第6話 偽物

宴会から一夜明け、フィオナとラピスは学園に足を運んでいた。


「ジャスパーをどうやって失墜させるかが問題よね?」


「おう、恐ろしい事を考えなさる」


「だってそうでしょ?あんな奴、要職についていたらろくなことないわよ!」


「それもそうだな」


ラピスがそう言うと、フィオナは重い本を机に置き、話を続けた。


「ねぇ何かいい案ないの?どんな奇抜なのでもあのウェルカムよ」


「そうだなぁ…。」


そんな事を話していると、二人に近づいて来る影があった。


「何難しい顔で話してるの?」


そう声をかけて来たのは、水色の羽をボブ髪の様な羽を結い上げた少女だった。


「ラリマー、もう追試終わったの?」


ラリマーと呼ばれた少女は恥ずかしそうに頬をかきながら答えた。


「それ言わないでよ、二人は頭いいからいいなー、私ももうちょっと利口ならお父様にドヤされずに済むんだけど」


「伯爵令嬢だものね、そりゃオツムも親御さんは気になるでしょう」


「お父様もお母様もいい学校に行けいい家に嫁げってそればかり!もっと大事な事があると思うんだ私は!」


そう熱く語るラリマーに、フィオナとラピスはフィオナが置いた重い魔導書を差し出した。


「はいはい、そう熱くなる前に勉強ね」


「で、どこがダメだったんだラリマー」


二人にそう聞かれて、ラリマーは大人しくなると、また恥ずかしそうに言った。


「どこがダメなのかわかんない…。」


そんなラリマーにフィオナとラピスは深くため息をついた。


***


学校が終わり、庭園からの秘密の抜け道から宮殿に戻ろうとしたフィオナを、王子が花を見ながら待っていた。


「ブルー、どうしたの?公務ら終わったの?」


フィオナがそう尋ねると、王子はフィオナを見て嬉しそうに笑い、フィオナの頬に触れた。


「待っていたよフィオナ、仕事は今日は早くに終わってね。一目我が妃を見たくなったんだよ」


「そう…で、一目見てどう?」


フィオナがそうまた尋ねると、王子はフィオナの額に自分の額を重ねて見つめ合った。


「美しい、ため息が出るよ」


「そう?ありがとう」


そう言って笑い合うと、フィオナは王子の腕にしがみつきながら宮殿の中へと入って行った。


***


夕方、邸の中でジャスパーは、ワインを飲みながら配下の者に言った。


「あの王太子妃は面白い、素性を全く表に出さないからな」


「そうでございますね、ジャスパー将軍」


またワインを口にしながら、ジャスパーは何かいい事を思いついたように笑った。


「王太子妃の偽者を集え、小娘に宮廷の恐ろしさを教えてやろう」


ジャスパーはワインを飲み干すと、ワイングラスを暖炉の中に投げ込んだ。


***


すぐに異変はフィオナの元へと伝えられた。


「偽物が現れたようだな、隠そうと決めた時この様な事態を危惧してたけど」


「酷いわ、馬車で子供をひき殺したとか、お金を巻き上げたとか、そんな話ばかりよ」


ベールを被り仮面をした偽物は、あちこちに現れては姿を消していた。

フィオナを悩ませたのはその後に自身にふりかかる人々の批判だった。

フィオナ自身は何もしていなくても、偽物によって批判は拡大する一方だった。


「こんなところに王太子妃は来ないって言う奴らもいる。あんま気にすんなよ」


「気にするわよ!私だけならいいけど、中にはブルーまで批判する人もいるのよ!」


フィオナは王子が批判に晒されるのはどうしても耐えられなかった。

ラピスはそんなフィオナを宥めながら、考え込んだ。


「いくら考えても、こんな事をするのはジャスパー将軍以外考えられない」


「失墜させるどころか、こっちがやられてしまうわ!偽物を何とかしないとね!」


そうして学校の机で話していると、またラリマーが引き寄せられるようにやって来た。


「ねぇ!今度は何話してるの?」


「なんでもないわ、貴女は補習は終わったの?」


「やな事思い出させないでよ。ねぇ、聞いたまた王太子妃が現れたって!」


ラリマーの話しに、フィオナは身を乗り出すと、ラリマーの胸ぐらを掴んだ。


「どこ!?どこで出たの!?」


「落ち着いてよ話すから…。ここからそう遠くない街路樹の辺りだったってよ」


「街路樹ね!行くわよラピス!」


「おっ…おう!」


フィオナとラピスはそう言うと、足早に街路樹の方へ向かった。

残されたラリマーは呆気に取られながら二人を見送った。


***


「この辺りね!」


「多分な…。」


飛んできた二人は、杖をしまうと、辺りを調べ始めた。


「大きな穴ね、何をしたのかしら?」


「さぁな」


二人が調べていると、近づいて来る影があった。


「アンタ達も野次馬かい、帰った帰った!」


そう言ったのは人の良さそうなおばさんだった。


「おばさんここの人?何があったか話してくれない?」


「王太子妃が住民相手に暴れたんだよ。こんな穴まで作って、いい迷惑だ…。」


「そう…ありがとう」


おばさんはそう言うと、人混みの中に消えて行った。


「狙いは失墜させる事だろうが、関係ない人を巻き込むやり口は許せねぇな」


「ねぇ、こんな穴を作るような魔法、普通の人じゃ出来ないわよね」


「はっ?」


魔法が発展したこの国では、多くの人が魔法を使う。

だが、破壊魔法などの高度な魔法は、資格を持つ者や高度な魔術学校に通う者しか使えない。

それはフィオナやラピスの様なオニキスに教えられる者など、使える者は限られていた。


「まさか、魔術学校の同士がやってるとでも?他にも騎士やエメラルドみたいなお付きの宮廷魔術士にもできるぞ?」


「わからない、でもここは学校にも近いし当たってみる価値はあると思う」


そう言うとフィオナは学校へと踵を返した。

それを見つめている人影があると知らずに。

























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