第23話 フィオナの母
「フィオナ…生き延びなさい…そして何者にも虐げられず、何者も虐げない…そんな大人になるの!」
「お母さん!」
フィオナの母、イエナが白い囚人服を纏い、木の格子ごしにそう言うと、フィオナは涙しながら手を伸ばした。
だが、馬車が動き出し、他の囚人と共にイエナが連れてかれると、フィオナは走って追いかけるが、途中で躓き倒れ、そのままイエナは見えなくなった。
「お母さーん!」
これが、フィオナが母を見た最後の記憶だった。
***
静かな丘の上の木の下に、小さな墓があった。
そこに眠っているのはフィオナの母イエナだ。
フィオナはラピスと共に花を置くと、亡き母を拝んだ。
「あの時、私がもっと利口だったら、もっと強かったら、そんな風に思う事もまだあるのよ」
「そうか…でもまぁ、ガキだったしな。俺もお前も」
ラピスがそう言ってフィオナの肩をポンと叩くと、フィオナは堪えきれず涙を流した。
「何であの日あんは事しちゃったんだろう…私さえ何もしなければ母さんは…。」
フィオナはそう言いながら泣き崩れた。
ラピスはフィオナと同じように泣き出した空を見て杖で魔法を使って透明な傘を挿してフィオナを傘に入れた。
「母さん…。」
涙するフィオナは、当時の事を泣きながら思い出していた。
***
フィオナは貧しいながらも母と子一人で慎ましく暮らしていた。
そんなある日のフィオナの誕生日に、フィオナはどうしても欲しい靴があった。
「母さん!私魔法の赤い靴が欲しい!」
そう言うフィオナにイエナはため息をもらすと、悟すように言った。
「ダメよ、普通の靴なら買ってあげる。でもあの赤い靴はダメ」
「えー!何で!?」
「模造品だからよ。あの手の本物はお金持ちにしか売ってくれないの。わかったら早く朝ごはん食べちゃいなさい」
フィオナは不服そうにほっぺを膨らませながら、朝ごはんのシリアルを食べた。
そんな日の昼だった。フィオナにとって忘れられない一日となったのは。
***
昼、ショーウィンドウにある、赤い靴を眺めていたフィオナに、太った茶色い羽の男が近づいて来た。
「お嬢ちゃん、その靴欲しいの?」
「…うん!欲しい!」
「…じゃあ、あげようか?」
「ホント!?」
フィオナが目を輝かせながらそう言うと、男はショーウィンドウから靴を取り出しフィオナにわたした。
そしてフィオナがその靴を覗き込んだ瞬間、大声で言った。
「泥棒だ!赤い靴が盗まれたぞ!」
「えっ…?」
そう男が叫ぶと、しめし合わせたように店主がやって来てフィオナを捕まえた。
「泥棒は重罪だぞお嬢ちゃん。兵団に突き出してやる!」
「やだ離して!お母さん!」
フィオナがイエナを呼ぶと、持っていたカゴを落としながらイエナが走って来て、娘を連れて行こうとする男達に言った。
「やめてください!うちの娘に何をするんです!」
「お母さんからもよく言ってやってくださいよ。泥棒は重罪だって。この子はこの靴を盗もうとしたんですよ」
「違うよ!そこのおじさんがくれるって言ったから…!」
イエナはすぐに状況を把握し、男達に言った。
「申し訳ありません…!なんでも致します、だから娘に危害を加えないでください!」
「お母さん!?」
イエナが跪いてそう言うと、男達はイエナを取り囲み言った。
「なるほど、じゃあ親御さんに罪を被ってもらおうか、兵団に引き渡せ!」
「はい!」
「お母さん…!」
フィオナが母を連れて行く男達のあとを追ったが、すぐに追いつけなくなり見失った。
その数日後、囚人服姿の母の姿が、イエナを見た最後の姿だった。
***
母の墓の前で手を合わせながら、フィオナはその後の事を思い出していた。
「母さんが連れていかれた後、オニキス先生に拾われてラピスとも出会ったのよね。未だに母さんの遺体は見つからないけど、死刑囚として連れていかれたから…。」
「お前がねだるんで、俺も先生も、連れていかれた母親を探したけど、手かがりは掴めなかった。わかったのはすでに死亡しているらしい事だけだったな…すまない」
「いいのよ、無理を言った私も悪かったんだし」
フィオナは墓の前でスッと立ち上がると、母に言った。
「じゃあね母さん、また来るわ」
そう言って、フィオナはラピスと共に町中へと向かった。
そこでフィオナは、母の墓に振り返りながら言った。
「次はいい知らせを持ってくるわ。仇は必ずとるからね…。」
それを聞いていたラピスは安心したように笑みをこぼした。
フィオナはいつものようにシャキシャキ歩くと、宮廷へ帰って行った。
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