第4話 死霊
町に戻り宿で着替えると、子供を霊から救ったとして町の者達が歓迎してくれた。
「よそ者!よくやってくれた!」
酒場のマスターがそう言うと、二人に抱きついて礼を言った。
「あれは俺のセガレでね、ありがとう!」
寂れていた最初とは打って変わって、人々が明るく生き生きとした顔で迎えてくれた。
これにはフィオナも感激しながら、言った。
「何よ、いい町じゃない」
「あぁ、でもそれを治めてる奴が出て来ないのはおかしいよな。こんだけ大騒ぎしてるのに」
ラピスの言う通り、その場に本来あるべきシトリンの姿は無かった。
シトリンは少し離れた城の中でそれを見ると、すぐ寝所へと下がって行った。
フィオナはその影を見上げながら、町の人々に尋ねた。
「シトリンはいつも城に引きこもってるの?」
「あぁ、兄のアンバーと同じで昔から体が弱くてね。アンバーが死んだ後はもっと酷くなったよ。霊のせいでこの有様だし。でも久しぶりにみんな笑顔になった、あんたらのおかげだ。重ねて礼を言うよ、ありがとう」
マスターがそう言うと、フィオナは少し考え込んだ。
病弱なシトリンにはきっと重い物などは持てない。ならば霊に魔法をかける媒介になった物はシトリンでも気軽に持ち運べる物だ。
一体なんなのだろうかと。
***
夜が明けて朝日が昇ると、フィオナとラピスは今度は凶作だと言う畑に行った。
「何でかしらね、土は良さそうなのに」
「呪いのせいだろ?ところで城には行かないのか?元凶に会いに行った方がいいんじゃないかと俺は思うね」
「シトリンが望んでやった事とは思えないわ。兄が死んだ事でおかしくなったのよ」
「お?肩を持つじゃねーか。披露宴では威圧的だったのに」
「あれはしょうがなく…シトリンが霊なんて連れ歩くからいけないのよ」
「へー、そうかい」
ラピスがそう言うと、フィオナは少しむくれながらも言った。
「何をイラついているの?気になる事でも?」
「イラついてるわけじゃない、効率を考えろと言いたいだけだ。…気になるか、俺はもしかしたらあの霊はワイトになってしまったんじゃないかと思うんだが」
「ワイト?死霊って事?何故?」
フィオナが尋ねると、ラピスは考えながら言った。
「ワイトは生きている者を憎む霊だ。アンバーは死んで魔法をかけられて、生者を憎むようになったのかもしれない。それなら一連の行動も頷けるんだ」
「でもワイトなら死体に取り憑くんじゃない?じゃあずっと墓の場所にいるのは…。」
「やっぱり行こう城へ、事が起きてからじゃ遅い!」
そう言うと、二人は馬を走らせシトリンの城へと向かった。
***
シトリンはアンバーの霊が漂う中アンバーの墓の前にいた。
「兄さん…お話がしたいわ…何か言って…。」
ゴホゴホと咳をしながら、シトリンは寂しさを募らせていた。
昔は良く、アンバーと共にこの小高い丘続きの町を走り回って遊んだ。
その頃の事を思い出しながら、シトリンはアンバーの漂う霊を見上げた。
「兄さん覚えてる?昔丘を駆け回って遊んだよね?あの頃に戻りたいわ」
胸につけた羽の色と同じ黄色いペンダントを握り、アンバーの墓に触ると、突如アンバーが奇声を上げ、墓の中に入って行った。
「ー何!?」
シトリンも驚きながら後退りすると、アンバーの体に入った霊が這い上がって来て、その姿を鳥の化け物へと変えた。
「兄さん!?」
アンバーはまた奇声を上げると、集まって来た使用人達もろともシトリンを突き飛ばした。
***
「おい!何かやべえ事になってるぞフィオナ!」
「わかってる!」
馬を飛ばして来たフィオナとラピスは、様子のおかしい城の中へと入った。
「フィオナ!上だ!」
ラピスがそう叫ぶと、フィオナは間一髪のところでワイトの攻撃を避けた。
