第4話
翌日。
赤信号だったので立ち止まる。
ちょうどいいからと鈴木冬真は携帯端末をいじり始めた。
そんな彼の携帯端末に、ニュース速報の文字が踊った。
《速報!!史上最年少、Sランクダンジョン攻略者現る!!》
Web記事の速報だ。
続いて、頭上からニュースキャスターの明るい声が降ってきた。
見上げると、ビルに貼り付けられた巨大なスクリーンに女性キャスターが映り、ニュースを伝えていた。
冬真はそれをぼんやりと眺めた。
昨日のダンジョン実況のときに上げていた前髪は、目の前に垂れそれすらも彼の脱力感を演出していた。
『速報です、国内のSランクダンジョンの史上最年少攻略者が現れました。
ダンジョン名【アスカトラズ】を攻略したのは、
これまでの最年少攻略者は、海外出身の探索者キール・ロンドさんの25歳でした。
この記録は50年間破られたことがなく、また女性としても世界的快挙であり……』
歴史的快挙だなんだと、ニュースキャスターは早口に伝える。
一緒に、楫取恋の画像が映し出される。
アイドルか女優を思わせる美人さんだ。
すぐに興味を失って、冬真は欠伸をした。
それでもニュースキャスターの声は降ってくる。
『次のニュースです。
昨夜、人気動画配信者の雪華さんが動画配信中に起こったトラブルについてです。
Aランクダンジョン【ガルガンチュワ】にて。
昨夜、深層にいるはずの高ランクモンスターが突如溢れ出す、スタンピードが起こったとのことです。
このトラブルにより、雪華さんは重傷を負ったものの、その場に居合わせた探索者の救助活動により一命を取り留め、現在は回復しているとの事です。
また、雪華さんはこの時の救助者についての情報を募っており……』
「ねむっ」
携帯へ視線を戻す。
そこに表示されているのは、匿名掲示板である。
掲示板の住民たち、スレ民と呼ばれているもの達の書き込みが進んでいく。
どうやら、彼あるいは彼女らも速報を目にしたらしい。
書き込みをいくつか拾い読みする。
《十代でSランクダンジョンクリアか~》
《すげぇなぁ》
《底辺な俺らとは違うんだよ》
《あ、専門学生なんだね、この子》
《迷宮探索専門学校だったか?》
《別名ダンジョン攻略専門校》
《通称、ダン専な》
《スレ主と同じ専門校じゃね?》
《ほんとだ、名前同じだ》
《スレ主~、もしかしなくてもこのニュースの子と知り合い??》
《あ、昨日の配信者の子、回復したんだ、良かった良かった(*^^*)》
《スレ主が助けた子、死ななくてよかったなε-(´∀`;)ホッ》
呼びかけられて、書き込もうとしたら信号が青に変わった。
通勤通学ラッシュの時間帯のため、他にも大勢の歩行者がいる。
ほかの歩行者達が一斉に歩き出す。
他の人の迷惑にならないよう、冬真は流れに沿って歩き出した。
歩きスマホは危険なので、返答は学校についてからにしようと決めた。
『また、人気配信者の配信だったこともあり、世界中からこの救助者について日本政府へ問い合わせが殺到しており……』
欠伸をしながら歩く冬真に、そんなキャスターの声が届く。
ほどなくして冬真が通っている専門学校へとたどり着いた。
【ダンジョン攻略専門校】とか【ダン専】と呼ばれている専門学校である。
正式名称は、【迷宮探索攻略専門学校】である。
その名の通り、迷宮探索者や攻略者を育成するための専門学校である。
比較的平和だった世界各地に突如、迷宮もしくはダンジョンと呼称される建造物が現れて百年。
同時に異能力を使える者が現れた。
さらに、さらに
しかし、十年も経過すれば人類は慣れてきて、なんなら異能力の有無に関わらずダンジョンに潜ってアイテムを見つけ出して稼ぐ者も現れた。
まさにゴールドラッシュもかくやという賑わいをみせた。
しかし、同時に命を落とす者も珍しくなかった。
