第14話 臆病なアクモ

 リュウトとアクモは前回の失敗がある為、なるべくゴブリンに近付かないで様子を伺っている。

 遠目に小屋は見えているが、ゴブリンの姿は確認できていない。


「どのくらい大きいんだろうな。かなり数がいたことは間違いないけどさ」

「そうだね・・・」


 アクモの表情は相変わらずだ。

 このままではまた失敗を繰り返すだけだと思い、リュウトは少し話すことにした。

 もちろん周囲の警戒は怠らない。


「アクモ、前のことは気にしなくていいんだぞ?」

「・・・」

「俺もアクモも生きてる。それでいいじゃないか。元気を出してくれよ」


 リュウトに話しかけられたアクモは、絞り出すような声で考えていることを伝える。


「僕はとても臆病者だ・・・。すぐに逃げ出したくなる・・・。リュウトを置いていくほどに・・・」

「もう気にしなくていいのに」

「こんなに勇気のない自分が嫌だ・・・」

「アクモは優しいんだな」

「・・・優しい?」


 アクモは言われたことの意味が分からず、リュウトを見返す。

 本人は気づいていないが、前回逃げ出してからはじめて目線が交わった瞬間だった。


「だって仲間のために戦いたいって気持ちがあるんだろ?優しいじゃないか!」

「そうなのかな・・・」

「そうだよ!優しいからこそ逃げ出しくないんだよ」


 アクモは優しいと言われ、改めて自分の気持ちや考えを整理しだした。

 そして自分の悩みについて相談する。


「じゃあリュウトは、どうして怖がらず敵に向かっていけるの・・・?」

「俺だって怖いさ」

「え・・・?」

「怖いけど、それよりも誰かを失うほうが嫌だ。俺の頑張りで救われる誰かがいるなら、命なんか惜しくない。だから俺は迷わず行けるんだと思うよ」

「誰かを失う・・・」


 前回アクモが一人で逃げているときに考えていることの一つが「リュウトにもしものことがあったら・・・」という事だった。

 だからアクモはリュウトの言葉がすっと心に染みる。


「死ぬかもしれないって考えると動けないと思う。それよりも、誰かのために頑張ろうって考えた方が動きやすいんじゃないかな。そうしたら、臆病な考えになることも減る気がするな」

「誰かのために・・・」


 リュウトの言葉を聞いたアクモの目には光が灯り始めていた。

 これにはリュウトも気付いており、もうアクモの心配は要らないと安心している。


 二人の話がひと段落したところで、近くからドンッという何かが打ちつけられる音がした。

 その音はかなり大きく、地面もすこし振動している。


「何の音だ?」

「何か叩いてる・・・?」


 その音は何度も聞こえた。

 しばらくすると、森に生えていた巨大な木の一本が倒れる。


「何が起きてるんだ?」


 リュウト達にその疑問を解決する術はない。

 そこへゴブリンの戦力調査に向かっていたウラノが焦った様子で戻ってきた。


「リュウト!アクモ!大変だよ~!!」

「戻ってきたか」


 ウラノはリュウトの横に降り立ち、呼吸も整えられていないまま話始める。


「ヤバい情報とめちゃくちゃヤバい、どっちから聞きたい?!」

「じゃあヤバい情報からで」

「ヤバい情報っていうのはゴブリンの戦力に関することだよ!」

「どうだったの・・・?」

「ゴブリンの人数はざっと1000!」

「1000だって!?」

「それにゴブリンよりも上位個体が何体もいたんだ!!この集団はヤバいよ!」


 ハイコボルトやホブゴブリンなどは、通常の個体よりも力が強いため上位個体と呼ばれる。


「そんなに多いならここに引っ越すのは無理かもしれないな」

「僕らで勝てる保証がないもんね・・・」


 リュウトは引っ越しの為にゴブリンと戦うのは無謀だと思い、別の場所を探そうかと考えた。

 しかしその考えの通りには進まない。

 ゴブリンたちとの戦闘は避けられない運命だったのだ。


「もう一つのめちゃくちゃヤバい情報も教えてくれ」

「アレスたちがゴブリンの上位個体と戦闘になっていて負けそう!!」

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