龍河はまだ退院したばかりですよ!早急に離脱させないとこのままだと……」


「三頭の過大評価か、珍しいな三頭あいつが読みを外すなんてな」


 桜井が彼のことを心配している中、蛇倉はふっ…と鼻で笑いながら立ち上がることができないまま横たわっている龍河のことを見つめた。


「はぁ…はぁ」


(体が重い…立たないとここで死んじゃう…)


ドクン…ドクン…


「大丈夫か?龍河ー…!」


 蛇倉はマイクに近づけては、龍河に確認のアナウンスを行うと、彼はゆっくりと立ち上がる。


『ハハ…痛えじゃねぇかこの野郎』


 そこには、これまでの彼の姿はなく、軽く笑みを浮かべては口の端で垂れてきた血を腕で拭き取ると、腕を捲りあげる。すると彼の手から炎が出てきた。


「なるほどなぁ、そういうことか」


「センター長、どういうことなんですか?」


 蛇倉はその様子を見ると何かを察したか、龍河に対して興味を示す視線を送り。そんな様子に櫻井は尋ねてみるも、蛇倉は返す様子はなく。


ガルルルル…グァァァ!!


テイブは龍河に再び襲い掛かると、彼は口角を上げ、『さっきのお返しだ!』と口にすれば、顔面に目掛けて炎を纏った拳をテイブにぶつけた。今度は逆にテイブが殴り飛ばされ、壁に打ち付けられる。


グガァァァ…ングッ!!!


 うめき声を上げながら立ちあがろうとするテイブに、龍河はすぐさま顔を掴んでは床に押し付ける。蠢くテイブに段々と炎が移っていき、やがて全身に炎が広がれば、うめき声も止まり抵抗しなくなると龍河は立ち上がる。


『この体ではここまでか……クソが』


龍河は残念そうに呟けば、力尽きたのかその場で倒れ込んだ。

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