第8話 善行


瓦礫の中、ラピスが水の魔法をドーム状に使い、押し潰されずにすんだ。


「何が起こったの?」


「高等魔術だ、かなり荒っぽいがな。やはり俺たちの学校の学生かそれに準ずるに者に間違いない、そうでなきゃこんな魔法は使えない」


ラピスはそう言うと、水で押し流し瞬く間に瓦礫を整列させていき、トンネルを元の姿に戻した。


「貴方の魔法、久しぶりに見たわ。相変わらず鮮やかね」


「それはどうも。俺はアンタの努力の賜物の魔法の方が好きだがな」


そう言い杖をしまうと、二人は偽者がいなくなったトンネルの先を見つめた。


「高等魔術が使えるなら何もジャスパーの元にいはくても高い地位につけるはず。なのにジャスパーに従っているのは何かあるのかしら?」


「そうだな、口車に乗せられてるのかもしれない、それか脅されているかだな」


「自らジャスパーの元にいるのも考えられるけど、だとしたら何故?」


フィオナとラピスは考え込みながら、トンネルを抜けた。

すると満天の星空が広がっていた。


「ねぇラピス。失った信用はどうしたら取り戻せるのかしら?」


ラピスは一度フィオナの悲しそうな顔を見てまた空を見上げながら答えた。


「簡単にはいかない。どうするかが問題だ。自分自身の行動で示すしかない。善行を一つずつ積み重ねていくしかないんだ。何を言われようとな」


「そっか、善行を重ねるね…。」


フィオナは何か思いついたように笑うと、ラピスに言った。


「私やるわ、見ていてちょうだいラピス!」


そう言うとフィオナは宮殿の方へと駆けて行った。


「ラピス!早く!エメラルドに怒られちゃうわ!」


「まったく…変な奴」


そう言い笑うと、ラピスはフィオナの後にゆっくり歩いて続いた。


***


次の日、学校から帰ったフィオナは、いそいそと自分の部屋で何かの支度をしていた。


「フィオナ様ー、もう学校から戻られたのですかー?って!?何をしてるんです!?」


エメラルドが宮殿のフィオナの部屋に入ると、フィオナはベールと仮面を被り出かけようとしていた。


「何をしてるんです!?偽物が現れて非難が殺到しているのにそんな格好で!?」


「逆にだからよ、これから汚名返上しに行くの」


「はい!?」


フィオナは驚くエメラルドを背に、窓から下町の方へと飛び立った。


「ちょっ!フィオナ様ー!」


エメラルドが慌てて窓から見下ろしたが、フィオナの姿は下町の方へと消えて行った。


***


その日から、王太子妃の噂は変わった。


「聞いたか王太子妃の噂…?」


「あぁ、貧しい家に寄付をして回ってるんだって?」


「俺は凶悪犯を捕まえたって聞いたぞ?前と打って変わってどうしちまったんだろうな?」


フィオナはラピスの言った通りに善行を重ねていた。

それが国中に広まるようになり、偽物がした悪行は影を潜め始めていた。


「よくやるねぇ…こんな目立っていいのか?正体を知りたがる奴も出て来るぞ?」


「わかってるけど、今は自分で国民にアピールするしかないでしょう?そんな悪い者ではありませんって…。」


フィオナは自分の部屋で仮面を外しながら、言った。


「今はなりふり構ってられないわ。偽物の噂をカバーするくらい善行を重ねるの。これ以上無駄だとわかったらジャスパーも偽物で騒ぎを起こすのをやめるでしょ?」


「そう簡単に事が運べばいいけどな。相手はあの悪名高い将軍だぞ?往生際が悪いかもしれねえぜ?」


「だとしたら一般人にこれ以上手出しはさせないわ!関係ない人達を守ってみせる!」


そう言うフィオナは実にいい目をしていた。


「…そうだな、例え相手がラリマーだとしても」


ラピスはそう言うと部屋から出て行った。

その時、フィオナの瞳は少し揺れていた。


***


次の日の夜。

フィオナはまた仮面をしベールを被って杖で飛びながら町に出た。

