第12話 騎士団と兵団
聖水の一件から数日、宮殿の中は何やら騒がしくなっていた。
そしてその知らせは、フィオナの所にも届いていた。
「フィオナ様、最近騎士団と兵団の対立が激しくなって来ています。フィオナ様はお忍びで外へ出られますのでくれぐれもお気をつけ下さい」
エメラルドがそう言うと、フィオナは不思議そうに言った。
「なぜ騎士団と兵団は争っているの?」
「それはその…ジャスパー様率いる兵団は私利私欲で動く所がありまして、国王陛下に忠実なセレスタイト様率いる騎士団とは馬が合わないといいますか…。」
セレスタイト、淡青色の羽を持つその人は若くして騎士団長まで登り詰めた好青年である。
噂はフィオナも耳にしていたが、実際に会った事は無かった。
「セレスタイトとジャスパーはそんなに仲が悪いの…知らなかったわ」
「近い内に軍事衝突が起きるのではないかとヒヤヒヤ致します…。くれぐれも用心してくださいね!」
「わかったわよ…。」
フィオナはそう言うと、いつもの様に学校へと向かった。
***
「セレスタイト…あの小僧になめられていると思うと虫唾が走る!」
ジャスパーはそう言うと、ワイングラスをまた暖炉に放り込んだ。
「ジャスパー様、お耳に入れたい事が…。」
「何だ…。」
配下の者がジャスパーに耳打ちすると、ジャスパーはニヤリと笑い、またワインを飲み干した。
***
フィオナが学校に到着すると、ラピスが血相を変えて話しかけて来た。
「おい!聞いてるかエメラルドから!?」
「え?何を?」
フィオナがそう言うと、ラピスはため息をつきながら言った。
「王太子妃付きの侍女を、ジャスパーの息のかかった者にするか、セレスタイト側の者にするかで揉めてるらしいじゃねーか」
「え!?何それ!?」
フィオナが声を上げて驚くと、ラピスは声のトーンを下げて他の者に聞こえないようこっそりと話した。
「大事になってるらしい、エメラルドがいるから侍女はいらないじゃ通らないかもしれないぞ」
「何でそんな事に?私騎士団と兵団の争いに巻き込まれるのはごめんなんだけど?」
「王太子妃なんだ、そうはいかないだろ。いずれどっちか選ぶはめになったと思うぞ」
ラピスが真顔でそう言うと、フィオナはため息をついた。
「何でこんな事に…騎士団と兵団になんて興味ないわよ」
「いや、これは大事だぞ。これからどうしたいかの意思表明も出来るしジャスパーにつくなんて選択肢に無いだろ?騎士団にしろよ、セレスタイトは正義の人だから色々な不正を暴くのにきっと役に立つ」
ラピスの提案に、フィオナは消極的だった。
「セレスタイトは悪気は無いんだろうけどブルーをお守りするためって名目で追い回していたイメージが強いのよ。確かにそれが仕事なんでしょうけど私嫌よ?学校まで護衛されたら」
「何だそんな事か…それくらい目を瞑れよ、騎士団がこっちについてくれたらどれだけ心強いか考えろ」
「そんな事って!私達にとっては死活問題なのよ!?」
「死活問題って…大げさな」
そんな事を話していると、オニキスに二人は頭を軽く叩かれた。
「二人共、私の授業を受けたくないなら出て行ってくれても良いのだぞ?」
「…いえ、受けさせて頂きます」
「…すみません」
二人がしおらしくそう言うと、他に授業を受けていた者達が笑った。
「後でなフィオナ」
ラピスがそう言うと、フィオナも頷き、二人はその後真面目に授業を受けた。
***
学校が終わり教室に残った二人は、また騎士団と兵団について話し合っていた。
「騎士団にしたいのは私も同じ意見よ?でもセレスタイトは絶対無理にでも護衛をつけたがるでしょう?困るのよ…。」
「そうは言ってもな…いずれぶち当たったら問題だと思うぞ?俺から見ても正体を知られてないとはいえ王太子妃が一人で町中をうろつくのはどうかと思うし」
「はぁ…困ったわ」
フィオナは深くため息をつくと、頬に手を当て悩み始めた。
「私だって騎士団に味方になってもらえたら心強いわ。でもそれとこれとは別問題で…。」
「フィオナ、噂をすればだぞ」
「えっ?」
フィオナとラピスは、何やら学校の外が騒がしくなっているのに気づいた。
それは今まさに話していた騎士団と兵団の揉め事だった。
「我々は今、町の中を巡回している。道を開けろ」
「それは奇遇ですなセレスタイト様、我々兵団も今ジャスパー様の命で巡回している所なのですよ。道を開けるのはそちらでは?」
そう言う兵団の兵士に対し、セレスタイトが馬から降りると、兵士達は少し狼狽えた。
「なっ…なんだ!?文句があるのか!?」
「いや、君と肩を並べて話したくてね」
そう言うと、セレスタイトは兵士達に言った。
「見回りや巡回は我々騎士団が陛下に授かった仕事だ。兵団の皆は我々もそうだが、来るべき時に備えて鍛錬を積む事が仕事と思っていた。其方達が我々に代わり町の安全を守り見回りをしてくれると言うのなら無礼を詫び道を開けよう」
セレスタイトがそう言うと、兵団は罰が悪そうな顔をすると言った。
「チッわかったよ、道を開ければいいんだろ?」
そう言って兵団が道を開けるとセレスタイトは「ありがとう」と言って馬に乗り、見回りを再開した。
「あれがセレスタイト…。」
フィオナは少し関心しながら、セレスタイトを見ていた。
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