第26話 母の手紙


林檎の果樹園が広がる監獄で、イエナが林檎を手を毒に侵されながら収穫していると、またキーラが近づいて来た。


「なぁ、この前言った事、考えてくれたかい?」


キーラがそう言うと、イエナはハキハキとこう返した。


「貴方の計画だと監視役はどうやって逃げるのかしら?一人は逃げられても、二人目は捕まるんじゃないの?大体、壁をこえた後はどう逃げるのかしら?」


イエナがそう言うと、キーラはショックを受けた顔をして黙ってしまった。


…そこまで考えてなかったのね。


イエナはそう思いながら頭を押さえてため息をついた。

そんなイエナにキーラはそれでめくい下がり、言った。


「でも、このまま使い捨てられるように死んでいくよりマシだ!アンタだって大事な人が外にいるんじゃないのか!?何もしないよりいいじゃないか!そうだろ!?」


キーラの訴えに、イエナもハッとしたような顔をした。

そして、残して来た娘の事を思いながら言った。


「もう何年も経つわ、私の事、覚えているかしら?」


「…誰かはわからないが、そう簡単に近しい人を忘れないよ!逃げて会いに行こうイエナ!」


イエナはキーラの勢いに、首を縦に振った。

しかし、すぐに強い口調で言った。


「もしも失敗して私だけ捕まったら、私の娘にこれを渡して!お願い!」


イエナが渡したのは小さな手紙だった。


「もちろんだとも!必ず渡すよ!」


キーラはそう言って手紙をポケットにしまった。

そして見張り役の目を盗み、イエナがサインを出すと、林檎の木からキーラは塀へ飛び移り、外へ出ようとした。


「おい!そこで何をしている!?」


そこで運悪く見つかってしまった二人は、キーラは外へ、そしてイエナはそのキーラに言った。


「必ず娘に渡してちょうだいね!」


「おいイエナ!?」


イエナはキーラが塀で見えなくなると、見張り役に飛びかかり、時間を稼いだ。


「行って!私も後で行くから!早く!」


「わかった!イエナ、また後で!」


キーラは振り返る事なく、そのまま脱獄した。


***


話を聞いたフィオナは、信じられないといった顔をしていた。


「母さんは死刑囚の列に並んでいたのが、私の記憶の最後なのよ?まだ生きていたなんて、そんなバカなこと…。」


「実際俺はアンタそっくりのイエナって女と一緒にいたんだ。これ、アンタへって渡された手紙だ、信じてくれよ!」


フィオナが困惑しながら手紙を開けると、そこにはイエナの字でこう書かれていた。


"靴を買ってあげられなくて、ごめんなさい。でも母さんはいつも貴女を思ってるわ。愛しています、心から。母より"


「母さん…母さんだわ、生きていたなんて…。」


言葉に詰まるフィオナの背中をラリマーがさすると、キーラが言った。


「イエナは捕まったならきっと体罰牢に移されただろう。俺一人が逃げのびてアンタの母さんを置いて来ちまってすまないと思ってる。この通りだ!堪忍してくれ!」


頭を下げるキーラの顔を上げさせ、フィオナは真剣な顔で言った。


「罪悪感があるなら教えて、貴方が脱獄して来た監獄の方向は?」


「おいおい…まさか行くんじゃないよな?」


キーラがそう言うと、フィオナはさも当然のように答えた。


「行くわよ?母さんを助け出すわ!私達で」


フィオナがそう言うと、皆いい笑みを浮かべキーラを見た。

その顔は皆、失敗などしないという自信に満ちていた。


「イエナやキーラの様に不当に捕まり毒林檎を作らされている人だらけのはずだ。こうなったら全員救い出して兵団の力を削ぐぞ!」


オニキスがそう言うと、皆円陣を組み掛け声を上げた。

キーラはその様子を羨ましそうに見ていた。


「凄いな…君達の勇気や、やる気はどこから来るんだ?俺なんて監獄にいる間足が震えっぱなしだったのに」


「怖い物知らずなだけだよ、特に女性陣は」


ラピスがそう答えると、キーラは髪をかきあげながら笑った。


「さぁキーラ、そうしたら監獄はどの辺りか教えてもらうぞ」


オニキスがそう言って杖を一振りすると、その場に地図と机が現れ、キーラを中心に皆地図に注目した。


「この川辺を下って来たんだ。だから監獄はここから南の方角の上にあると思う」


「この峠の方って事ね。わかったわ、念の為に貴方には一緒に来てもらうわよ?」


「えっ…えぇ!?」


キーラは驚くと同時に不安そうだった。

だが、他の皆の圧におされ、仕方なく首を縦に振るのであった。











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