第2話

「あ、ダメだ。

損傷が激しすぎる」


そんな冬真の呟きを、彼の携帯が拾った。


《ありゃまぁ》

《お亡くなり確定か》

《じゃ、次の手だな》

《ダメだったか》

《あ、この前大量に手に入れたアレか》


それはドローンもだった。


《そんな……》

《雪華たん……》


コメントが一気に減る。

そんなことになってるなんて露知らず、冬真はまたガサゴソと持参したバックパックから何かを取り出した。

ドローンにも映ったそれを見て、視聴者達が絶句した。


《うそ、まさか?!》

《おい、アレって、死者蘇生ができる秘薬か?!》

《万能薬のさらに上、SSSSSランクダンジョンでしか手に入らない奴じゃん?!》

《あの探索者、ほんと何者だよ?!》


動画の視聴者達がパニックを起こす中、冬真は【タナトスの秘薬】と呼ばれるアイテムを使用した。

見た目はポーションと同じ液体で、ポーションが爽やかな青色に対してこちらは毒々しい紫色である。

それを惜しげも無くドバドバと、冬真は雪華の傷にぶっ掛けた。


《時価でもとんでもない金額がつくのを、あんな湯水を使うかのように……》

《あの子、もしや石油王か??》

《石油王の親戚かもしれん》

《あの秘薬って、少なくともSSSSSランクダンジョンの深層まで行かないと手に入らないはずだろ》

《石油王じゃない可能性もあるが……》

《石油王じゃないなら、なんだってんだ??》

《少なくともあんな子供が、SSSSSランクダンジョンに挑戦してるとか、挑戦したとかいう話は聞いたことがないぞ》

《おい、あの子供が誰か調べろ!!》

《やってる!!でも、出てこないんだ!!》

《出てこない??》

《そんなことあるかよ、少なくともダンジョンに潜ってるんだ、探索者の免許所持者だろ》

《免許所持者は、探索者連盟のホムペに名前と顔写真が載ってるはずだぞ?!》

《動画の画像をスクショ、解析して、検索したんだ!!》

《断言できる、あの子供は登録者じゃない!!》

《つーことは、無免許の野良探索者か?!?!》


別の意味で動画のコメントが阿鼻叫喚となる。

無名で無免許でありながら、ミノタウロスの群れをたった一人で全滅させた少年。

それが判明して、同時接続数は一気にのびる結果となってしまった。

しかし、まさかそんなことになっているとは知らない冬真は、


「うーん、足りないなぁ。

全部かけてみよ。

無くなるけど、また取りに行けばいいし」


なんて呟いて、さらに追加で超貴重なはずの秘薬を五本ほど追加した。

それを受けてスレ民たちの書き込みが、悪ノリとともに加速する。


《被害者ちゃんの、ちょっといいとこ見てみたい♪》

《それ一気!一気!いっき!!》

《何十年前の飲み会だよwww》

《そもそも飲んでないし、傷口にぶっ掛けてるだけだし……》

《被害者の子、ある意味死んでてよかったな》

《だよな、まさか、死体蹴りよろしく玩具にされてるとは思うまい》

《スレ主、畑行くノリでSSSSSランク行くつもりなの草》


「よしよし、息を吹き返したぞ!

傷口も完全に塞がった!」


スレ主のその言葉をドローンが拾う。

視聴者達の歓声があがった。

コメントによる弾幕で、画面が見えなくなるほどの大盛り上がりとなった。


《おおおおおお!!??》

《おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!》

《おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!》

《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛》

《うおおおおおお!!!!》

《やったー!!!!》

《ありがとう!!ありがとう!!(歓喜)》

《見知らぬ救世主さん、ありがとう(号泣)》

《メシアだ!!》

《メシア降臨!!》


相変わらず、そんなことになっているとは思いもせず、冬真の方は淡々と救助活動を続けようとした。

その直後のことだ。


ズリ……ズリ……。


何かが這いずるような音をドローンが拾う。

推しの生存に歓喜していた視聴者たちがザワザワしはじめる。


《おい、なんだよ、この音?》

《なんか、嫌な感じ》

《ヤバい感じがする》

《ザワ……ザワ……》


ほどなくして、その姿をドローンは捉えた。

冬真の前に姿を現したのは、下半身が大蛇、上半身が人間の姿をしたラミアと呼ばれるモンスターであった。


《ラミア?!》

《深層のエリアボスじゃねーか!!》

《スタンピードだからか、這い出してきやがった!!》


視聴者たちは、もう何度目かわからない阿鼻叫喚となってしまう。

しかし、対峙している冬真はというと、


「あ、ラミアだ。

ちょうどいいや、鱗とってこ」


こんな感じで滅茶苦茶軽かった。


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