ワイトが爪で抉った所は、城壁が剥がれ落ち見るも無惨だった。
二人はワイトから距離を取ると、フィオナはしていたピアスを杖にし、ラピスはしていた指輪が仙人が持つような木の杖になった。
二人が杖を構えると、ワイトは悍ましい声で鳴き、城の上へと上がって行った。
「今度こそ逃がさないわ!」
「やめて下さい!」
そう声を上げたのは、シトリンだった。
シトリンはフィオナのローブにしがみつくと、懇願した。
「あれは兄なんです!どうかそっとしといて下さい、私達を…!」
フィオナはローブをシトリンの手から剥がすと、言った。
「あれはもう貴女の兄ではないわ、生者を憎むワイトよ。でも悪いようにはしないから安心しなさい」
フィオナがそう言うと、シトリンは使用人達同様に気を失った。
「ラピス、この人達を頼むわ!」
「わかった任せろ!」
ラピスはそう言うと、シトリンや使用人達の腹部に手を当て治癒魔法をかけ始めた。
フィオナはそれを見て安心しながらワイトのいる城の上へと登って行った。
***
ワイトは唸りながら、翼を広げてその黒い体を日に当てないよう城の日陰から町の人々を見下ろした。
騒ぎを聞きつけ出て来た町の人々に狙いを定め、襲いかかろうとしていたその時、炎がワイト目掛けて飛んできた。
「アンバー!貴方の相手は私よ!」
フィオナはルビーのついた杖を振り回すと、炎が渦巻きながらワイトに向かって放たれた。
だがワイトはそれをかわし、フィオナのいる場所を爪で襲った。
「ひゃっ…!やったわね!」
すんでのところで城壁に飛び移りワイトの攻撃を避けたフィオナは、手の平から、披露宴でも見せたリボンのような炎を出すと、ワイトはそれを見て反応し、大人しくなった。
「あれは…。」
「鎮めの魔法だ」
そして、それと連動する様に、下にいたラピスがシトリンのしているペンダントが光っているのに気がついた。
「ラピス!お願い!」
フィオナの声に、ラピスは応じるようにシトリンのペンダントを杖で壊すと、ワイトは飛べなくなり下へと落ちた。
「兄さん…!」
シトリンは体を引きずりながら、落ちて化け物から普段の姿に戻ったアンバーに体を寄せた。
「兄さん…私は…。」
シトリンが泣いていると、遺体から光るアンバーの魂が、シトリンの頭を撫でた。
「シトリン、もう悲しまないで。兄さんはいつでも見守ってるよ」
シトリンはそれを聞き、泣きながらも、兄につられて笑った。
「ありがとう…旅の方」
アンバーはそう言うと、光の柱と共に天高く昇って行った。
「終わった…か?」
ラピスがそう言うと、フィオナが降りて来て言った。
「終わったわ。シトリン、もう霊を繋ぎ止めようなんて考えないでよね」
「はい…お妃様、そのように致します」
シトリンがそう言うと、フィオナは驚きながら言った。
「気づいてたの!?」
「はい、声でわかりました。兄は見守っていると言ってくれました。これからは兄を悼みながら領地がより良くなるよう治めていきたいと思います」
シトリンがそう言うと、フィオナはその肩を嬉しそうに叩いた。
***
帰り道、馬を走らせながら、フィオナはまだ嬉しそうだった。
「今回は上手くいったわね」
「フィオナ、忘れてるだろうが、帰ったら付き人のエメラルドに小言をチクチク言われるぞ?」
「あっ!そうだったー!」
フィオナの声は、天に昇ったアンバーに届く勢いで辺りに響いた。
***
その頃、王都の王宮では。
「フィオナ様ー!もう許しません!帰ったら覚えていて下さいよー!」
エメラルドの怒りは相当のものだった。
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