第34話 一抹の不安

 全ての話を聞き終わるまで、メリアは口出しをしなかった。

 驚くことが多かったため、多少は表情に出ていた。


「・・・まず、確認したい。本当に異世界から来たというのか?」

「間違いありません。日本という国からやってきました」

「この世界に日本という場所はない・・・。間違いなさそうね」


 聖アンゲロス教は『天啓』があってから、異世界人を探し続けてきた。

 その人物が目の前にいるというのだから、驚かない方がおかしい。


 メリアはさらに質問を続ける。


「グー爺という奴の特徴を教えてくれ」

「白髪でかなり高齢に見えました。ですが魔法の威力は凄まじいです」

「・・・」

「あとは濃いめの紫ローブを着ていましたね」

「ありがとう」


 メリアとガストンは目を見合わせ、グー爺という老人がグシオンであると確信した。


「リュウト。どこで呪われたのか心当たりがないんだね?」

「はい・・・」

「おそらく、そのグー爺という奴が上位悪魔グシオンだろう。奴の呪いは巧妙だからな」

「え!?グー爺が・・・悪魔・・・!」


 リュウトは街中で悪魔たちが人を襲っているのを目の当たりにしている。

 その時は呪われた状態だったため、何も思わなかった。

 リュウトの呪いが解けた今、残虐な悪魔に加担していたことを強く後悔している。

 そして、そうなるように呪いをかけたグシオンに対して苛立った。


「グシオンに恩を感じていると、不信感を抱かなくなる。その恩が大きければ大きいほど、難しいお願いが出来るんだよ」

「・・・それで聖女様と聖母様を捕まえるというお願いをされたのか」

「10年前にも悪魔の襲撃があった。あの惨劇を経験している人たちは、グシオンを見ればすぐに通報するはずだ。だから王国内にグシオンの呪いを受けた人がいなかったんだよ」

「なるほど」


 メリアは『天啓』のこともリュウトに話した。

 そして真剣なまなざしで、これからどうなるかも伝える。


「おそらく、リュウトは英雄になる」

「英雄!?」

「悪魔を滅ぼす英雄だ。もちろん一人で出来るとは思っていない。聖女とともに、この世界を救ってほしい」


 メリアはそう言って、地面に頭を付けた。

 それを見たガストンとリュウトが慌てる。


「メリア様!」

「顔をあげてください!俺なんかに頭なんか下げないでください!」


 しかしメリアは頭をあげない。


「私の夫は悪魔に殺されている。・・・そしてメティも大切な家族を失っているんだ」

「・・・」

「・・・」

「こんな被害者をこれ以上出さないように。・・・どうか」


 リュウトは自分がどうしたいか考える。


 (悪魔がいる以上、安心して暮らすことは出来ないだろう。常に脅威となることは分かっている。悪魔を滅ぼした方が良い。それに、もしかすると俺がここに来た意味というのはこの為なのかもしれない・・・)


 リュウトは本当に自分にそんなことが出来るのか、不安に思いつつも、悪魔を滅ぼす決心をした。


「・・・メリア様。わかりました。今の俺にはそんな力はありませんが、悪魔を滅ぼすために頑張らせていただきます」

「ありがとうね。ただとりあえずは身を隠しておく方が良い。・・・かといって安全な場所は無いが」

「ここは大丈夫ですよね?」

「そうとは言えないよ」


 かなりの人が「教会は安全だ」と思って避難してきている。

 教会にはザレロアをはじめ、かなりの手練れがいるからだ。

 しかしメリアはそれを否定した。


「悪魔をなめてはいけない。簡単に人々を守れるなら、こんなにも悪魔勢力が拡大することは無かった」

「そうでしたね」


 ガストンは悪魔の脅威に関してさらに補足した。


「10年前の襲撃時は王城と教会の被害が最も大きかったのです。もちろん重要施設なので、それぞれの場所に騎士団長や枢機卿、S級冒険者といった強い方々がいました。それでも防ぎきることは出来ませんでした」

「おそらく今回の襲撃でも王城とここの教会は狙われるでしょう」

「そうですか・・・。ではグシオンも?」

「おそらくですが。10年前は王城に現れたことが報告されています」


 リュウトはグシオンの凄さ知っている。

 グシオンが大量のゴブリン相手に使った魔法に対抗できるとは思えなかった。


「ではグシオンを避けるためにも、ここに留まらせていただいてもいいでしょうか?」

「もちろん。・・・ガストン、客室に案内しなさい」

「かしこまりました。安全確保のために私が護衛しましょう」

「頼むわね」


 ガストンとリュウトは聖堂を出て客室を目指す。



 聖堂に一人残ったメリアはうつむき、考え事を始めた。


(嫌な予感がする・・・。今のところ、10年前に比べて被害が少ない。人々のグシオンに対する警戒心が高まっているとはいえ、悪魔たちが何の準備もしていないはずがない。この不安は一体・・・)

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