第2話 披露宴
オニキス邸襲撃から数日後。
フィオナと王子の結婚式の準備が、実しやかに行われていた。
そんな中、フィオナはラピスと共に恩師の元に謝罪に訪れていた。
「フィオナよ…あれからどうだ?王子はよくしてくれるか?」
「はい、ちょっと怖いくらい優しくしてくださいます」
「そうか…。」
紅茶を飲みながら、オニキスはフィオナとラピスの様子を伺っていた。
何か二人共、相談したくてうずうずしていると言った感じでそわそわとしていた。
それを見てオニキスはため息を吐くと、二人に言った。
「で、何を相談したいんだ?」
「流石先生、話が早い!実はですね、王子にも断りを得ているらしいのですが、フィオナがフィオナとバレないよう披露宴をするにはどうしたらよいか、お知恵をお貸し願いたい…!」
フィオナよりも前のめりにラピスがそう言うと、オニキスは目頭を押さえながら再びため息を吐いた。
「すみません先生…。でも下町のみんなにまで知られてしまったら、学校にも来ずらいと思うのです」
「…なんだフィオナよ、結婚してからも学校に通うつもりなのか?その姿勢は素晴らしいが、必要なかろう?」
この国では位の高い貴族や王族に嫁入りすると、あらゆる地位が認められる。
言ってしまえば働く手間も学力も必要なくなるのだがフィオナは事情が違った。
「あら?不正があるなら正せばいいとおっしゃったのは先生ですよ?そのためには学力は必要です。先生の元で学ぶことはまだ沢山あると存じます」
まっすぐなフィオナの目に、オニキスは深いため息をまた吐いた。
「まったく、お前達は面倒な子達だよ。わかった、策を与えるからその通りにする様に」
その言葉にフィオナとラピスは笑い合い、喜んだ。
***
その更に数日後、披露宴は盛大に執り行われた。
暗い話の多かったこの国にとって、久しぶりの明るい話題に、国の者は皆、盛大に祝福した。
しかしその花嫁の素顔を見ようと集まった者達は驚愕した。
その素顔の半分上は、白い仮面で覆われていたのだ。
「あれがお妃様?」
「なんで仮面なんだ?」
皆口々にそう話した。
もう一つの素性を知る手掛かりである羽根の色も、金のティアラと白いヴェールに隠れて、うかがい知る事は出来なかった。
ただ、滲み出る品格と美しさは民達を圧倒していた。
「綺麗な花嫁衣装」
「それだけじゃないわ、なんて優雅な身のこなし…。」
「まぁ!どんな方なのでしょう?」
貴族の淑女達がそう囀ると、フィオナは会釈と共に笑みをこぼした。
「キャー!」
「今、私に会釈なさったわ!」
「いいえ私よ!」
淑女達の囀りはデッドヒートしていった。
「ごらんよ、みんな君を見ている。私の妃を」
「いいえ、貴方を見てるんですよ王子」
そんな事を言いながら、皆が見守る中、二人は階段を降りて行った。
そして盛大な宴が執り行われた。
***
宴の中、名家の家系という事で呼ばれていたラピスが近づいて来ると、すれ違いながら話した。
「仮面、正解だったじゃないかフィオナ」
「えぇ、特注してくれてありがとう。中々つけ心地いいわよ」
「そうか?」
そんな話をしている時だった。
左側の方で女性の叫び声がしたのは。
「何?」
声のした方を見ると、黄色い羽根の男の幽霊が、宴会を彷徨う様にゆっくりと浮遊していた。
「申し訳ありません、我が兄が失礼を…。」
そう言ったのは幽霊と同じ黄色く長髪のような羽根をした、おしとやかそうな少女だった。
フィオナは立ち上がり、その少女の所へ行くと皆道を開けた。
「お嬢さん、死者を幽霊として魔法でこの世に縛るのは掟破りだとご存じですか?」
フィオナがそう言うと、少女はひざまずきながら言った。
「シトリンと申します。お妃様、私は許可を得て兄をこの世に繋ぎ止めているのです」
「黙りなさい、どのような許可か知りませんが霊は悪さをします。この際は私が直々にお兄さんをあの世へ送って差し上げましょう」
フィオナが手を差し出すと、リボンの様な炎が手の上で咲いた。
その時、それにまったをかける人物がいた。
「そこまでだ。シトリンにはワシが許可を与えたのだよ、王太子妃よ」
「ゴールド・シュタイン王…。」
杖をつき、足を引きながら現れたのは、金色の羽根を持つ、この国最強の魔法使い、ゴールド・シュタイン王その人だった。
国王はフィオナに道を譲らせると、シトリンを立たせて言った。
「すまなかったな、王太子妃は知らなかったのだ、許しておくれ」
「いえ、私は別に…。」
「よいよい、さぁ宴の続きじゃ、皆盛大に祝っておくれ」
国王がそう言うと、静けさは去り、陽気な音楽がまた流れた。
「フィオナ、探したよ。何かあったのかい?」
「ブルー、ごめんなさい私気分が…。」
フィオナはそう言うと、自室へと下がって行った。
***
王宮で設けられたフィオナの自室で、フィオナは花嫁衣装を脱ぎ、いつもの白いワンピースを着ると、訪れて来たラピスに言った。
「信じられる?私には目もくれなかったわよあの国王!」
「仕方ないさ、シトリンは王のお気に入りだ。あの年齢で小さな村の領主だそうだぞ」
「王のお気に入りだからって、掟を破っていいわけないでしょう!?霊はむき出しの心よ!誰かが被害に遭うかもしれない。そうなってからじゃ遅いのよ!?」
「じゃあどうする?成仏させるか?王に許可を得ているのだから難しいぞ」
ラピスが手を差し出してそう言うと、フィオナは不敵に笑い、その手を掴んだ。
「やるに決まってるでしょ!私達で!」
「簡単じゃないぞ?」
「上等じゃない」
二人はそう言いながら、シトリンとその兄を王宮から見下ろした。
その時、柔らかな風が吹いた。
それは嵐の前の静けさであった。
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