第28話 怨霊
兵士達が続々と現れる中、ラリマーは包帯を全て取ると、呪詛の紋様が青白く光った。
「さぁ、かかってらっしゃい!」
ラリマーがそう言うと、一人の兵士が声を上げながら槍を手に走って来た。
「くらえ!この炎槍を!」
兵士がそう言うと、槍の周りに炎が渦巻きながら、ラリマーに迫って来た。
それをラリマーは素手で止めると、炎が呪詛に吸い込まれて行った。
「大した事ないのね。はい、返すわ」
呪詛の腕から炎をラリマーが繰り出すと、兵士は数メール先まで吹き飛ばされた。
「さぁ、次は誰?かかって来なさい!」
ラリマーの言葉に、兵士達は狼狽えながらも、今度は一斉にかかって来た。
彼らをラリマーは、大きく振りかぶりながら信じられない力で突き飛ばした。
「くっ…!」
「そんなバカな…!」
吹っ飛ばされた兵士達は、同時に呪詛の効果で魔法を封印され、身動きも出来ない状態だった。
「さぁ!次は誰!?」
兵団の者達は戦意を喪失し、次々と逃げ出していった。
「ラリマー、見事だったぞ。よくやった」
「これも先生の教えのおかげです」
オニキスがラリマーに手を出させ、新しい包帯を巻いてやると、ラリマーは少し恥ずかしそうにしていた。
「自分で出来ます…。」
「私がやりたいんだ。よかろう?」
オニキスにそう言われて、ラリマーはぎこちなく笑いながら、勝利の余韻に浸った。
***
奥の部屋までやって来たフィオナ達は、強い魔力を感じ、立ち止まった。
「フィオナこれは…。」
「えぇ、嫌な予感がするわ…。」
強い魔力を持った何かは、ゆっくりとフィオナ達に近づいて来て、その姿を現した。
「何だコイツ…。」
キーラがそう言うと、死を受け入れられない魂の集合体、ワイトの群が姿を見せた。
その中に、イエナの姿も見つけ、フィオナは身を乗り出そうとしたが、ラピスに止められた。
「何やってる!?」
「離して!母さん!母さんが…!」
おそらく毒林檎の毒で死に追いやられた者達の集合体であろうワイトの群れに、キーラは怯えながら後退り、フィオナとラピスは杖を手にとった。
そこへ、横の細い曲がり角からスピネルが現れて言った。
「誰だか知らないが、このモンスターに挑むのはやめておけ、忍びこんで来てここまで騒ぎを起こしたのは重罪だが、今なら林檎を収穫する簡単な作業だけで許してやってもいいんだぞ?」
スピネルはそう言うと、笛を鳴らしてワイトを操り、けしかけるぞとジェスチャーで脅してきた。
「…よくも母さんを!許さないわよスピネル!」
フィオナがそう言って抗戦的な態度を見せると、スピネルは言った。
「…仕方ありませんね。聞き分けのない貴女方が悪いのです。さぁワイト達よ!やってしまいなさい!」
そう言ってスピネルが笛を鳴らすと、ワイト達が迫って来た。
「どっ…どうするんだよ!?」
キーラが怯えてフィオナとラピスの後ろに隠れなごらそう言うと、二人は杖を構えて言った。
「あれをやるぞフィオナ」
「わかってるわ!」
そう言うとラピスは魔法で魔法薬を出してそれをワイトの前に放った。
その次の瞬間、フィオナが炎の球体をその薬品に当てると、瞬く間に炎の渦がワイトを包んだ。
「なっ!何だこれは!?」
スピネルが驚いた隙に、距離をつめたフィオナとラピスは、スピネルから笛を奪い取り、その場で破壊した。
そうすると、捕らえられていたワイトになった者達の魂が解き放たれ、天に向かって飛んで行った。
「ありがとうフィオナ…。貴女は私の誇りよ」
「母さん!」
イエナはフィオナの前で微笑むと、他の魂達と同じように天へと飛んで行った。
「よっ…よくも私の可愛いワイトを!」
スピネルがそう言うと、ラピスが杖でスピネルを殴った。
「大勢の人を罪もなく拘束した上に死なせておいて何が可愛いだ!お前達兵団にはしかるべき罰を受けてもらう!」
ラピスの剣幕にスピネルはたじろぎながらも、壁つたいに後退りながら言った。
「…何の証拠があって言っている?探しても毒林檎を栽培させていた事しか出てこないぞ?しかるべき罰?やれるものならやってみればいい!」
「コイツ…!」
ラピスがまた杖を振り上げたが、それを止めて今度はフィオナが素手で殴った。
「本当は殴る価値もないけど、このままじゃ誰かさんが殴り殺しちゃいそうだから…。」
「フィオナ…。」
ラピスは杖をしまうと、抱きついてくりフィオナを受け入れた。
「母さん…間に合わなかった…!」
「その母さんが、お前の事誇りだって言ってたじゃないか。お前のせいじゃない」
すっかり伸びてしまったスピネルをつつきながらそれを聞いていたキーラは、二人を見ながら言った。
「若いっていいね、お二人さんは付き合ってるのかい?」
「いえ、違います」
二人はパッと別れると、そうきっぱりと言った。
その後、セレスタイトにスピネルや監獄にいた兵団の者達を拘束させると、毒に侵された者達をオブシディアンに見てもらい、事件は終わったかに見えた。
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