第7話 捜索
学園に戻ろうとしていたフィオナとラピスは、不審な男性がついて来ているのに気がつくと、曲がり角で待ち伏せて声をかけた。
「お兄さん、何かご用ですか?」
比較的若い男性にそう言うと、フィオナは腕を組んだ。
男性は少したじろぎながらも強い口調で言った。
「俺はフランと言う、王太子妃に子供をひき殺された男だ!お前達、何か王太子妃について知っているなら教えてくれないか!」
「そう…王太子妃に」
フィオナが途端に静かになると、代わりにラピスが答えた。
「俺達は何も知らない、最近の騒ぎが気になって来てただけだ。アンタ、子供をひき殺されたって言ったが、本当に王太子妃だったのか?」
「わからないからこうして探っているんだ!王太子妃がそうそう町中を彷徨くわけないからな!でも本物だったとしても俺は絶対に復讐してやる!」
フランはそう言うと、そねまま立ち去ってしまった。
沈み込をでしまったフィオナを見て、ラピスは肩を叩くと、フィオナは口を開いた。
「私じゃなくても恨まれてるのよね、実物に会ったらどうするのかしらあの人」
「さぁな、だが本当に王太子妃だったのか疑心暗鬼にかられてた。みんなそう簡単にジャスパーのおっさんの手の平で踊らないと思うぜ」
「そうだといいけど…。」
フィオナの不安は相当のものだった。
***
フィオナとラピスは夜、町中で王太子妃の偽者が現れるのを待っていた。
「いいのかこんな時間まで宮殿を留守にして、それこそ疑われるぞ?」
「大丈夫よ、エメラルドに私の代わりをしてもらっているから」
「…そりゃ、エメラルドも災難だな」
「どういう意味?」
「いや、別に」
ラピスははぐらかすと、前のフィオナの家で、騒ぎが起こるのを待った。
***
その頃、宮殿の一室では。
「フィオナ…もう寝てしまったのかい?」
王子が部屋へやって来たが、暗くなっていて寝ている後ろ姿を確認出来たので、王子はそのままそっと立ち去った。
「もう…フィオナ様ったら!帰って来たら酷いんですから!」
ベッドに潜り込んだまま、エメラルドはじっとフィオナの帰りを待っていた。
***
それから数時間後、動きがあった。
「大変だー!王太子妃様が暴れている!」
そんな声が聞こえて来ると、フィオナとラピスは、フィオナの家から飛び出して、声のした方へ向かった。
そして仮面に白いベールを被った偽物を視界にとらえた。
「会いたかったわよ偽物ちゃん!」
フィオナはそう言うと、偽物の周りに炎を走らせ、自分達と偽者だけにし町人にケガのないよう退かせた。
「さぁもう逃げられないわよ、正体を確認させてもらうわ!」
フィオナがそう言って偽物に杖を構えながら近づくと、偽物の王太子妃は、杖を取り出して舞い上がった。
「待ちなさい!」
「おい…フィオナあの杖!」
フィオナが追いかけようとすると、ラピスはフィオナを呼び止めて、杖を見るよう促した。
「あれは…!」
フィオナもラピスも、その青い宝石のついた杖に見覚えがあった。
二人が呆気にとらえている間に、偽物の王太子妃はそのまま空へ飛び立った。
「まさか…でもあの杖は」
フィオナもラピスも、ある友人を頭に浮かべていた。
「ラリマー…。」
ラピスがそう呟くと、フィオナも信じられないという顔で、空を見上げていた。
***
次の日、学校にいつも通り明るく登校して来たラリマーにフィオナとラピスは声をかけた。
「ラリマー!」
「あら!フィオナにラピスじゃない。どうしたの?何か用事?」
いつも通りのラリマーに、二人は困惑しながら質問をした。
「ラリマー、君は昨日の夜何をしていた?」
「何って部屋にこもって勉強してたよ?早く二人に追いつきたいからね!」
「そう、じゃあ外出はしてないのよね?」
「するわけないじゃない、どうしたの二人して?何か変よ?」
いつも通りのラリマーを見て、二人は少し考え込むと、ラリマーに言った。
「ありがとうラリマー、変な事聞いて悪かったわね」
「勘違いだったようだ、すまない」
そう言い残し二人は奥の机に座ると、密かに話し始めた。
「どう思う?」
「半信半疑だな。あのラリマーが部屋にこもって勉強するか?」
「そうよね、あの子はそんなタイプじゃない」
意見が一致したところで、二人は考え込んだ。
「あのラリマーが…でも何故ジャスパーなんかと?」
「わからない…何か言われたのかもしれない。ラリマーは騙されやすそうだしな」
「どうすればいいの?フランだってあの子を狙っているのよ!?」
フィオナがそう言って立ち上がると、他の生徒が驚いてみんな振り返ったが、フィオナが手振りで謝ると、元の空間に戻った。
「とにかく、ラリマーかどうか確かめるために次は必ず捕まえましょう、それしかないわ!」
ラピスも頷くと、オニキスがやって来て魔法学校の講義が始まった。
二人は次の手を考えながら、講義を受けた。
***
夜、またフィオナが宮殿から抜け出そうとすると、エメラルドが止めに来た。
「フィオナ様!今夜こそは許しませんよ!貴女はこの国の王太子妃なんです!変な噂もたってますし、絶対にダメです!」
窓から飛び出して行こうとするフィオナを引き止め、エメラルドは悲しい顔をした。
「貴女が子供をひき殺したなんて…そんな噂がたってる事が私はゆるせません!貴女はいい人なのに…。」
「わかったわ、今夜は早く帰って来るから…泣かないでエメラルド」
「そういう問題じゃありません!」
エメラルドの頭を数回撫でて、フィオナはエメラルドを宥めると、その後すぐに飛び出して行った。
「フィオナ様!許しませんからね!」
エメラルドの怒鳴り声は夜空に消えていった。
***
前の自宅の所まで来ると、ラピスもそこで待っていた。
「お邪魔してるぜ。エメラルドに引き止められたんだろ?大変だったな」
「そうでもないわよ。アンタは公爵の息子のくせに自由でいいわね」
「まぁ、家は結構フリーダムだからな」
そんな会話をしながら、フィオナの元自宅へ入ると、作戦をたて始めた。
「何か妙案はある?」
「炎で行く手を塞ぐだけじゃ飛んで行かれる。ならどこか屋根のある所まで追い込むのはどうだ?」
「なるほど…それでいきましょう!」
サッと地図をしまうと、フィオナとラピスは杖を出しその瞬間が来るのを待った。
「王太子妃様だー!」
そう叫ぶ声を聞き、フィオナはラピスと共に外へ飛び出した。
「待ってたわよ偽物ちゃん!」
フィオナはそう言って偽物を視界にとらえると、走りながら笛を鳴らした。
偽物がフィオナとラピスが追って来るのに気づくと、走り出しトンネルの方へ向かった。
「今だフィオナ!」
ラピスがそう言うと、フィオナは自分達と偽物だけをトンネルに入れ、出口に火柱を立てた。
「もう逃げられないわよ!大人しくお縄につきなさい!」
フィオナがそう言うと、偽物は呪文を唱え始めた。
そして魔法陣を張り巡らせた。
「何…?」
「…!やばい、伏せろフィオナ!」
ラピスがそう言った瞬間、魔法陣が水色に光り、爆発した。
偽物の王太子妃は、崩れ落ちるガレキの中、フィオナ達のいるであろう方を見つめ、何事も無かったかのように立ち去った。
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