第26話 違和感

 ヒューリッテ王国の南には大森林、西は果てしない海、東は灼熱の砂漠がある。

 これらに囲まれているため、悪魔達も簡単には攻めることが出来ない。

 そのおかげか、悪魔に支配されていない唯一の国となったのだ。


 ヒューリッテ王国の中心部には重要施設が集まった王都がある。

 王都には王城はもちろんのこと、聖アンゲロス教の聖堂もあり、国で一番人の集まる場所だ。

 法律やお金関係のことは国王を中心に行われ、医療や教育関係のことは聖アンゲロス教を中心に行われている。

 立場として上なのは国王であることは間違いないが、聖アンゲロス教の方が国民と距離が近い。

 そのため、国王と教皇が同等の影響力を持っている。

 だからといって対立することはない。

 国王も教皇も、国民の幸せを願っていることに変わりないからだ。


 しかしここからの話の主人公は国王でもなければ、教皇でもない。


 彼女はメティ。

 教皇である聖母メリア・パルステンに次ぐ立場にいる聖女だ。

 聖母と同じように、悪魔から王国の人々を守りたいと願っている15歳の少女。


 

 そんなメティは今、聖アンゲロス教の病院にいた。

 メティが病気や怪我をしているわけではない。

 身体は正常なのにも関わらず、意識を取り戻さない患者を診るために訪れていたのだ。


 メティの横には病院長がおり、一緒に患者の横に立っている。


「メティ様、やはりこの方も・・・」

「悪魔による呪いでしょうね。まずは回復させます」

「お願いします」

「聖魔法・第二階位『ディスエンチャント』」


 メティの魔法によって患者が優しい光に包まれる。

 まだ意識は取り戻していないが、表情もやわらかくなっていた。


「もう少しすれば意識を取り戻すと思います。患者の関係者に連絡をしておいてください」

「承知しました。ありがとうございます」



 メティはやることを終え、病院の外に出ると豪華な馬車がとまっていた。

 これはもちろんメティが乗る為の物だ。


 馬車の前でメティの護衛であるオルロスが待っていた。

 オルロスは30代後半の大男。

 顔や腕には多くの傷跡が残っている。

 背中には自分の背丈ほどもある大剣を携えていた。


「オルロス、病院に行くだけだから護衛は必要ないと言ったはずです」

「それは聞いた。だからこうして病院の外で待っていただろう」

「・・・まあいいです。帰りましょう」


 二人は馬車に乗り、聖堂へと向かう。

 その道中は、お互いが最近感じている王都の違和感について話をした。


「最近は一層呪いを受けている人が増えています。今回の患者も呪いでした」

「その影響もあってか、教会を訪れる人も多い。教会は大忙しだ」

「・・・10年前のようなことが起きなければいいですが」

「・・・」


 10年前のことを考えた二人の表情は、悲しさや悔しさなどが入り混じったものだった。

 そこからは会話は途絶え、聖堂へたどり着いた。

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