第11話

何やら騒々しく、様子を見に東屋を離れれば、目の前で繰り広げられるラッセル公爵令嬢の暴走。

フィオナは、他人の夫にやすやすと抱き着き、それを受け止める自分の夫を冷めた目で見つめた。


彼等の会話を聞いていると、徐々に何かが冷えていく気がする。

お腹の子のおかげで、少しずつではあるが心の距離が縮まってきた気がしていた。

アルヴィンの優しさや気遣いも、素直に受け取れるほどには。

これならば離縁しても、子供に会わせてくれるかもしれないとも思っていた。

なのに、既に側室の話が出ているという。

しかもその話の出所が、前国王、つまりはアルヴィンの父親の弟から。


今まで私の所に来ていたのは、ただの機嫌取り?

子供を無事に産んで欲しいが為だけに、見張っていたというの?

優しくして少しだけ父親らしい事をしていた裏で、側室を選定していたとはね・・・・

しかもそんな話は、私の耳には一切聞こえてこない。

・・・・結局は、初めて顔を合わせた時と何にも変わっていなかったって事なのね。


フィオナの心は思っていた以上に、傷ついていた。

そんな自分に驚き、そして彼の優しさにかなり甘え頼っていた事を自覚してしまう。


―――・・・あぁ・・・駄目ね、忘れちゃ。あの時の怒りを・・・・


フィオナはゆっくりと彼等の前へと姿を現した。

「フィオナ!」

驚き心配そうな表情で駆け寄ってくるアルヴィンに、手を前に伸ばしそれを止めた。

「私は部屋に戻りますわ。マリア、手を貸してくれる?」

「はい」

駆け寄るマリアに手を預け、アルヴィンとクララの前を通りすぎようとした。

「待ってくれ!フィオナ!」

叫ぶアルヴィンに向けられるフィオナの眼差しは、初めて顔を合わせた時の様に冷たく嫌悪の色を宿していた。

「陛下、側室なのか愛妾なのかはわかりませんが、どうぞごゆっくり語らいください」

「聞いてくれ!俺は側室も愛妾も持たない!これは、全貴族に宣言している事だ!」

「そうですか。では、あなたの叔父にあたるラッセル公爵は何故、娘に側室になれると話しているんでしょうね」

「それはわからない。だが、信じてくれ!俺は、ラッセル公爵令嬢を迎える事は絶対にない!」

そんな二人の会話に、無礼にもクララが割って入った。

「そんな!私はアル兄さまのお嫁さんになるのよ!お父様が言ってたもの!!子供が生まれたら、あの二人は夫婦ではなくなるからって!」

必死に訴えるクララの目は、まさに恋する女そのもの。

絶対に結婚できるのだという、確信さえ伺える。でなければ、この国で最も尊い二人の会話に堂々と割り込めるはずもない。


確かに初顔合わせの時に、ラッセル公爵も立ち会っていた。

だが、あそこでの会話は箝口令を敷いていたはずだ。

それは例え身内にであっても話してはいけない。


それを破ったラッセル公爵。


元々、娘に甘く調子のいい男であることは知っていた。だが、まさかここまで自分の地位に過信し、愚かだったとは。

アルヴィンはすぐさま騎士に、クララの拘束と側近にラッセル公爵の召還を指示。

喚き散らしながら連行されるクララを横目に、アルヴィンはフィオナの前に跪いた。

「不快な思いをさせてしまい、申し訳ない。あの女が色々言っていたが、全てあり得ない事だ。俺は側妃も愛妾も持たないし、候補もあげていない。これだけは信じてほしい」

その目はすがる様に必死で、嘘偽りない事だけはわかった。

だが、フィオナは彼の訴えには何も返すことなくその場を立ち去ろうとした。

背を向けるフィオナには、今アルヴィンがどんな表情をしているのか知る由もない。

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