第35話 元ヒューリッテ王

 メティとオルロスは王城内を駆け上がっていた。

 そしてついに、ヒューリッテ王のいる部屋へと到着。

 ドアを力強く開けた。


「ヒューリッテ王!」

「・・・これは!」


 部屋の中にはいくつかの遺体が転がり、血が飛び散っている。

 下級悪魔も何体か立っているが、その中でも圧倒的なオーラを放っているのがヒューリッテ王だ。

 正確には、元ヒューリッテ王。

 今ではオーティスの『悪魔降し』によって上位悪魔となっていた。


「手遅れだったか・・・」

「仕方がありません。ヒューリッテ王を弔いましょう」


 二人は上位悪魔を倒そうと準備をはじめる。

 その時、窓の外から飛んでくる人影が見えた。

 その人物を確認したオルロスは、大剣に込める力が強くなっていく。


「やはりいるか・・・グシオン!!」

「ほっほっほ、覚えていただいているとは光栄じゃな。10年ぶりだというのに」


 グシオンは空を飛び、割れた窓から部屋の中へと入ってきた。

 そしてメティのことを見つける。


「ほう、その娘があの・・・。ずいぶん大きくなったのぉ」

「貴様らのせいで、メティがどれだけ悲しい思いをしてきたか・・・。お前にはわかるまい!」

「人の感情など知らんわ」


 10年前にメティもグシオンのことを見ている。

 しかしその時は5歳であったため、記憶もおぼろげであまり覚えていなかった。

 ただグシオンを見ていると、怒りの感情がフツフツを湧いてくる。


「あなたが私の父を・・・」

「あのときは手こずりました。本来であれば、すでに君の命を奪っていたはずなんですがね」

「許しません」


 メティは射貫くような鋭い視線をグシオンに向ける。

 その視線には殺気がこもっていた。


「・・・そう思うのなら、力ずくでやってみるがよい。まあ、無理だとは思うがな。ここに上位悪魔もいることだし」


 グシオンは上位悪魔の肩に手を置いた。

 上位悪魔はそれに反応する。


「あの御方のために、この国を支配する。歯向かうものは皆殺しだ」


 上位悪魔の合図によって、部屋で立っていた下位悪魔が動き出す。

 合わせてグシオンも魔法の準備をはじめた。


「メティ!」

「分かっています!聖魔法・第二階位『ホーリーレイ』!」


 オルロスが大剣を担いでグシオンに突撃をする。

 グシオンに魔法を使う暇を与えないようにするためだ。

 それを防ぐために向かってくる下位悪魔に対しては、メティの『ホーリーレイ』で貫く。

 見事な連携と言える。


「邪魔じゃな・・・」

「お前たちは、何としてでも仕留める!」

「暑苦しい男だのぉ。・・・お前もそこで見ていないで手伝わぬか」


 グシオンは下位悪魔を生み出し続けている上位悪魔の後ろに立ち、協力を仰ぐために声をかけた。


「一人では勝てないというのか?」

「二人で協力した方が楽に倒せるじゃろ。そうすれば目的達成もしやすくなるはずじゃが?」

「・・・ふむ。確かにそうだな」


 上位悪魔は悪魔を生み出すことを止め、オルロスに狙いを定める。

 目の合ったオルロスは一層警戒心を高めた。


「もとより王が悪魔に変わっていたら俺が倒す気でいた。・・・さあ、来い」

「威勢は良いな。では受け止めてみろ」


 この上位悪魔は武器らしい武器を持っていない。

 使うのは己の肉体のみ。

 人外の脚力を使い、一瞬にしてオルロスとの距離を詰めた。


「!?」

「まずは一人」


 上位悪魔は勢いそのままに握った拳をオルロスの胴目掛けて叩きつけた。


「ガハッ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る