第9話 聖水のありか
ラリマーの具合は芳しくなかった。
あれからフィオナとラピスは西の方へと馬を走らせある場所にやって来た。
「来ちゃったわね、ジャスパーの領地に」
フィオナは崖の上から見下ろしながらそう言うと、先にあるジャスパーの領地を見据えた。
「この領地の先の森の中にある滝から出来た泉の水が、聖水と呼ばれているらしい。オニキス先生はそうおっしゃっていたが…。」
二人は眼下に広がる武装した城や城壁を見て、少し震えた。
「何怖がってるのよ…!ラリマーのためでしょう!?行くわよ!」
「何だよ自分だって震えてたくせに…。でもわざわざあそこに寄らなくてもいいよな?まわり道して行こうぜ」
「そうね…情報が欲しいわけでもないし、まわり道したっていいわよね?」
そう言って二人はジャスパーの領地に寄ることなく、遠回りをして先に進む事にした。
しかし、領地からそれを見ていた者がいた。
「ジャスパー様、何者かが聖水の方へ行こうとしております」
「ほう?ワシに断りもなくとはいい度胸だ」
ジャスパーはそう言うと、ワイングラスを暖炉の中に投げ捨てた。
***
森の中に入ったフィオナとラピスは、自分たちのではない馬の足音と鎧の擦れる音を聞き、異変に気づいた。
「ラピス、頭を下げて…。」
馬から降りて身を隠すと、ジャスパーの兵がゾロゾロと現れ、二人を探しているようだった。
「この辺にいるはずだ!探せ!」
一人の兵士がそう言うと、兵士達は二人の近くまで急接近した。
その時だった、声をかけられたのは。
「そこの旅の人。こっちだ、ついて来な!」
一人の幼い少年がそう言うと、二人は顔を見合い少し躊躇したが森の奥へと歩み進めた。
「あのお城ができてから旅の人なんて来なかったから奴らやりたい放題だったんだ。俺はダネル、よろしくな」
「ダネル。私はフィオナこっちはラピス、よろしくね…。どうして私達を助けてくれるの?」
フィオナがそう尋ねると、ダネルはサラリと言った。
「そりゃ奴らが気に入らないからさ。奴らの敵は味方だろ?」
「…なるほどね」
ダネルに案内され、二人は小さな森の集落へ辿り着いた。
「ダネル、ここは?」
「俺達の家さ、代々ここで聖水を守って来たんだ。なのに奴らが来て聖水を独り占めし始めた。許せねーよな!」
ダネルがそう言うと、フィオナとラピスはこっそり話し合いを始めた。
「先生が言っていた通りだ。占拠されてるって事は一筋縄じゃいかないぞ?」
「わかってるわ。とりあえずあの子について行ってみましょう」
それを見て不思議に思ったのかダネルが尋ねてきた。
「何話してるの?長老に挨拶するといいよ、案内するから」
「そう…ありがとうダネル」
ダネルに集落を案内され、長老の家に入ると、いかにもという白い羽を持った老人がいた。
「ダネル、その方達は?」
「旅の人だよ、奴らの仲間じゃない。安心して長老」
「そうか…こんなところまで長旅、さぞ苦労なさったでしょう」
「いえ、お構いなく」
フィオナがそう言うと、長老は軽く笑いながら言った。
「ここまで来られたという事は、聖水を求めて来られたのでは?」
「そうです、何とか私達に分けていただく事は可能でしょうか?」
「おや、ジャスパー将軍が占拠している事は知っておられるはず…なのに我々にそう尋ねられるとは…気に入りましたぞ旅の方」
そう長老が笑うと、ダネルも嬉しそうな顔をした。
「私達もジャスパーのやり方は気に入りません、何か力になれればと思います。ダネルにも助けてもらったしね」
フィオナがそう言うと、ダネルはラピスと拳を軽くぶつけ合った。
「ジャスパー将軍は我々の聖域を汚した。到底許せる事ではない」
「そうでしょうね、長老はどうするつもりなのですか?」
「我々は聖水を生み出す聖獣を代々見守って来た。ところがジャスパー将軍はその聖獣を捕らえ自分のものだと主張している。なぜそんな事が出来るのか…。」
「あの…。」
質問をスルーされフィオナが困ると、長老は怒った顔から笑顔になり言った。
「あぁすまない、つい熱くなると周りが見えなくなってのぅ。どうするつもりかだったな」
「はい…。」
長老は少し考えてから、息を呑む三人に答えた。
「聖域も聖獣も取り戻したい。だが戦って勝てる相手ではない…。我々もどうしたものかと思っていたところだったのじゃよ」
「そうですか、戦う意志がないわけではないのですね」
「ん?」
フィオナが強気にそう言って笑うと、長老やダネルは意表をつかれた顔をした。
「ラピス、何か考えはあるわね?」
フィオナがそう尋ねると、ずっと考え込んでいたラピスが口を開いた。
「まぁ、少しなら。でも上手くいく保証はないぜ?」
ラピスがそう言うと、集落の者達も集めて作戦を話し合った。
その内すぐに夜になり長い話し合いとなった。
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