第6話

迷宮探索攻略専門学校の授業は、ダンジョンに潜る実習ばかりと思われているが座学もある。

ダンジョンが出現してから今までの歴史を学んだり、異能者の歴史についても座学で教える。

つまり、それは探索者の歴史である。

他には、他国のダンジョンに潜ることも想定し外国語の授業もある。

ちなみに、定期テストも行われる。


そして、何故探索者はダンジョンに潜るのか?

ということも授業で教わる。

ダンジョンが出現した最初期の混乱期の次にやってきた、ゴールドラッシュ時代。

ダンジョンから発見された、オーバーテクノロジーの道具の数々。

それらは高額で取引されるようになる。

一攫千金を狙って、人々はダンジョンに挑戦し、多くがその命を散らした。

お宝を持ち帰り、稼ぐため。

それが一般的な、探索者がダンジョンに潜る理由だ。

しかし、他にも理由がある。


ダンジョンの監視だ。


探索者がダンジョンに潜ること自体が、ダンジョンになにかあった時の早期発見となるからだ。

最近は配信という手段で、国が金を出さずとも探索者が自らダンジョン内を撮影しその情報を流してくれる。

なんなら、異能力者の探索者達がダンジョン内の面倒事を片付けてくれる。

最たるものが、スタンピードだ。

モンスターがなんかいっぱいダンジョンから溢れだしてくるアレである。

地震、台風と並ぶ災害である。

スタンピード、あるいはその前兆を探索者たちが前もって見つけ、対処してくれる。

国としては金のかからない、ダンジョン管理である。

探索者でもどうにもならなくなったら、その時は国が動くことになっている。


ということが、ダラダラツラツラと書いてある歴史の教科書を、冬真は流し読みする。


スレ民達からの説明の方が、まだ読みやすいのは何故だろう。

理解しやすいのは教科書だけど。


(だいたい一言で終わるからかな)


そんな座学が終わり、昼休憩を挟んで、午後からは実習だ。

入学して間もない彼ら一年生は、Fランクダンジョンで経験を積んでいく。

ちなみにFランクは、最底辺ダンジョンである。

そこから、Eランク、Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランク、SSランク、SSSランク、SSSSランク、といった感じで難易度というか危険度が上がっていく。


最高ランクはSSSSSランクとなる。


(Sランク以上は全部まとめればいいのに)


ダンジョンですらピンキリなのである。

ちなみに、Fランクダンジョンは出現するモンスターは無能力者の小学生でも倒せる程度の強さである。

Cランクになると、無能力者では死ぬ難易度となる。

Bランク以上で、異能力者が死に始める難易度だ。


Sランク以上になると、初見殺し諸々で、ダンジョン内に一歩でも踏み入れたらベテラン勢でも即死する確率が上がる。


そして、だからこそと言うべきか。

Bランク以上のダンジョンは、配信すると同時接続数が稼げるのでそっちの意味では人気なのである。


「今回の実習内容は、と。

最下層に行って、魔草を取ってくる、ね」


小学生のお使いレベルの実習である。

そのため、他のクラスメイト達はとてもやる気がなさそうだ。

しかし、このやる気を高めるのが教師である。


「早く戻ってきたら、その場で解散な」


クラスメイトたちの目の色が変わった。

早く終わらせて遊びに行くぞ、と顔に書いてある。

目の前にニンジンをぶら下げられて、ほとんど全員がやる気を出している。

出していないのは……。


「眠い」


冬真と、


「くだらない」


冷たく吐き捨てた、恋くらいである。

冬真は、たまたま彼女のすぐ近くにいたため、そのつぶやきが聞こえてきた。

なんなら副音声で、『なんで私がこんな授業を受けなきゃならないんだ』と聴こえた気がした。


(おっかねぇぇぇええ!!)


冬真は、美少女のそんな呟きをポーカーフェイスで流す。

何も聞こえていないフリをする。


「ねぇ、貴方はそう思わない??」


「え、へ?

お、俺??」


「他に誰がいるのよ?」


「あ、あー、でも基礎は大切だと思うよ?」


そう言った彼の脳裏に蘇るのは、スレ民達によるスパルタダンジョン攻略戦法だ。

いったい何回死んだことだろう。


「……なんだ、貴方もつまらない人間なのね」


「あ、あははは、うん、そうだね」


愛想笑いを浮かべる冬真を見て、さらに恋がぽそりと呟く。


「思い違いだったかしら」


その呟きも、冬真には聞こえていたが意味が分からなかったので聞き流した。


「貴方、噂されてること知ってる?」


「噂?俺が?」


なんのことかは察しがついたものの、冬真はすっとぼける。

おそらく今朝のニュースのことだろう。

もっといえば、昨日の救助活動のことだろう。


「その様子だと知らないみたいね。

貴方、有名配信者を助けた人物と似てるらしいわよ」


恋は前置きして、今朝のニュースについて説明した。

冬真の反応は淡白だった。


「へぇ、そうなんだ」


「驚かないのね」


「世の中、同じ顔の人間は三人いるってきいたことあるから。

そういうこともあるかなって。

朝からチラチラ見られてたの、それが理由かァ」


と、男優賞ものの演技を見せつけた。


「そう」


静かに恋は返して、冬真をジーっと見つめてくる。


「なに?

俺の顔になんかついてる??」


「私も動画を見たけど」


「うん」


「動画の人の方が覇気があったなぁって」


「なんでディスられてんの、俺?」


「それに比べて君は眠そうだなぁって。

なんでそんなに眠そうなの?」


「プライベートのことを聞くのはマナー違反だと思うよ」


そもそも、動画の方が覇気があるように見えたのは、おそらく前髪を上げて額や顔をしっかり出してたからだ。


「じゃ、俺は単独で潜るから」


頃合を見計らって、冬真はダンジョンに入る。

適当にチーム――パーティともいう――を組んでもいいし、単独で入ってもいいと事前に言われていたのだ。

恋へヒラヒラと手を振って、冬真はFランクダンジョン【無垢なる挑戦洞窟】へ足を踏み入れた。


そして、とくにトラブルもなくその授業を終えたのだった。

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