第13話:死迫る綱渡り


 死んだ。

 目の前で。


 死んだ。

 跡形も残すことなく。


 死んだ。

 僕より経験豊富な人が。


 死んだ。死んだ。死んだ。


「う、うそ」

 

 ミヤビが声を絞り出す。


「まじかよ」

「あぁ・・・」


 それを皮切りに周りから声が漏れ出す。


「悲しむのはあと!今は自分の事だけを考えなさい!!」


 空気が澱む戦場をニアの声が切り裂く。

 アズールさんの血を払う黒き絶望はセラたちのことを舐めまわすかのように赤い眼でみていた。まるで品定めをするかのように。


 動かないといけない。この場にいる下位戦士の皆そう思っている。

 しかし。


「身体が動かない・・・」


 まるであの黒い甲虫に地面と縫い付けられたかのようである。

 眼を動かし周囲を確認する。

 僕同じ下位戦士は誰一人その場から動けていなかった。

 このままじゃ・・・


 確実に近づく死に冷や汗が止まらない。

 

 そんな彼らの頭上から白い炎で形成された羽が舞い散る。

 その羽は彼らの周りを舞い、固まった身体を溶かす。


「これで動けるはずです!」


 ニアが叫ぶ。

 いつの間にか彼女の翼は今までの二倍ほどの大きさになっていた。

(どれだけ権能を使いこなせばあそこまでの大きさに・・・)

 セラは思わず心の中で呟く。

 彼女の言葉通り彼らの足は自由となり、各々臨戦態勢に入る。

 

「皆の端末に俺の!」


 リューネは声をあげると手の甲からホログラムが映し出され操作を始める。

 直後セラたちが着けている無線機から半透明のゴーグルが現れ視界に入る。そこには光の線がいくつも映っていた。


「この光の線が力の動きだ!」


 そうリューネは、彼らが見る全ての光景に自身の権能を付与させた。

 

 ヤツが動く。


 鎌に付いた血を払い。

 ヤツから発生する全ての音が消える。

 しかし、リューネの権能で力の線で追う。

 セラの裏に回った甲虫を権能の黒い球で弾く。

 

 動くたびに音が消える。まるで権能を使っているかのように。


「皆さん!恐らく発生する音を消す権能です!リューネさんの権能で対応してください!」


 ニアが言った通り。0級は星壊エネルギーを完全に操る個体。そんな奴らがアークを介して星壊エネルギーを操り権能を行使する我々と同じことができても何ら不思議ではない。

 対権能には権能をぶつける。

 この時の相性で戦場を有利に進められるかが決まる。

 今回は眼の権能を持つリューネがヤツにとっての天敵となった。


 音を消した奇襲も眼の力を頼りに対応する。

 しかし、元々が高速移動なため一瞬の判断の過ちが死を運ぶ、この状況は変わらない。まさに、力の線を頼りに生と死を分かつ綱渡りを常に行っているようなものである。


「はぁ、はぁ」


 リューネの息が上がり始める。それもそうだろう。彼は今、普段の何倍ものの権能で得る負荷を受け続けているのだから。アズールが死に際に放った祝福が無ければとうにぶっ倒れているだろう。

 

 彼が潰れれば我々に勝利、いや生きて帰ることはできない。

 皆の共通認識であった。

 それまでにヤツをどうにかしなければならない。


 彼らも、ただ避け、逃げているわけではなかった。

 すれ違うたび、接触する際に少しずつではあるが手持ちの武器、権能でダメージを与えていた。


 ヤツが体勢を一瞬崩す。

 その隙を逃さまいと、セラとアインが突っ込む。


「「砕け散れ!!!」」


 加速の権能を乗せたアインの拳、権能で創造したセラの渾身の槍がクリティカルヒットする。

 ヤツは自慢の甲殻が砕ける音共に瓦礫に吹き飛び、打ち付けられた。

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