第25話 逃亡者


晴れた日の朝、オニキスとラリマーからもらった花に水をやろうとすると、フィオナは声を上げた。


「ひゃあぁあ!」


花がカラカラになっており、ミイラのようなその顔のような花からは生気があまり感じられなかった。


***


「それは太陽に当て過ぎたのよ、水をたっぷりあげていれば元に戻るわ」


「本当!ありがとうラリマー!」


フィオナがそう言うと、ラリマーは聖水で体を清め、呪詛を押さえつけた。


「アタシこそありがとうフィオナ、これが無いとアタシはもう生きて行けないよ」


「そんな事ないわラリマー、きっと呪詛を解く方法はあるわよ」


「…だといいけどね」


ラリマーはそう言って苦笑すると、フィオナに言った。


「それで…それが王家に代々伝わるペンダント?その割には随分ピカピカで古めかしく無いね?」


ラリマーがそう言って覗き込むと、フィオナはよく首から下げているペンダントを見せた。

それはロケットになっており、菱形をした青とゴールドのペンダントだった。


「魔法のペンダントだからね、持つ者によって変わるみたいなの」


「へー…。」


しげしげ見つめるラリマーにフィオナは暫くペンダントを見せたあと、大事そうに服の中にしまった。

そんな時だった、学校の外が騒がしくなったのは。


「そっちに逃げたぞ!」


「追え追えー!」


兵団の者達がそう言うと、囚人服を着た男が学校の方へ逃げて来た。


「何?逃亡犯?」


ラリマーがそう言って校舎の下を見ると、フィオナもその男を目で追った。


「兵団が捕物とは…やだねぇ」


「ラピス!どこ行ってたのよ貴方!?」


「ちょっと調べ物があってね。それより出て来たぜオニキス先生」


下を見ると、兵団に捕まり今にもムチで打たれそうになっている囚人を、オニキスが助けている様だった。


「何だお前!?邪魔だてすると公務執行の容疑で逮捕するぞ!」


「いくら囚人だからと言ってムチで打つなどこの国の掟や規律に反します。許される事ではありませんよ。貴方こそ掟破りとなる覚悟はよくて?」


「なっ…!?」


兵団の兵士達は、オニキスの迫力に威圧され、しぶしぶムチをしまった。


「貴方達には任せられません。この囚人は私が騎士団に引き渡します。それでいいですね?」


「わかったわかったよ!好きにしてくれ!」


兵士達が踵を返し去っていくと、囚人は安堵のため息をつき言った。


「助かった…。」


「そうとも言えませんよ囚人さん。どんな罪で投獄されていたのか知りませんが、騎士団の長セレスタイトは正義感の強い男。罪人には容赦しないと聞きます。覚悟なさい」


「そっ…そんなぁ…。」


囚人が膝をついてげんなりしていると、フィオナ、ラピス、ラリマーが校舎から降りて来た。


「先生!その囚人引き渡すのですよね?」


フィオナがそう声をかけた瞬間、囚人が立ち上がりフィオナに言った。


「君!無事だったんだね!よかった…!」


「…はい?」


フィオナにその囚人の見覚えは無く、何を言われているのかよくわからなかった。


「心配してたんだよ!逃げるの手伝ってくれたろ!ほら!牢屋で隣だった!」


それを聞いてフィオナは囚人の胸ぐらを掴むと、怖い顔で言った。


「それいつの話?私に似た女性に会ったの!?」


「えっ…君はイエナじゃないのか?」


「いつ!どこでその人に会ったの!?言いなさい!」


ヒートアップするフィオナを他の皆が囚人から引き離し、囚人の話を皆で聞く事にした。


「俺の名はキーラ、盗みの容疑をかけられて、兵団に捕まってからいつもイエナには優しくしてもらってた。俺は無実なんだ!なぁ信じてくれよ!」


「わかった、半分信じてやろう。そのかわり、イエナの事をもっと詳しく話してみろ」


オニキスがそう言うと、キーラは緊張しながらも落ち着いた様子で話し始めた。


***


キーラは兵団に捕まってから、収容所で林檎の栽培をさせられていた。

その林檎が熟すと、傷をつけないように手作業で収穫をさせられ、それをやり続けた者は次第に病気で死んで行った。

それを間近で見て、キーラは恐ろしくなり、隣のイエナとよくその話をしていた。


「終身刑をかけられてる俺達は死んでもいいと思ってるんだよアイツら!だから俺達にあの変な林檎の栽培をさせるんだ!」


「そうね、そうかもしれない。でも逃げ出そうって言ってもどうするつもり?兵士がごまんといるのよここには」


イエナがそう尋ねると、キーラは待ってましたと言わんばかりに言った。


「林檎を収穫するフリをして塀近くの木に登り、塀の外へ飛ぶんだ。これには見張り役が必要だからアンタにもちかけてるんだがどうだ?殺される前に脱獄しないか?」


キーラの問いにイエナは黙っていた。

月明かりが眩しい晩のことだった。












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