第29話 国王とジャスパー
イエナを救い出す作戦は失敗に終わったが、多くの捕らえられていた者達を救い出す事が出来た。
スピネルも捕らえる事に成功し、事件は解決するかにみえた。
だが、宮殿に皆を集めてのセレスタイトの報告に、皆驚愕した。
「スピネルが無罪放免!?どういう事なの!?ジャスパーね!あいつがまた何かした、そうでしょう!?」
フィオナがそう興奮気味に言うと、セレスタイトは申し訳なさそうに言った。
「すみません、私の力不足です。しかしこれは国王陛下のご意志なのです…。」
それを聞いて、フィオナは放心状態のまま、椅子に座った。
「何かの間違いじゃないか?父上がそのような事を…。」
王子がそう言うが、セレスタイトは首を横に振った。
「間違いなく陛下のご命令です」
「父上がなぜ?なんの関係も無いのではないか?」
王子の問いに、黙ってしまったセレスタイトの代わりにオニキスが言った。
「もしやあの噂が本当だったのではないか?セレスタイト?」
オニキスの問いかけに、セレスタイトは今度は首を縦に振った。
「あの噂とは何ですか?」
ラピスがそう尋ねると、セレスタイトが答えた。
「不老不死の薬の開発です。何人も命を落としたと言われているため、法で禁じられてはいますが、国王陛下は密かに着手させていたそうです」
「…まさか、シトリンの兄アンバーをワイトにして黙認していたのも、不老不死のためか?」
「そうかもしれません、私にはわかりかねます」
それを聞いて、王子は愕然としていた。
そんな王子にフィオナはよりそいながら、手を握って言った。
「無理してこちら側につかなくてもいいわ。だって貴方のお父上だもの」
「すまないフィオナ…ちょっと考えさせてくれ。明日は皆の敵かもしれない僕は、この場にいない方がいいだろう。失礼するよ…。」
名残り惜しそうにフィオナの手を離すと、王子は皆がいる王太子妃の宮殿から出て行った。
***
一方、無罪放免されたスピネルは、ジャスパーと国王、ゴールド・シュタインの密談に参加していた。
「スピネル、なぜあの様な事になったのか、何者の仕業か、話してもらおうか」
ジャスパーがそう言うと、スピネルは萎縮しながら答えた。
「はい…私を捕らえたのは、キーラという逃亡者と恐らく学生であろうかというくらいの、男女二名でした」
「お前を捕まえたのはセレスタイトではないのか?奴に連行されたと聞いたが?」
「違います、あの場にはセレスタイトはいなかった…私を捕らえたのは白と赤の羽の女と藍色の羽の男です」
それを聞いて、ジャスパーは前の事件の事を思い出していた。
「私の記憶が正しければ、前に王太子妃の侍女を決める時に兵団に襲わせたセレスタイト側であろう、王太子妃の宮殿から出て来た女もそんな白と赤の羽をしていたと報告されたが?」
「そうですよ!見せしめにしようと襲わせた女です!やはりセレスタイト側の人間ですね!考えてみれば他の事件でも目撃情報があった者達と特徴が似ています!この二人は我々の敵と見ていいでしょう!」
スピネルが興奮気味にそう言うと、ずっと黙って頬杖をついていた国王が口を開いた。
「顔を見ているのであろう?学生なら学校で待ち伏せしてしまつしろ。ワシからは以上だ」
そう言って席をたった国王を呼び止めジャスパーが言った。
「ゴールド・シュタイン王、これからも末長くよしなにお願いしますよ」
「あぁ…お前達には期待しているぞ、良い報告を待っている」
そう国王が出て行くと、ジャスパーもスピネルも息を抜きながら座った。
「どうするのですかジャスパー様、このまま国王の言いなりですか?」
スピネルがそう尋ねると、ジャスパーは悪い顔をしながら言った。
「そんなわけなかろう。この国一番の魔法使いだから敵に回さずにいるだけで、寝首をいつでも取れる準備はしている。国王を退かせたあかつきには私が国一番の魔法使いの称号をもらうまでよ。そして国王ではなく私が不老不死を手に入れる…。」
楽しそうにジャスパーは笑うと、ワインを注いで飲んだ。
スピネルはそれを飲み干したのを見ると、そそくさとジャスパーのグラスにワインを注ぎ静かに笑っていた。
***
国王が宮殿に戻ろうと馬車を降りて入り口に差し掛かると、それを噴水の縁に座って王子が待っていた。
「どうしたブルー?青い顔をして?」
「父上…貴方に聞きたい事があります…。」
王子の深刻な顔つきに、国王は何かを悟った。
日が落ちて来た頃の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます