第13話 騎士団の長

「報告は以上であららます!」


「ご苦労」


騎士団と兵団の昼間の衝突を耳にしたジャスパーはワインを飲みながら笑っていた。


「道を譲ろうとしたか…プライドは無いのかあの騎士団長は?」


「本当に、そうでございますねジャスパー様」


「スピネル、お前はどう思う?王太子妃は我々を選ぶと思うか?」


スピネルと呼ばれた配下の者は少し考えながら、答えた。


「万が一も無いと思いますが、もし我々を選ばなければそれ相応の報いを受けてもらいましょう」


「フッ…そうだな」


ジャスパーはワインをまた注ぐとそれを飲み干した。


***


宮殿に戻ると、フィオナを待っていたのは王子とエメラルドだった。


「フィオナ様!」


「フィオナ、聞いているとは思うが…。」


部屋に着くなり二人に捕まったフィオナは、肩を落としため息をついた。


「ラピスにも散々言われたし、わかってるわ。騎士団と兵団、どっちを選ぶかって聞きたいんでしょ?」


「じゃあもう決まってるんですね?フィオナ様」


エメラルドがそう尋ねると、フィオナは頷いた。


「ジャスパーを選ぶなんてあり得ないわ、だったら正義感の強いセレスタイトにつくしかないわよね」


「そうだね、でもそうするのも気が引けてるんじゃないかと思ってセレスタイトにお願いしておいたよ。明日ある女性を、そうとわからないよう護衛してくれと」


「えっ…ちょっと待ってよブルー、その女性ってもしかして…。」


嫌な予感がしてフィオナがそう尋ねると、王子は爽やかに笑って答えた。


「勿論君だよ、セレスタイトがついていてくれるなら僕も安心だ。ダメだったかな?」


爽やかな笑顔を向けられ、フィオナは断る事も出来ずに、ただただ深くため息をついた。


***


翌日、フィオナが正式に騎士団側の侍女をむかえてから、宮殿を出た。

侍女の名前はコンウェナといい、白い羽が美しいまだ小さな少女だった。


「可愛い子でよかったわ、早くなれてくれるといいけど」


そんな事を言っている間に下町に差し掛かると、小さな淡青色の猫が、フィオナの後をついて来た。


「あら?どうしたのおチビちゃん、迷子?」


フィオナが首をかいてやると、猫は気持ち良さそうに喉をゴロゴロ鳴らした。


「じゃあね子猫ちゃん」


フィオナがそう言って学校に入って行くと、猫はしっぽをゆらゆらと揺らしていた。


***


「…というわけでセレスタイトがそうとわからないように私の護衛をしてるはずなんだけど…どこにいると思うラピス?」


フィオナがそう尋ねると、ラピスはあくびをしながら言った。


「さぁな、そうとわからないようにってんならそうとわからない様にしてるんじゃねーか?」


「見られてると思うとトイレも行きづらいわ、何とかならないラピス?」


「知らねーよ…王太子妃なんだからトイレは違うだろうが、見られてるという練習だと思って我慢しろよ」


「もう!人事だと思って!」


真面目に考えないラピスにフィオナが怒り出すと、ラピスは流石にバツが悪くなり言った。


「わかった、わかったよ…セレスタイトがどこから護衛してるかだろ?先生の家に変身魔法や擬似化魔法を見破る眼鏡があったはずだ、学校が終わったらそれでも借りてこいよ」


ラピスがそう言うと、フィオナはまだ不機嫌だったが、納得した様子で本を開くと、授業を静かに受けた。


***


学校が終わってラピスと別れると、フィオナはオニキス邸へ向かっていた。

そこで待ち伏せしていたかのように兵団の者達が道を塞いでいると、フィオナは嫌な予感がした。


「ちょっと、そこを通してくれない?」


フィオナが兵団の者にそう言うと、兵団の者は笑いながら言った。


「通して欲しいとよ、なぁオメエらどうする?」


ガラの悪そうな兵団の者達は、フィオナを笑いながら言った。


「あんた、騎士団側の新しい侍女だろ?王太子妃の宮殿から出て来たのを見た奴がいるんだ。兵団を差し置いて選ばれたからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」


兵団の者はフィオナを軽く突き飛ばすと、ヘラヘラと笑いながら続けて言った。


「なんだよく見るといい女じゃねーか…俺達の相手してくれよ、なぁ!」


兵団の者がフィオナに手を出そうとした時だった。

今朝の淡青色の猫が飛び上がり、兵団の前に立ちはだかったのは。


「何だこの猫?邪魔だどけ!」


猫に兵団の者が触れようとした時、その猫が青白く光った。

そしてその姿はみるみる変わり、セレスタイトが剣を片手に現れた。


「貴方…猫に化けてたの!?」


「お嬢さん、危ないから下がっていて下さい」


セレスタイトが現れると、兵団の者は少し怯んだが、構わずセレスタイトに向かって来た。


「騎士団長様が直々に警護ですか!そりゃご苦労な事で…やっちまえ!」


向かって来る者達にセレスタイトは剣を向けた。

セレスタイトの背中を見ながら、フィオナは考えを改め始めていた。


















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