第33話 解呪

「親父・・・。前にも言ったけど、目が赤い人は殺さずに保護してって言っただろ?」

「・・・しらん」


 息子であるガストンに詰められたザレロアは目を逸らし、しらを切るようだ。


「はあ・・・。まあ、今回は間に合ってよかった」


 ザレロアは以前に、目が赤くなっている人を始末したことがあった。

 ただ聖アンゲロス教の立場としては、出来る限り悪魔の呪いから人を救いたいと思っているため、保護する決まりとなっている。

 ザレロアが決まりを守らないのにもかかわらず重い処分を受けていないのは、その圧倒的な強さがあるからだ。


 ガストンは倒れているリュウトの元へと向かう。


「手荒なことをして申し訳ない。聖アンゲロス教を代表して謝ろう」


 そういってガストンは頭を下げた。


「い、いえ・・・」


 リュウトは状況の変化に頭が追い付かず、少し混乱していた。

 だが、ひとまず助かったことに安堵している。


 それからリュウトは教会の中へと案内された。

 もちろん拘束をされた状態でだ。


「一体どこに連れていかれるのでしょうか?」

「聖母メリア様のところだ」

「!?」


 聖母の名前を聞いたリュウトは驚きを隠せなかった。

 赤い目の光が一層強くなっている。


「ああ、もちろん手は出させませんからね」

「ではどうして・・・」

「あなたの呪いを解除してもらうためです」

「呪い・・・?」


 リュウト自身は気づいていないが、悪魔を見たときから目が赤く光ったままだ。

 ザレロアはリュウトの目を見たことで、呪いを受けていることを察知し始末しようとした。


 当然だがリュウトは呪いを受けているとは思っていない。

 鏡を見たら自分に違和感があっただろうが、そんなものは見ていなかった。


「呪いを解除できるのは聖魔法を使える聖母様と聖女様しかいない。だから聖母様のところへ案内するんだ」


 ここまで黙ってついてきていたザレロアが口を挟む。


「あそこで始末していれば、こんな手間をかけることもなかったんだがな」

「おいおい親父・・・。俺以外の教会関係者がいるところでは、そんなこと言うなよ?いい加減庇いきれないからな」

「そうなればここを抜けるだけだ」


 それを聞いたガストンは溜息を吐いた。

 その様子から、いつも苦労していることが分かる。



 そうこう言っている間に、聖母のいる聖堂までたどり着いた。


「ここからは俺は入れねぇ」


 大司教であるザレロアは聖堂の中に入ることは出来ない。

 そのため、ここからはガストンとリュウトのみが入室する。


「親父はそこら辺をうろついている悪魔討伐を頼む」

「任せろ」

「呪いを受けている人は殺さないように」

「まあ・・・できるだけな」

「お願いします」


 ザレロアは酒瓶に入った酒を飲みながら二人のもとを離れていった。

 そして二人は聖堂の中へと足を踏み入れる。



 聖堂の中は白を基調とされており、神聖な場所であることがリュウトにもわかった。

 中には祈りをささげている聖母の後姿が見える。


 ガストンは膝をつき、頭を下げた。

 リュウトもそれに倣う。


「メリア様、呪いを受けている方をお連れしました」


 声を掛けられたメリアはゆっくり振り返り、リュウトの事を見た。

 すぐにリュウトの目が赤くなっていることに気がつく。


「呪いを受けているのに意識があるとは珍しいね。・・・10年前にはかなりいたが、ここ数年はいなかったはずだよ。とにかく、呪いを解除しようかね」

「よろしくお願いします」

「聖魔法・第二階位『ディスエンチャント』」


 メリアの魔法によってリュウトが優しい光に包まれる。

 すると赤くなっていた目の光が元に戻っていった。


「・・・温かい」


 リュウトを包んでいた光が収まると、呪いはすっかり消え去った。

 そしてメリアは、リュウトに何があったのかを尋ねる。


「ここに来るまでにやってきたこと、見たこと、聞いたことを話してくれ」

「分かりました」


 リュウトはメリアの指示通り、ここまでに経験してきたことを全て話した。

 異世界から来たこと、仲間、能力のことなどだ。

 もちろんグー爺とのことも。

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