その背後を少し距離を取りながらラピスがついて行った。

暗い道に火を灯したり、小さな善行を重ねていると、町角から偽物が現れた。


「貴女、本物?」


偽物にそう尋ねられ、フィオナは逆に聞き返した。


「貴女こそ、偽物ね?何故悪さをしているの?」


「ジャスパー様に言われたから…大義のためには貴女が邪魔だとね」


「大義?そのためには民衆を犠牲にしてもいいと言うの?」


「詳しい事はわからない。私、バカだから…。だからジャスパー様の邪魔をする貴女には消えてもらう!」


偽物はそう言うと、また高等魔術を唱え始めた。

それを見たフィオナは指先で一つ円を描き、光る小さな輪っかの炎を出すとその中に指を入れて飛ばし、偽物の杖を破壊した。


「キャッ!?」


杖で飛んでいたため、地面に落ちそうになった偽物をラピスが水の魔法で受け止めて安全に偽物を下に下ろした。


「終わったな、ラリマーかどうか確かめよう」


「…そうねラピス」


なんの騒ぎかと人が集まる中、フランが現れ偽物ではなくゆっくり降り立ったフィオナの方へナイフを持って向かって来た。


「王太子妃!覚悟!」


それを見た偽物は、フィオナの前に立つとナイフから庇った。


「おっ…お前が悪いんだ!」


フランはそう言ってナイフを捨てて逃げていくと、偽物の仮面が落ちた。


「ラリマー!」


フィオナがそう言ってラリマーを抱き止めると、ラピスはドウム型の水の魔法で人払いをした。


「やっぱりフィオナだ…杖を見て思ったてたの。だから王太子妃の噂にあんなに関心もってたんだ…。ずっと思っていたの、どうして二人の前で、王太子妃になりすました時の事…話しちゃったんだろうって…。」


「ラリマー…喋らないで!今治療を!」


ラリマーの服を一部破り、ラピスが治癒魔法をほどこそうとしたが、その服の下の肌はアザの様に黒ずんでいた。


「ラリマー…これは…」


二人は絶句し、その黒ずんでいる肌にフィオナは手を当てた。


「呪術だな…こんな酷いのは初めて見た」


ラピスがそう言うと、ラリマーはラピスの作った水のドウム型の天井を見ながら言った。


「魔術をもっと覚えたくて、呪術を試していた時、失敗したの。私、バカだから呪術の解き方がわからなくて…医者にも見せたけど手のほどこしようがないって…そんな時ジャスパー様に治してやるって言われたの。そして大義のために力をかして欲しいって…。」


「わかった、もう話さなくていいわラリマー!ラピス!何とかなる!?」


「ナイフの傷はな…でも呪術は俺にも無理だ」


その後、ラリマーの傷を治した二人は、人が集まる中、ドウム型の水から飛び出し、その場を後にした。

そして向かったのは、オニキスの所だった。


「どうしたお前達、そんな血相を変えて…。」


「先生!ラリマーが!」


***


「これは酷いな、体の奥まで呪詛で覆われている。骨が折れるぞ」


診察台にラリマーを乗せ、オニキスがそう言うと二人は弾かれたように言った。


「という事は治るんですよね!?」


「流石先生だ!でもどうやって!?」


「…これこれ、そう慌てるな」


オニキスはそう言うと、ラリマーの体に触れて言った。


「聖水が必要だな。簡単には手に入らないぞ?」


「先生!何でもやります!言って下さい!」


そう言うフィオナの目を見て、オニキスはやれやれと笑うと、フィオナとラピスに話した。


「聖水は聖なる泉にある、とって来るのはそれこそ骨が折れるがやれるか?」


そう言うオニキスにフィオナとラピスは顔を合わせて言った。


「もちろんです!」


「任せて下さい!」


そう言う二人にまたオニキスは笑いながらため息を漏らすと、詳しい場所を教えた。

それはとても危険な場所だった。



























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