第32話 ザレロアとの差

 リュウトはザレロアに杖を当てられ、命を握られているような感覚に陥っていた。

 ザレロアの強さはすでに理解している。

 万が一にも勝つことはできないだろう。

 だからこそ、慎重に答えなくてはいけない。


 しかしリュウトは嘘をつこうとは思わなかった。


「俺は・・・聖母と聖女を捕まえるためにここへ来た・・・」


 リュウトとしては「お世話になったグー爺からのお願いを叶えたい」という考えしかなく、何も悪いことだとは思っていなかったのだ。

 だから正直に教会へ来た目的を話した。

 たとえそれがザレロアの属する聖アンゲロス教と対立するとしても。


「ならばここでどうなろうとも、文句は言わないな」

「・・・もちろんだ。だが、何もせずにやられるわけにはいかないな」

「ほう・・・」


 リュウトも実力差があることは分かっているが、せめてもの抵抗するために動き出す。


 まずは目の前にいるザレロアの首を両手でつかみ、力を込める。


「・・・まずまずの力だな」


 ゴブリンとの戦闘時よりも強化されているリュウトの力だが、ザレロアに危機感を抱かせるほどではなかった。


「この・・・! 土魔法・第一階位『サンドロック』!」


 リュウトは動きを封じるために、ザレロアの身体全体を砂で固める。


「この程度か・・・。愚息の方がマシだな」

「・・・!」


 すると一瞬にしてザレロアを固めていたはずの砂がはじけ飛んだ。


「もう終わりか?」

「まだまだ!・・・土魔法・第一階位『サンドバレット』!」


 ザレロアが使っていた『アースバレット』よりも時間がかかって発射される。


「ふんっ」


 しかしそれを酒瓶で相殺。

 魔法で対抗することもしなかった。


 リュウトは最初から『サンドバレット』が通じるとは思っていない。

 何の魔法が一番可能性があるのかを調べているのだ。

 だから即座に次の魔法を放つ。


「土魔法・第一階位『サンドトルネード』!」

「弱すぎる・・・」


 ザレロアを中心とした砂の渦が発生した。

 しかしザレロアは杖を一振りしただけで、『サンドトルネード』は消える。


 その後も様々な魔法を繰り出すが、どれも簡単に対処されてしまった。


「やはり勝てないか・・・。こうなったら・・・」


 成すすべのなくなったリュウトは作戦を変更する。

 ザレロアに勝つのではなく、当初の目的であった聖母・聖女を捕えることを優先することにしたのだ。


「表情が変わったな。やっと負けを認めたか」

「そんなことはないさ。・・・土魔法・第一階位『サンドウォール』!」


 リュウトとザレロアの間に、砂の壁が出来上がる。

 そしてリュウトは一目散に教会へと向かった。


「逃がすわけがないだろう」

 

 ザレロアは出来上がった砂の壁を、ジャンプをして超える。

 そして教会の中へと足を踏み入れようとするリュウトに向かって魔法を放った。


「土魔法・第二階位『アースロック』」

「ッ!?」


 ザレロアの魔法によって、リュウトの足に人の頭ほどの大きさがある岩が付く。

 それなりの重さがあるため走っていたリュウトはこけてしまった。


「くそ・・・」

「第一階位の土魔法しか使えないお主がなぜ悪魔に協力し、メリア様達を捕えようとしているのか分からんな」


 ザレロアは倒れたリュウトの元に行き、とどめを刺すべく杖を構える。


「まあ始末してしまえば何も問題はない」

「こんなにもあっさりと負けるなんて・・・。せっかくグー爺と特訓をしたのに・・・」

「終わりだ。土魔法・・・」


「あ、親父!ストップ!!」


 ザレロアが魔法を唱えようとしたとき、教会の中から40代ほどの男性が飛び出してきた。

 その男は大司教であるザレロアよりも立派なものを着ている。


「ガストン・・・。また俺を止めるのか」


 その男はザレロアの息子のガストン。

 そして聖アンゲロス教において聖女・聖母に次ぐ地位にいる枢機卿でもある。

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