そんな者達を少しでも減らすために、育成しようと作られたのが冬真の通う【迷宮探索攻略専門学校】である。
今年で創立90年を迎える、歴史ある専門学校である。
二年制で、義務教育を終えた者なら誰でも通える。
補助金制度も充実しているので、冬真のような親無しの中卒でも安心して通えるのだ。
なにより、命の危険はあるものの在学中もダンジョンにもぐって稼ぐことができるのだ。
教室に行き、自分の席に腰を下ろす。
それから冬真は机につっぷして、携帯をいじり出した。
教室内にはすでに他にも生徒がいて、ザワザワとしている。
冬真が教室に入ったら、何故か一瞬だけそのザワザワが消えた気がした。
しかし、そのザワメキはすぐに戻った。
クラスメイトたちの間では、速報で話題は持ちきりだった。
それもそのはずで、ニュース速報に出ていた【楫取恋】はこの専門学校の生徒で、なんなら今年入学した一年生なのだ。
さらに、このクラスのクラスメイトでもある。
「…………ふぁ~あ」
そんなクラスメイトたちのざわめきをBGMに、欠伸をしながら冬真は携帯を取り出すと、掲示板を表示させた。
《あれ?スレ主~??》
《反応無いな》
《三日連続、ダンジョン実況してたからなぁ、寝てるんじゃないか??》
《昨日は昨日で、顔出ししちゃったしね》
そんな書き込みがされている。
この掲示板を建てたスレ主たる冬真は、慣れた動作で書き込みを行った。
《寝そうだけど、寝てない》
《あ、キタキタ》
《キタ━(゜∀゜)━!》
《スレ主スレ主、ニュースの楫取って子、スレ主の通ってる学校の生徒なんじゃないの??》
《そうだよ、クラスメイト、話したことは無い》
入学早々から目立っていた。
容姿端麗、成績優秀。
才色兼備というやつだ。
男子からの人気も高い。
さらに今回のことで、名実ともにプロの探索者、攻略者入り確定だろう。
もしかしたら、特別処置で探索者免許が与えられるかもしれない。
現代において、探索者は国家資格であり、免許が必要なのである。
専門学校に入れば、仮免が交付され毎年年度末にある国家試験を受けて合格すれば正式な探索者免許が与えられることになっている。
それ以外のルートだとやはり毎年行われる国家試験を個人で受けて合格するくらいだ。
しかし、例外もある。
たとえば、今回のように偉業を成し遂げたと判断された場合、特別に免許が交付されることがあるのだ。
(まぁ、俺には関係ないけど)
掲示板では、スレ民たちのやりとりが続いている。
その中で、冬真に対してこんな質問がきた。
《スレ主は、この三年間ずうっと掲示板実況だけど、配信はしないの?》
《ダンジョン配信な、たしかにスレ主なら盛り上がると思うけどなぁ》
《ぶっちゃけ、ニュースの子より強いしね、スレ主》
暫し考えを巡らせて、冬真は返事を書きこんだ。
《顔出ししたくない》
最近は動画配信で、ダンジョン攻略をする様を発信するのが流行っている。
視聴者数、もしくは同時接続数が多いと、広告収入になるらしい。
けれど、冬真は興味が無いのでよく分かっていなかった。
なにより、顔出しはしたくないので配信は今後もありえない。
冬真の書き込みに、スレ民たちは納得してくれた。
そこから何故か、スレ主が初めてスレ立て実況した日の思い出話に変わっていった。
《懐古厨どもめ》
ついつい悪態をついてしまう。
照れ隠しもあった。
《照れるなwww照れるなwww》
《すっかり口がわるくなっちゃってまぁ》
《あんなに初々しくて可愛かったのになぁ》
そうこうしていると、担任が入ってきた。
いつの間にか、朝礼の時間になっていた。
《どうでもいいけど、スレ主、昨日の動画かなり拡散されてるぞ。大丈夫か?》
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