第20話 町外れの村

宮殿で晩餐会をしているその頃、ラピスは町外れの村に来ていた。

オニキスの使いで、魔法のハープの修理が終わったらしいので、取りに出かけていたのだ。


「こちらですね、お代は頂いているので結構です」


「こりゃ年季の入ったハープだな。ありがとうございました、確かに受け取らせていただきます」


ラピスはそう言うと、店の人が荷台に運んでくれたハープを固定して、馬車の上に乗った。


「じゃあまた何かあったらお願いします」


「はい、お気をつけて」


ラピスがそう言ってカーボウイハットを軽く上げると店の人は頭を下げた。

そして帰ろうとしたその瞬間に、すごい勢いで馬車が横切り、走って行った。


「危ねぇな…何だ今のは?」


「ジルコン伯爵ですよ、あの特徴的な黒い羽は…。いつもはあんなにスピードを出さないのに今日はどうしたのでしょう?」


するとジルコン伯爵が出て来た方向から、またものすごい勢いで兵団の者達の乗った馬車が駆け抜けた。


「何でしょう?こんな夜更けに…て、お客さん!?」


店員が慌てながらラピスを引き止めようとしたが、ラピスは馬車と馬を離して馬だけに乗り言った。


「悪いな店員さん、もう少しハープ預かっててくれ」


そう言ってラピスはジルコン伯爵の走り去った方へ行ってしまった。


***


所かわって、宮殿ではコンウェナが医者に見られている最中だった。

王子やエメラルドも見守る中、コンウェナか倒れた事で宮中は慌ただしくなっていた。


「しっかりしてコンウェナ!」


フィオナが責任を感じながらコンウェナの手を握って祈っていると、医師が容体を告げた。


「非常に強い、昔ながらの魔法です。解くには一握りの者がなる魔法薬師の力が必要かと…。」


「魔法薬師…心当たりはない?」


医師が首を振ると、フィオナは握るコンウェナの手に額をつけて祈った。


「王太子妃様!私に心当たりが!」


「何!?言って!」


エメラルドが声を上げてフィオナはその続きを促すと、エメラルドは自身を落ち着かせながら言った。


「たしか、町外れの村のジルコン伯爵の御息女が魔法薬師だったかと…!」


「本当!?今から向かうわ!馬の準備を!」


そう言って支度をしようとすると、王子がそれを遮ってフィオナの前に立った。


「狙われたのは君だ…女性陣だけでは行かせられない。とはいえ僕は晩餐会に戻らなくてはならない。セレスタイトも連れて行ってくれ、うんと言うまで僕は君をどこにも行かせないよ?」


心配する王子に、フィオナは笑いかけると、王子の頬に触って言った。


「大丈夫、ブルーの言った通りにするわ。心配しないで、すぐに帰るから」


王子は頬に触れたフィオナの手を握ると、その手にキスを落とした。


「気をつけて、行ってくるんだよ」


名残り惜しそうに王子が手を離すと、フィオナは自室に戻り、急いでいつもの服装になりローブを着てエメラルドと宮殿を出た。


***


一方、ラピスの方は、兵団の者がジルコン伯爵に追いつくと、乱暴に馬車をぶつけて叫んでいた。


「ジルコン!お前の娘も一緒なのはわかっている!痛い目をみたくなかったら娘を引き渡せ!」


「断る!大事な娘をお前達なんかに渡してなるものか!」


ジルコン伯爵がそう言うと、兵団の者達は馬車に火の粉を浴びせようと杖を振った。


…ここまでか…!


ジルコン伯爵がそう思った時、彼とその娘が乗った馬車が泡の様な水の壁に覆われて、火の粉をものともせず、それどころか驚いた兵団の者達は前方不注意で木に馬車がぶつかり逃げることが出来た。


「何だったんだ今のは…?」


少し行った所で馬車を止めると、ジルコン伯爵は近づいて来る者に杖を向け、警戒しながら灯を灯し、相手を見た。


「さっきは危なかったですね。こんな夜更けに慌ててどうされたのですか?出来れば力になりたいのですが…。」


馬に乗って追ってきたラピスがそう言うと、ジルコン伯爵はホッとしたのかその場に座り込み深呼吸をした。

そう先程のはラピスの魔法で、わざと兵団を退けたのだ。


「どなたか知りませんが助かりました。貴方は我々の命の恩人です」


「…そんな大袈裟な、いくら兵団の者でも命を奪う様な真似を…されていたんですか?」


ラピスがそう尋ねると、ジルコン伯爵と、荷台に乗っていた娘はこくりと頷いた。


「危ないところをありがとうございました。私はオブシディアンと申します。お見知り置きを」


娘はジルコンと同じ黒っぽい長い羽をし、白い魔法薬師の服を着た女性だった。

ラピスは深々と頭を下げる親子の話を聞きながら、参ったなと思っていた。














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