第11話 アクモの苦悩

 アクモは川に沿って来た道を引き返す。

 アクモとゴブリンでは、圧倒的にアクモの方が速い。

 だからゴブリンに追いつかれることは無かった。


 ゴブリン達と距離が出来たアクモは、全速力で洞窟へと向かっていた。


「はやく、助けを呼ばないと・・・!リュウトが大変・・・」


 アクモは洞窟へ向かいながら、リュウトを置いて逃げるという選択が正しかったのか悩んでいた。

 あの時アクモも戦うことが出来ていれば、一緒に逃げ出すことが出来ただろう。

 ゴブリンを一掃できるだけの力を持っていれば、逃げ出す必要はなかっただろう。

 そもそもゴブリンの集落だということが早く分かっていれば、近付くことは無かっただろう。


 立ち向かうことが出来なかった自分が嫌になった。

 力のない自分が嫌になった。

 考えない自分が嫌になった。


 アクモはいつも以上にネガティブになっている。


 そんなことを考えながら洞窟にたどり着くころには、日が沈み始め空がオレンジ色になっていた。

 そこへ丁度、空から地形の確認をしていたウラノとタナが帰宅する。


「あ、アクモ~!タイミング同じだったね!」

「ん?リュウトはどうしたんですか?」

「ウラノ、タナ、助けて欲しい・・・!」


 アクモは泣きながらウラノとタナに事情を説明し、急いでリュウトのもとへと向かう事になった。


 アクモが地上を走り、空からウラノとタナが付いていく。

 ただ視界があまり良くないため、そこまでの速度は出していない。


「アクモを逃がすためにリュウトが戦ってくれたんだよね?」

「う、うん・・・」


 リュウトのもとに向かいながら、ウラノはアクモに話しかけた。


「自分を犠牲にアクモを助けたなんて、すごい優しいね!」

「犠牲・・・」

「逃げたアクモはどうかと思いますけどね」

「そうだよね・・・」


 タナのもっともな言葉に、アクモは再び気分が沈んでいった。


「まあまあ。とにかく今はリュウトを助ける事だけ考えよう!」

「そうですね」

「ありがとう・・・」

「あ!ちょっと待って!」


 上流に向かっていた3体だったが、ウラノが川岸に何かを発見した。


「どうしたんですか?」

「川岸にヒトが倒れてる!リュウトっぽいよ!」

「ほ、ほんと?!」

「確認してみましょう」


 そこに向かうと、ウラノの言う通りリュウトが倒れていたのだった。


「リュウト!生きてる!!?」

「大丈夫なんですか?」

「リュウト・・・」


「ゴホッゴホッ!!」


 声を掛けられたリュウトは目を覚ました。

 体中に傷を作り、かなり痛々しい見た目だ。

 服もところどころ破れたり、血がにじんでいたりしている。


「よかった~!」

「何とか逃げ切れたみたいですね」

「そうなんだよ。一か八かで川に飛び込んだら助かったんだ。まあ気を失ったけどね」


 リュウトは笑いながら語り、仲間を心配させまいとしている。


「アクモも無事みたいでよかった・・・。ウラノとタナを呼んでくれたんだね。ありがとう!」

「リュウトのお陰だよ・・・。ごめん・・・」

「どうして謝るんだよ。助けを呼んでくれたんでしょ?」

「僕はリュウトを置いて逃げ出したんだよ・・・」

「こうしてお互いに助かったんだから良いじゃないか!ね!」

「・・・」

「ここにいるのもなんだし、とりあえず帰ろうか」


 リュウトはアクモの背中を借りながら洞窟へと向かっていった。

 空は黒く、日はすっかり沈み切っている。

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