第5話
朝礼だからと、携帯をしまおうとした時に目に入った書き込み。
その書き込みを受けて、冬真はふと顔を上げて教室を見回してみた。
クラスメイトの何人かがチラチラと冬真へ視線を寄越していることに気づく。
専門学校に通う生徒の年齢の幅は広い。
まさに、老若男女がいる。
このクラスもそうだ。
最年少は冬真だが、最年長は御歳85歳のお婆さんである。
入学を決めた時、息子や孫たちの大反対にあったと冬真に笑って話してくれた。
さてそんな生徒たちに、1番注目されているのは、Sランクダンジョンを攻略したクラスメイトの少女だ。
教室の出入口側、一番後ろの席に彼女は座っている。
彼女と目が合った気がした。
《まぁ、うん、見られてるwww》
ササッとそれだけ書き込んで、携帯をポケットにねじ込んだ。
没収されたらたまらないからだ。
担任が連絡事項を淡々と伝える。
それから、
「あー、皆も知ってると思うがー。
楫取が、Sランクダンジョンを攻略したー。
めっちゃすごいことなので、適当に拍手~」
パチパチパチ、と拍手される。
担任は変わった人なので、その説明も感慨もなにもなく淡々としている。
「めっちゃすごいことだけど、他のやつは真似すんなよー。
死ぬからなぁ。
楫取はあとで先生のとこ来い、話がある」
しかし、釘を刺すことも忘れない。
すごいこと、とは言いつつも担任は楫取のことをニュースのように褒め讃えはしなかった。
なんなら呼び出しのところで、少しだけ怒りが滲み出ていた。
この専門学校は、数あるダンジョン探索者を育成する専門学校の中でも老舗だ。
それもあってか、教師陣にはベテラン勢が揃っている。
この担任もかつてはSSSランクを攻略したことがある実力者だ。
探索者活動の酸いも甘いも、そして闇も全て知っている。
仲間を何人も亡くしてきたとも聞いた。
だから、なのだろう。
この担任は、楫取を呼び出した。
おそらく指導するために。
仮免の学生がSランク以上のダンジョンに潜る場合、必ず届出が必要になる。
しかし、一年生は高確率で却下される。
実力が伴っていないと判断されるためだ。
そのため、毎年届出を出さずにSランクに挑戦する生徒が現れる。
そして、その数だけ死亡者も出る。
十代で華々しく探索者デビューする。
華々しくデビューするには、Sランク以上のダンジョン攻略が印象もインパクトもいい。
世間ももてはやしてくれる。
だから入学早々、身の程知らずにもSランク以上のダンジョンに挑戦してその命を散らす者が後を断たないのだ。
「…………」
ちらり、と冬真は楫取を見た。
彼女は不服そうに唇を噛んでいた。
てっきり褒められると思っていたに違いない。
と、また目が合った。
今度は睨みつけられたように感じた。
冬真はすぐに視線を担任へ戻した。
そしていつも通りの学校生活が始まった。
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