第21話 魔法薬師


フィオナとエメラルドとセレスタイトは、ジルコン伯爵の家に到着していた。

しかしそこはかなり荒らされていて、兵団の者達もウロウロしていたため、フィオナ達は茂みに隠れた。


「様子がおかしいわね、何があったのかしら?」


「ジャスパー将軍に先手を打たれたのではありませんか?近くに呪われた毒林檎の効力を落とす魔法薬師がいると具合が悪かったのでしょう」


「中に囚われているかもしれないわ。見て来てくれない、セレスタイト?」


フィオナがそう言うと、セレスタイトはすぐに猫の姿になり、フィオナとエメラルドに言った。


「では見て参ります、お二人はこのまま隠れていてください」


セレスタイトが中に入って行くと、フィオナとエメラルドは隠れながらジルコン伯爵一家を心配した。


「大丈夫かしら?痛い目にあってなきゃいいけど…。」


「そうですね、ご主人と娘さんの二人暮らしだったと聞いております。無事だといいのですが…。」


そんな話をしていると、セレスタイトが四足歩行で走って帰って来た。


「ジルコン伯爵と御息女は兵団に追われて馬車で逃げたようです。兵団の慌ただしさをみると、まだ捕まってはいないようですね」


「大変!すぐに保護するわよ、行きましょう!」


その時、フィオナの髪飾りが光った。

その髪飾りをフィオナは耳に当てると、咳払いをしながら言った。


「もしもし?ラピス、今忙しいのよ何?」


フィオナが通話に出ると、ラピスは指輪の石を耳に当てながら、申し訳なさそうに言った。


「悪いな、ちょっと前の子供達みたいに保護してほしい人達がいるんだ、ジルコン伯爵とその御息女なんだが、今から宮殿に向かっていいか?」


「何ですって!?今その御息女の力が必要なのよ!」


「何だ?どういう事だ?」


「説明は後!今どこにいるの?早く言いなさい!」


ラピスが場所を教えると、フィオナ達はすぐにその場所に向かった。


***


「ラピス、待たせたわね!」


通話で大体の事を説明したフィオナは、合流地点に着くとすぐにジルコン伯爵とその娘のオブシディアンの馬車に近づいた。


「王太子妃様、大体の事はラピスさんに伺いました。私達はなぜ狙われたのか今までわかりませんでしたが、そんな酷い事を考える人がいるとは…。」


「この国は一見平和に見えて不正だらけよ、罪の無い命を助けるためにも、力を貸してほしいの。お願いできるかしら?」


「はい。私にできる事は少ないかもしれませんが、お力になれるなら」


オブシディアンがそう言うと、フィオナは自分の馬に彼女を乗せ、目立たないようにフードを被せた。

ラピスもジルコン伯爵を目立つ馬車ではなく自分の馬に乗せると、着ていたローブで顔を隠させた。


「じゃあ行来ましょう!宮殿までノンストップよ!」


フィオナがそう言い走り出すと、皆その後について行った。


***


暫く馬を走らせた後、一行は兵団が検問をやっているのを視線にとらえた。


「参ったわね…あの奥が宮殿への抜け道なんだけど…。」


「フィオナ様、遠回りしましょう!急がば回れと申しますし」


「そうね…。」


エメラルドにそう言われ、フィオナは嫌な予感がしたが、その意見に賛同した。

しかし他の宮殿へと続く道でも検問をしていた。


「やられたわ…これじゃ宮殿に近づけない」


「飛んで行っても目立つしな、万事休すと言ったところか」


フィオナとラピスが策を考えていると、セレスタイトが宮殿を指差しながら言った。


「宮殿へ抜けるワープロードを作るのはどうでしょう?水面に魔法薬を入れてそこから移動するのです。幸い今ここには魔法薬師がいます」


「…いい考えね!オブシディアン、いいかしらお願いしても」


「もちろんです、是非やらせて下さい」


オブシディアンが魔法薬を調合し始めると、他の皆で人が入れそうな水瓶を探し、見つけた水瓶にオブシディアンが調合した魔法薬を入れた。

すると水面が光を持ち、その中には宮殿の庭園の噴水の先が映し出された。


「行きましょう!コンウェナが待ってるわ!」


フィオナがそう言うと、皆次々に水面に吸い込まれる様に入った。

その先でびしょ濡れになりながら、皆噴水の中から出て来た。

突然現れた一行に、前に保護した子供達が驚き、遠目からその動向を見守ると、フィオナとラピス、エメラルド達だとわかり、近づいて来た。


「フィオナ様!何でみんな噴水から?」


「ごめんね驚かせて、みんなコンウェナの具合はどうか知らない?」


「知らない、王子様が入って来ちゃダメだって…フィオナ様、コンウェナ助かるよね?」


「えぇ、助けるわ必ず」


フィオナはそう言うと、オブシディアンを連れてコンウェナのところへ向かった。


***


「コンウェナ!もう心配ないわよ!魔法薬師を連れて来たからね!」


フィオナがそう言いコンウェナの手を取ると、コンウェナは息も絶えだえに言った。


「フィオナ…さま…こんな私のために…ありがとうございます…。」


苦しそうなコンウェナに、オブシディアンが薬を飲ませると、みるみるうちに青かった顔に赤みがさし、コンウェナは眠ってしまった。


「危機は脱しました。ですが体内の毒が消えたわけではないので、薬は定期的に飲んでもらうようになります」


「ありがとう、オブシディアン!」


フィオナがそう言って笑うと、オブシディアンも安心させるように笑った。

そして、その様子を見ていた王子が、何か閃いたように手を叩いた。


「オブシディアン嬢、聞けば君も父君も命を狙われたと言うではないか。そこでどうだろう、この宮殿に父君と共に住むと言うのは?ここなら誰も手が出せないし、こちらとしても、コンウェナの容体を見てもらうのにいいと思うのだが…。」


「本当ですか王子様!」


オブシディアンが感激しながらそう言うと、奥にいたラピスが目を細くしながら言った。


「俺もここで保護してもらえばって言ったんだけどな、いいとこは全部王子に持ってかれちまったなこれは」


「いいじゃないのラピスラズリ、みんな無事ですんだんだから」


エメラルドがラピスの脇腹を軽く肘打ちすると、ラピスは痛がりながら、何とも言えない表情をしていた。























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