第22話 誕生日
朝が来ると、この日もフィオナはいつもと同じ時間にベッドから起き上がった。
しかしフィオナの表情はいつもと違い、憂鬱そうだった。
「またこの日が来たのね…。」
フィオナは鏡に向かいそんな自分の顔を見た。
いつものように意思が強そうではあるが、どこか悲しそうなその顔からは一筋涙が溢れ落ちた。
***
ラピスはパンを抱え、尚且つ食べながらお祝いムードの町を不思議そうに眺めた。
「おいオッちゃん。すごい飾りだね、今日は何の日だったっけ?」
「おや?若いの知らんのかい?王太子妃様の誕生日じゃないか!これは盛大にお祝いせねばと思ってね!」
「…あぁ、そういえばそうだったな」
パンの次は林檎をかじりながら、ラピスはお祝いムードの町を見渡し、そこにどこか取り残されたように影を落としていた。
***
その頃、宮殿ではオブシディアンの調合した薬を飲み、コンウェナがホッと一息ついたところだった。
「だいぶ良くなりましたが、毒は抜け切ってません。薬は欠かさないでくださいね?」
「はい、ありがとうございます」
オブシディアンに礼を言うと、コンウェナは少し嬉しそうに言った。
「良くなって来たんで外出してもいいですか?今日はどうしてもフィオナ様へプレゼントを買いたいんです」
「いいけど、セレスタイト様が帰ってから一緒に行きなさいね。最近物騒だから」
「はい」
コンウェナは手を合わせて握ると、嬉しそうにそれを振っていた。
***
所変わって宮殿の玉座では、国王と王子が謁見を終えて何やら話をしていた。
「ブルーよ…して、この前倒れた侍女の容体は?」
「心配いりません父上。回復に向かっているとのことです」
王子がそう答えると、国王は真剣な面持ちで言った。
「ブルーよ、王太子妃を狙った犯行だったのだ、犯人に心当たりは?」
「…あります。ですが証拠がありません」
「わかっておる…しかしこのような事が起こるという事は王太子妃にも何かそうされるような覚えがあるのではないか?前に悪い噂も流れていた。その様な事にならぬようつとめよと話しておけ」
「…父上、我が妃に罪はありません!」
王子が声を荒らげると、使用人達の手が一瞬止まるが、何事もなかったかのように静かに時は流れた。
「ブルー、上に立つ者として言うが、本人に非はなくとも、原因を作ってしまっているのであれば、中心に立つ者が改めねばならぬ時があるのだ。特にこの国は今あまりいい状態ではない。お前もそうとわかっているはずだ」
「…。」
王子が黙ると、国王は悟すように言った。
「今日は王太子妃の誕生日なので無理強いはしないが、国を統べる者としてお前も自覚しなさい。もう子供ではないのだから」
そう言うと、国王は宮殿の奥へと消えた。
王子は目頭を押さえながら、悩んでしまっていた。
***
ロイヤルファミリーの誕生日という事で、今日は祝日となり町中が脇立つ中、宮殿の窓から下を見下ろすフィオナは浮かない顔だった。
「母さん…。」
フィオナそっくりの母親の写真を片手に見ながら、フィオナは思い詰めた顔をしていた。
「チース、邪魔するぞー。」
そこへ窓からしれっと杖に乗って入って来たラピスに、フィオナは少し驚きながら写真を隠した。
「何よもう!ノックぐらいしなさいよね!」
「おう?見られてまずい事でもあったのか?」
「べっ…別に無いけどさ!」
「へー…。」
明らかに狼狽えていたフィオナに、ラピスは疑いの眼差しを向けていた。
そんな場の空気を打ち消す様に、フィオナは振り向きざまに言った。
「そんな事より、お祝いに来てくれたんでしょう!?何か出すわ!エメラルド!」
手を叩いてエメラルドをフィオナが呼ぶと、エメラルドがティーセットを持って来てくれた。
「あんたのために出すのは気が引けるけど、フィオナ様の誕生日だし大目に見るわ」
ラピスを見ながらエメラルドがそう言うと。当たりの強いエメラルドにラピスは笑顔で会釈した。
「すまないねぇ、エメラルド」
「…そう言うところがまた勘にさわるのよね」
飄々としたラピスと、ツンツンしたエメラルド。二人を交互に見ながら、フィオナは斜め上から言い放った。
「何イチャイチャしてるの二人とも?」
「してません!」
エメラルドはきっぱりそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
その後、何事もなかったかのように、フィオナとラピスはお茶を楽しむと、フィオナがラピスに言った。
「今日はあそこへ一緒に行ってくれるかしら?」
「いいぜ、そのつもりで来たしな」
そう言うとフィオナとラピスは、お茶を飲み終えた後、ある場所へと向かった。
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